酒旅目線で1泊したい街「小樽」 【酒旅ライター・岩瀬大二】
酒旅ライターとして全国を回っていると、「もったいないなあ」と思うことがあって、そのひとつが「この街を日帰りで終えるのか」というものだ。
だいたい、このもったいない日帰りスポットというのは共通点がある。昼の観光は大いににぎわう。老若男女という言い方はちょっと古くなるが、高齢の方のバスツアーから、女子高校生のお友達旅までが楽しめる健全な観光スポットが多い。そして宿泊施設が少ない(というイメージがあり)、その分、近隣に大きな街があり夜はそこで過ごし宿泊する。それだけ昼は魅力的ということではあるが、その分、その街の夜や、ちゃんとした酒には光が当たりづらい。
関東で身近な場所で言えば鎌倉だ。昼の賑わいや、数々の観光スポットはご存知のことだろう。しかし、17時を過ぎればさーっと人並みは引く。夜の目的地は横浜や東京だ。しかし、酒旅好きなら知っているだろう。鎌倉の夕方から夜も、うまい酒、うまい料理の店は多い。古い建物を生かしたオーセンティックなバーや、湘南エリアらしい開放的なバーもある。鎌倉野菜を使った料理とワインの店も魅力だ。なにせ、この鎌倉には地元の人が育んできた文化がある。山側、海側それぞれに東京の人間も憧れてきた文化があり、文化があればもちろんいい酒場がある。
全国を見渡すと奈良もそのひとつ。奈良に宿泊してもらおうと行政をあげて観光キャンペーンを張っているぐらいだから深刻だろう。こちらも鎌倉同様、昼の賑わいや、古代のロマンは言わずとも。しかし、こちらも大阪や京都へのアクセスがよく、奈良の夜にはあまり魅力を感じていただけないらしい。奈良と言えば多彩な個性を持つ酒蔵もあり、酒蔵があればいい酒場も多彩。しかも鎌倉とは違ってこちらには宿泊施設も多い。日帰りではもったいない。ゆったり飲んで、はしごもできて。ぜひとも足を止めて夜を過ごしていただきたい場所だ。
「小樽の夜」を体験しないのはもったいない!
ということで今回の舞台は「小樽」。鎌倉、奈良とくればやはりここか、と思われる方も多いだろう。問題は同様だ。だいたい、北海道の距離感というのは旅慣れていない人にはつかみづらいらしく、2泊3日の旅程では回り切れない場所を組み込んだりしてしまう。よくできた観光ツアーでもリクエストにこたえる形で一つの場所にとどまる時間は少ない。そして宿泊といえば札幌となる。
小樽は昼に楽しむ場所。そういうイメージができてしまうのも仕方のないことで、せいぜい運河の夕景を見て、札幌へ足ばやに向かうというのがぎりぎりの行程だろう。ガラスにオルゴールに昼の寿司。そのあたりが定番で、酒は札幌で。もちろん札幌の酒場レベルは質量ともに素晴らしいものなのでぜひとも堪能していただきたいが、酒旅目線で言えば、小樽の夜を体験しないのはもったいない。
小樽には運河沿いに雰囲気のあるホテルもあるし、じっくりと腰を据えて楽しむことができる場所なのだ。ということで酒旅ライター的な小樽1泊2日プランを提案させていただこう。
地元に根づいた『オサワイナリー』の魅力
ざっと全体の旅程を2泊3日として、まずは札幌でゆっくりと酒場を堪能していただき、翌日ゆっくり目覚めて、昼ごろ着を目指して進路を西に取っていただこう。ランチは、軽めに寿司などを食べてから(満腹は、舌にも内臓にも酒の敵だ)、こちらに向かっていただこう。
『オサワイナリー』(写真上)。小樽運河からなら少し坂を上がり、いわゆる「小樽 寿司屋通り」あたりからなら少し下る場所にある。畑は小樽市内の別のところや近隣の余市にあるが、こちらには醸造所と2階にショップとテイスティングバーがある。
昔ながらの小樽の石造りの建物をおしゃれにリノベーション。その中で、オーナーの話を聞きながらワイングラスを傾ける時間は格別だ。
栽培と醸造を自ら手掛けるオーナーは、長(おさ) 直樹さんと真子さんのご夫婦。もともとソムリエやワイン商社の仕事をしながら、いつか自分の理想のワインを造りたいと夢見て来られたお二人。その理想のワインは同時に、もっと身近に、ワインの楽しさを伝えていけるものでもあると言う。コンセプトは「幸せのワイン」だ。
旅先のイタリアで目覚めたワインを造りたいという欲求が最初だったというが、その後、最適な土地を求め全国各地を回り出逢ったのが小樽。そして、2015年に創業。ワインを囲んでみんなが幸せな気持ちになれるようなワイン造りを目指すという通り、テイスティングをすると旅の疲れがすーっと抜けていき、改めて旅の喜びが満ちてくる。
最初に飲んでもらいたいのはスパークリングワイン。旅にふさわしく「旅路」というぶどう品種を使った「Tabi Sparkling」という。繊細さと溌剌さが、和柑橘の爽やかさ、ほろ苦さと共に体にしみこんでいく。この「旅路」というぶどうは小樽発祥とされるもの。こういう地物との出逢いがまたうれしい。
