連載 第14話:『GENEI.WAGAN』店主 入江瑛起さんが通う店
料理人から料理人へ、バトンを受け継いでとっておきの一軒を追う連載【腕利き料理人が通ううまい店】。
代官山のイタリアンレストラン『ARMONICO(アルモニコ)』のオーナーシェフ、佐々木泰広さんからバトンを受け継いだのは、広尾『GENEI.WAGAN』のオーナー入江瑛起さん。『GENEI.WAGAN』は、完全紹介・会員制でラーメン会席フルコースが楽しめるという他に類を見ないスタイル。その話題性だけでなく、自家製醤油や麺のおいしさも秀逸で、200回以上通うリピーターも。オリジナルの展開を繰り広げる入江さんがイチオシなのが、今回の店。どうやら「魚の天才」がいるそう…。
では、ここからは入江さん自らに語っていただきます!
地下にあるこぢんまりとした和空間。店主との距離感がちょうどいい
東京メトロ銀座線や日比谷線、丸ノ内線の銀座駅から徒歩5分程度、飲食店ビルの地下一階に『割烹 智映』はあります。のれんをくぐり格子戸を開けると、白木のカウンターが。ほか、4席ほどの個室もあります。
迎えたくれたのは、店主の北山智映さん。あるテレビ番組で共演したのが、知り合ったきっかけです。なんか自由でね。初対面なのに楽しく話しているかと思えば、現場ではクッと目が変わって職人になる。スイッチが入ったなって。料理の話をしだすと内容が深い。魚料理の天才でありながら、弛まぬ努力をしているのがわかります。
『割烹 智映』の料理は、おまかせコース。料理はその日の仕入れや、仕込み状況によって毎日変化していきます。今回は、その中から至極の料理を3品、ご紹介します!
第3位:「香箱蟹」
まずは前菜の一品。豪華な香箱蟹です。蟹の身だけでなく、さまざまな素材が重ねられていて、最後にオレンジ色のパウダーがかかり鮮やか。ワクワクしますね。
▲︎蟹の身、外子、内子をそれぞれ丁寧に仕込み、一皿にまとめていく
複雑な重なり。内容は智映さんに説明してもらいましょう。
「蟹は茹でて一晩冷蔵庫で寝かせて、お出しする前に常温に戻します。その上に外子の酢醤油漬け、水牛のリコッタチーズ、紫蘇の実の塩漬けを重ねて、仕上げに内子の味噌漬パウダーをかけます」(智映さん)。
蟹の香りとうまみが最大限に引き出されています。さらに、いろいろなテクスチャー、香り、舌先から喉に到達するまで変化していく風味…、とてもおいしい。チーズがまたいいね。
「蟹はクリーム系と相性がいい。いろいろ探して、北海道のリコッタチーズにたどり着きました」と智映さん。
魚愛が生む組み合わせとバランス力! どこまでも探究心が止まらない、ド変態級のこだわりです。あ、これ、褒め言葉ね。
第2位:「本日の椀物」
先附、前菜に続いて出てくる椀物。今日は帆立の真丈(しんじょ)に季節の野菜を合わせています。透き通った出汁が美しい。
▲︎提供する寸前、昆布出汁に鰹節を少しくぐらせ、真丈や野菜と合わせる
ふんわりとやさしい出汁の香り。鰹節が前に出すぎないように、基本は昆布出汁を使っているそう。今日の野菜は何かな?
「今日はほうれん草とあやめ雪かぶ。生産者さんからおすすめいただいた旬の野菜を使っています」と智映さん。
野菜にもこだわりを感じます。
「ふぁ~っ」と息をつくやわらかさ。そしてスッキリとする瞬間が訪れます。その正体は奥に隠された梅干し! 帆立の真丈を崩しながら食べていくと、梅の香りと重なって旨味が増し、最後はしっかりお腹におさまる感じ。滋味深いですね。
第1位:「魚の焼物」
最後は、コースの終盤で出てくる焼物。今日は、春の鰆(さわら)です。肉厚で香ばしく焼かれた皮目もいい。シンプルながら食欲をそそります。
▲︎焼台で皮目を焼き上げ、山椒の葉で彩りと香りを添える
「鰆は焼き方にコツがあります。ひっくり返さずまわりを焼きつける感じ。魚の旨味を逃さないようにして保湿を大切にします」と智映さん。
鰆に合わせて出してくれたのは、富山『富美菊酒造』の「羽根屋 純米吟醸 Classic」。『割烹 智映』の酒は、料理に合わせて変わっていきます。ほかに焼酎などもありますが、持ち込みもOK。料理屋なのでドリンクの持ち込み料金は無料。2回目以降のお客様は『割烹 智映』の料理に合いそうなワインや日本酒を持参するそう。
主役の鰆は、皮がパリッとして、身はふわっとしっとり。口の中でほどけていきます。鰆に添えられているのは山牛蒡(やまごぼう)の酢漬け。独特の香りと引き締まった風味で、それぞれを引き立てています。
「この山牛蒡がいいのよ」と智映さん。「秋田から仕入れ、酢、醤油、みりんで漬けただけ」と智映さんは言うけれど、牛蒡の食感と香りが最高で、脂ののった鰆にぴったり。
そうそう、最後に出てくる卵焼きが、これまた新食感! 濃厚なカスタードのような口溶けで、まわりの胡麻と山ぐるみの香りもいい。これはスイーツですね。気になる人はぜひお店へ!
魚の話をしだすと子どもみたいにワクワク、キラキラした表情になる智映さん。照れくさそうに「根はすごいまじめなんだよ」って。もちろんわかっています。感受性豊かに創り出す料理に、その真摯な姿勢が表れていますから。
ごちそうさま。また今度ゆっくり食べにきます!
【編集後記】
息の合った会話を目にし、お二人は長年の友人かと思ったら、知り合って1年弱というから驚き。職人は、信頼できる“料理人”を見分ける力も図抜けています。そして智映さんの魚愛は、言うに及ばず。香箱蟹の調和、鰆の身の繊細さなど、どれも感動のおいしさでした!
撮影:千々岩友美
【メニュー】
おまかせコース 16,000円~
ドリンク(ビール、焼酎、日本酒など) 1,000円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格は税込、サービス料別です。