有名料理人やセレブリティでさえも予約困難な、香港の超“隠れ家”レストランが日本・西麻布に上陸
“世界一安いミシュランレストラン”と称される香港発の点心レストラン『ティム・ホー・ワン』(日比谷)、サンフランシスコ発の飲茶・点心レストラン『ダンプリングタイム 餃子時間』(渋谷)、ロンドンで人気の点心専門店『ヤウメイ(YAUMAY)』(丸の内)など、従来の中華料理のイメージを覆すニューウェーブ中華料理店が昨年から今年にかけて、続々と日本に初上陸している。
そんな中華料理の進化を象徴する注目店『CHOY CHOY KITCHEN(チョイ チョイ キッチン)』が2019年3月22日、西麻布にオープンした。
シェフは“香港の隠れ家レストランの女王”と呼ばれているグレース・チョイさん。自身のレストランが「CNN香港プライベートキッチン10選」に選ばれているほか、初出版のレシピ本が2019年の「グルマン世界料理本賞」を受賞するなど、香港で最も注目されているシェフの一人だ。
地元の著名シェフやセレブがお忍びで通う彼女のプライベートレストランは紹介制で、予約も困難なことで知られている。そんな彼女が日本に居を構え、紹介者無しでも予約可能なレストランをオープンするとあって、世界的に大きな注目を集めているのだ。
同店があるのは、六本木の喧騒を背に渋谷方面に10分ほど歩いた、西麻布の静かな路地。小さな看板がなければ見過ごしてしまいそうなさりげない佇まいは、まさに“隠れ家”。
店内はカウンター10席と4人掛けのテーブルが3卓の計22席。まぶしいほどに白く輝く大理石のシェフズカウンター奥はオープンキッチンで、どの席からもキッチンに立つシェフの姿が見える。
ルーツは、母と義母の作る伝統的な中国家庭料理
キッチンに立つグレース・チョイさんは、テレビの人気料理番組にも出演し、研究を重ねた珠玉のレシピを惜しげなく公開する気前のよさでも人気を集めている。そのFacebookぺージのファン数は50万人超えだという。
▲「グルマン世界料理本賞」を受賞した料理本
グレースさんの料理のルーツは、女手ひとつで6人もの子どもを育ててくれた母親の料理。
「すごく忙しかったはずなのに、私たちにはいつもすばらしくおいしい料理を作って食べさせてくれました。私もいつしか母のような料理を作りたいと思うようになり、12歳の頃にはもう、家族みんなに料理を作っていましたね」(グレースさん)
香港の大企業に勤務するも料理への情熱を断ち切れず、10年前、子どものころからの夢だったプライベート・シェフ(個人の専属シェフ)に転身。その後、紹介制で限られた人だけが入店を許される隠れ家レストラン『CHOY CHOY KITCHEN』をオープンすると、瞬く間に香港中の人気を集めるようになった。
高級中華料理にはフカヒレやツバメの巣などの高級食材が多く使われる一方、旬の感覚が薄いといわれている。しかし彼女の料理の特徴は、季節感が強く感じられること。それは、ルーツである家庭料理が、身近な旬食材を使って家族とともに祝う季節ごとの伝統行事を重視しているからである。
「私のレシピの多くは、オリジナルではなく多くの人が作り続けてきた伝統料理なのです」とグレースさんは語るが、そこに彼女の現代的なセンスが投影されていることが人気の理由なのだろう。
メニューは、おまかせコースのみ
『CHOY CHOY KITCHEN』には、アラカルトメニューはない。それは、グレースさんの料理のスタイルが、自ら早朝に市場へ出向き、旬食材から得られたインスピレーションで、その日のゲストのためにその日だけの料理を作るというものだからだ。
その日に何が出てくるか予測できないサプライズ感もまた、魅力のひとつといえる。
その中でも特に人気の高い代表的な料理を紹介しよう。
「私の料理は、毎日でも食べられる家庭の味です」とグレースさんは自身の料理を表現しているが、まさに毎日でも食べたいと感じる、滋味あふれる一皿が「Stewed Beef Brisket with Radish in Clear Soup(牛のブリスケットと大根の香港風スープ煮込み)」(写真上)だ。
日本の大根は中国のものよりやわらかく甘みも強いため、香港で作っていたものと同じ味にするために、何度も試行錯誤したという。
和牛のブリスケ(バラ肉)のうまみが溶け込んだ濃厚なスープに、八角や柑橘などがほんのり香り、味に多層的な深みを出している。