続いては、「O(オー) 2017」(写真上)をおススメしたい。こちらは『オサワイナリー』の定番辛口白ワイン。ぶどうは余市町『じきの畑』の「デラウエア」が主体で、「旅路」をブレンド。デラウエアは、生食用でも人気があったことから、日本人にとっては懐かしく、親しみやすさがあるぶどうで、これと「旅路」のもつ和のハーブや柑橘のニュアンス、アクセントもまた、日本人にはすっとはいってくる。きれいな酸が鮮烈だがどこか心優しい。
エチケットに書かれた「della casa」とはイタリア語で「家のようにくつろいで」という意味。長さんによれば「家庭料理全般に合う懐の広さ、飲み疲れしない味わいを目指しました」とのこと。
午後のゆるやかな時間に、慎ましやかで柔らかなワイン。酒旅というと、どんどん飲んで食べてという多少ワイルドな感じにも聞こえるが、こうした時間もまた、酒旅の喜びなのだ。
OSA WINERY(オサ ワイナリー) /ショップ&テイスティングバー
- 住所
- 〒047-0031 北海道小樽市色内1-6-4 OSA WINERY2F
- 電話番号
- 0134-61-1955
- 営業時間
- 13:00~19:00
- 定休日
- 月・火・水・木・日
- 公式サイト
- http://osawinery.com/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
ビール文化をしっくり堪能!『小樽ビール・小樽倉庫No.1』
ワインの午後、夕方は早めからビールといこう。おススメは運河の風景を借景にできる『小樽ビール・小樽倉庫No.1』(写真上)。
本場ドイツのビアパブを感じさせる吹き抜けの大箱で、醸造設備(写真上)を席から見ることもできる。ビールは、ドイツ伝統の正統派をここで仕込んだもの。ちなみに吹き抜けの中央にある仕込み釜は飾り物ではなく、現役。単純にドイツを模倣したわけではなく、小樽運河というロケーション、ビール文化がしっかりしている北海道で、ドイツの神髄を持ってきたというのが好感が持てる。
なにより……うまい。そして開放感がたまらない。フードも充実。この日は小樽運河に雪が舞う幻想的な夕暮れだったが、春、夏、秋と違う借景になるのもいい。
小樽倉庫No.1
- 住所
- 〒047-0007 北海道小樽市港町5-4
- 電話番号
- 0134-21-2323
- 営業時間
- 11:00~23:00
- 定休日
- 無
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
港町・小樽こその「バー」との出逢いも!
この夕方から夜の時間をリラックスできるのも1泊するという余裕から。そして1泊の楽しみはここからの「パトロール」だろう。観光都市・小樽であれば昼の寿司のイメージが強いだろうが、港町・小樽と考えれば、もちろんいいバーが存在する。
ちょっと路地裏に入ってみよう。写真上のように、庶民的な赤提灯の隣に小さな看板を出しているバー。その佇まいで、自然に吸い寄せられるような錯覚。気軽にドアを開ければ、いい出逢いがある。
近隣に余市がある小樽。ニッカウヰスキーの余市蒸留所のデッドストックの酒に出逢う幸運もある。実は、この日、そんな酒が、ひとつやふたつではなく……。
また、その時、昼にはどこにいたんだろうという外国人客が来店。どうやらスキーを楽しみに来た人たちで、この雰囲気もある意味の借景だった。ここでは店名は書かないが、ぜひ、自分に感性にあったいいバーを見つけてほしい。
余市のニッカ蒸留所も見どころのひとつ!
さて、ゆっくりめにホテルで朝を迎えたら、小樽から少し足を延ばしてみよう。行先は余市だ。夜のバーでもあげた、ニッカの蒸留所でも、注目されているワイナリーのいくつかでもいい。
この余市。札幌からだと小樽より先ということで日帰りだと効率がよくない。小樽から先は列車の本数が極端に減ることもマイナス材料。それが小樽からならバスで30分ほど、また列車も時間を合わせやすい。酒好きなら一度は訪れてほしいニッカの蒸留所。
夏の青空、冬の白銀。柔らかい空気、凛とした空気、どちらの時期もいい。ここでしか飲めない限定蒸留モノを堪能しよう。ゆったり飲むことができるレストランはお味の方も優秀だ。帰りは小樽からダイレクトで新千歳空港へ。少し夢心地のうちに、もう北の玄関口に着く。
日帰りが当然と思われていた場所で1泊すれば、酒場旅が堪能できる。小樽、鎌倉、奈良……、まだまだ面白い場所はある。ぜひ、楽しんでいただきたい。
写真提供元:PIXTA(一部)
余市蒸留所
- 住所
- 〒046-0003 北海道余市郡余市町黒川町7-6
- 電話番号
- 0135-23-3131
- 営業時間
- 9:15~17:00
- 定休日
- 無
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。