小学生時代からキッチンに立ち、中学時代にはお弁当も自作
食べることが大好きだった少年が、自らキッチンに立つようになったのは小学校5年生のころ。
「早くに母を亡くしたので自分で料理するようになったんですけど、次第に、どうしたらおいしく作れるのかを考えることが楽しくなりました」。
そう話すのは、2018年3月に東京・清澄白河にオープンした『O2(オーツー)』オーナーシェフの大津光太郎さん。
「父が仕事で忙しかったこともあって、中学時代にはお弁当も自分で作っていましたね」と当時を振り返る。
「自分がおいしいと自信を持てるものじゃないと、人にはふるまえない」
高校時代にも料理熱は冷めることなく、卒業後は調理の専門学校に入学。
そのころはフレンチへの憧れが強かったが、あるとき調理実習でフレンチにチャレンジしたところ、どうも自らの味に納得いかず、方向転換することに。
「やっぱり自分がおいしいと思うものじゃないと、人にふるまいたくないと思って」と、当時からお客のことを第一に考える大津さんの姿勢が垣間見える。
影響を受けたのは、中華なのにフレンチのようなスタイルを極めている脇屋シェフ
選んだのは中華。
専門学生時代に図書館で出逢って影響を受けた『新しい中華のおかず』(主婦と生活社)の著者であり、実習で直接教わる機会にも恵まれた脇屋友詞氏のもと、『トゥーランドット 臥龍居 (Turandot 臥龍居 )』で修業することとなった。
「もともとフレンチをやりたかったこともあって、中華でありながらフレンチのようなスタイルを極めているところに惹かれたんです」(大津さん)。
働き始めてからは覚えることもやることも多くて大変だったが、大規模なイベントや他店のシェフとのコラボなど、有名店でなければできない非日常も経験させてもらえたことで、「料理人としての幅が広がった」と大津さん。
しかし自らが目指したのは、地域の人に愛される店。念願だった自身の店を開いたのは、生まれ育った東京・清澄白河(深川)だった。
▲店内は大津さんが大ファンだという某SF作品 のグッズで彩られている
自家製カラスミを贅沢に使った春らしい一品
コースは、季節の食材を使った前菜(写真下)からスタート。
春の風物詩、菜の花は、ボイルして叩いた後、塩と太白ゴマ油で味付け。ボイルした水ダコと特製醤油ダレをかけたら、さらに太白ゴマ油と生姜とともに熱したネギをトッピング。
プレートいっぱいに散らしているのは、昨年末に作ったという自家製のカラスミだ。
菜の花の心地よい苦みと水ダコのうまみ、太白ゴマ油の香ばしさが三位一体となって口中に広がり、のっけから食欲が増進。プレートに散りばめられたカラスミをアクセントにしても、異なる味わいを楽しめる。
五感で楽しむアツアツできたてチャーシュー
どのコースでも必ず序盤に供するのは、お店自慢のできたて「チャーシュー」(写真下)。
五香粉(ウーシャンフェン。シナモン、八角などの粉末を混ぜた調味料)や醤油、砂糖などを合わせた漬けダレに1週間じっくりと漬けこんで から火を入れたチャーシューは、スパイシーで豊かな味わい。
甘みと塩気のバランスも絶妙で、紹興酒がぐいぐい進みそう。
ソムリエが厳選したナチュールも合わせて愉しみたい
また、店には、同店ソムリエや友人のインポーターが厳選したナチュールをはじめとするワインもとりどりにそろっているので、メニューによって合わせるアルコールを変えていくのも粋である。
せいろで蒸すことでうまみを凝縮させる「牛ホホ煮込み」
もう一品、定番として出しているのが「牛ホホ煮込み」(写真下)。
八角やシナモンで味付けした牛ホホ肉を、醤油や砂糖、チキンスープで煮込み、仕上げに豆鼓(トウチ)のアクセントを効かせる、中国料理の基本的な調理法によって作るメニューだ。
下茹でで1時間、味を入れてから1時間煮込んだ後、せいろで蒸すこと1.5時間で完成。
蒸すことによって肉がボソボソせず、しっとりとした食感に仕上がっているうえ、うまみもギュッと凝縮。ナイフを入れるたび香りがふわっと立ち上がり、嗅覚まで満たされていく。
付け合わせのジャガイモは「インカのめざめ」を使い、牛乳とバターでローストしたシンプルな味わい。肉と合わせるのはもちろん、単独で芋そのものの味わいを堪能するのもおすすめだ。
美肌効果も期待できるフカヒレ姿煮は、1人前100gの堂々とした見栄え
「フカヒレは気仙沼のものだとどうしても高額なので、同等の質でありながらリーズナブルな業者を探し回りました。その中で気になったところに出向いて作業を見学させてもらい、『ここにだったら任せられる』という業者から取り寄せています」と大津さん。
皮付きのまま乾燥させたフカヒレ(原ビレ)から戻したヨシキリザメの尾びれは、1人分でたっぷり100g。
熱々のとろりとした状態で提供されるが、コラーゲン質たっぷりでみるみる固まっていく様を眺めていると、翌朝のお肌にうるおいを期待する女性も多いはず。
独特の歯ごたえを残しつつ、口の中で柔らかくほどけていくフカヒレを堪能すると同時に、一緒に運ばれてきた土鍋ご飯にフカヒレを煮込んだスープを絡めて、リゾットのようにいただくのも一興。
濃厚スープとからませて楽しむモチモチした食感は、〆の一皿としてぴったりだ。
石川県産のコシヒカリは、米屋を営む同級生の実家から仕入れたもの。
また、同じく清澄白河でワイナリーを営む『フジマル醸造所』のワインもそろえるなど、大津さんの地元愛が伝わってくるエピソードはたくさん。
▲オープン時に協力してくれた方々の名前を刻んだプレート
「ありがたいことに、オープンから約1年経ちますが、多くの人に支えられて毎日充実した時間を過ごせています。今後もこの状態を保っていくことが理想です。これからも変わらず、いらしてくださるお客様を満足させられるお店でありたいですね」(大津さん)。
支えてくれる人への感謝の気持ちを忘れず、地元に還元し続けている大津さん。これからもおいしい料理で、たくさんの人を笑顔にしていくに違いない。
【メニュー】
5,000円コース(前菜3品、スープ、点心、魚、肉)
10,000円コース(5,000円コースの肉料理をフカヒレ姿煮に変えたもの)
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込みです。
撮影:倉持ますみ
CHINESE DINING O2 (オーツー)
- 電話番号
- 03-6458-8988
- 営業時間
- 18:00~24:00(L.O.23:00)
- 定休日
- 月、不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。