牛肉のうまみを存分に引き出したスープ、そのスープのうまみをたっぷり吸った大根、とろけるようにやわらかく煮込まれた牛肉。油分も塩味も控えめで、中国料理とは思えないほど穏やかな味わいであり、それゆえにすべてが完璧に調和している。
魚や鶏を丸ごと調理し、家族で分け合うのが中国伝統の家庭料理
日本では、肉や魚は切り身にされてパック詰めで売られていることがほとんど。だが中国では、一般家庭でも新鮮な鶏や魚を丸ごと市場で買って調理し、家族で分け合うのが伝統的なスタイル。
『CHOY CHOY KITCHEN』でもそうした料理が多く、人数に応じてとりわけ可能だが、2名以上の予約を推奨している。
「Traditional Steamed seasonal fish(伝統的な季節魚の蒸し料理)」(写真上)は、香港で1980年代の代表的な蒸し魚料理。香港ではハタを使うのが一般的だが、日本では入手が困難なため今回は鯛を使用。
醤油などでマリネした鯛に生姜やコリアンダーなどを乗せて蒸しあげ、仕上げに醤油と熱々の油をかけている。
写真上が1人分のとりわけ例。しっとりジューシーに仕上げられた鯛の身には味がしっかり染みこみ、熱々の油によってコクがプラスされている。あっさりしていながら、噛みしめるほどにうまみが湧き出すような奥深い味わい。
切り身だと食感が単調になりがちだが、まるごとをいただくことで、異なる部位の複雑な食感が味わえるのも楽しい。
シグニチャーメニュー、うまみ溢れる鶏の煮込み
香港のレストランでも絶賛されている一番人気メニューは、オリジナル醤油ソースに長時間浸しながらじっくり加熱する「Poached Soy Sauce Chicken(国産鶏の中華風醤油煮込み)」(写真上)
写真上が1人分のとりわけ例。シンプルながら研究に研究を重ねたというグレースさんの自信作のひとつで、うまみたっぷりのオリジナル醤油ソースが染みたホロホロにやわらかい鶏肉が絶品。
味わった人は誰でも「このソースをご飯にかけて食べたい」と熱望するに違いない。
▲レシピ本によると、醤油ソースの材料は醤油、生姜、ニンニク、ロゼワインなど身近なもののみ。研究を重ねたという配合においしさの秘密があるのだろう
新感覚のカシューナッツスープをデザートに
デザートの「Cashew Nuts Sweet Soup(カシューナッツの甘いスープ)」(写真上)は、運ばれてきた瞬間から、カシューナッツの甘く芳ばしい香りがふわっと広がる。
コクがあるのに軽く、サラサラと心地よく喉を通り過ぎ、体にいいものが染みわたっていく感覚。デザートに付き物の”罪悪感”は皆無だ。
「カシューナッツを丁寧にすりつぶし、水と、中国でよく使われるロックシュガー(写真上・右)を加え成分を壊さないように、中火でゆっくり火入れをしています」(グレースさん)。動物性の食材を使っていないのも、胃に負担がかからない軽さの理由だ。
「日本での出店は、私のセカンド・ドリーム」
香港で絶大な人気を誇るグレースさんが、東京で店を開く決意をした理由は2つある。ひとつは日本の季節感豊かな食材に魅了されたこと。もうひとつは、日本で味わう中華料理の多くが日本風にアレンジされていることを残念に感じていたためだ。
そこで季節感豊かな日本の食材を使いながら、日本風にローカライズされていないグレース流の料理で、中華料理の真髄を日本人に伝えたいと考えたという。
上海出身の母と香港出身の義母から受け継いだ中国伝統家庭料理のエッセンス、季節を感じる日本の食材、そして彼女の情熱、センスが融合した『CHOY CHOY KITCHEN』の料理が、日本の中華に大きな変革をもたらす予感がしてならない。
【メニュー】
コース 15,000円~
ワイン(グラス) 800円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。
CHOY CHOY KITCHEN(チョイチョイキッチン)
- 電話番号
- 03-6447-0252
- 営業時間
- 17:00~23:00(ドリンクL.O.22:00)※完全予約制
- 定休日
- 土曜、日曜、祝日(応相談)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。