平熱よりちょっと高めの温かい気持ちで
「ビストロとレストランの中間。高級レストランに行きたいけど、なかなか難しいと感じている人たちの入口として使って欲しい」。
こう話すのは『36.5℃ kitchen(サンジュウロクドゴブキッチン)』オーナーシェフの宮本 岳(がく)さんだ。
こちらの店がオープンしたのは、今から5年前の2014年10月。東京・代々木上原の駅前ビル地下階という、駅近ながらまるで隠れ家のような同店には、界隈に住む食通たちが夜な夜な集う。
36.5℃という店名には、「人の体温より少し温かい気持ちで来て欲しい」という想いと、「1年365日、気軽に使ってほしい」という2つの想いが込められている。
店内はいたってシンプルな造り。モルタルの床に、余計な装飾を排した壁面。テーブルには木材を使用しながらも、カウンターの天板はステンレスで設計されている。
「たまに料理教室を開くこともあり、そうしたイベントに対応できるよう、カウンターとキッチンをシームレスに仕上げ、作業しやすいようステンレスにしました。この空間を飲食店としてだけでなく、“食”を発信するスペースにもしたいんです」と宮本さん。
無機質で冷たい印象を与えるステンレスも、宮本さんがキッチンに立つことで、おしゃれで温かな雰囲気へと変貌する。
仕切るのは、温かな人柄を持った敏腕シェフ
宮本さんは、北海道旭川市の出身。18歳で料理人を目指して上京し調理師専門学校に通った後、フランスで1年修業を積む。帰国後、都内にある『ミシュランガイド』で一つ星評価のレストランで研鑽を積み、調理師学校で6年間講師を勤めたのちに独立を果たした。
宮本さんの温かな人柄も同店の魅力である。そんな宮本さんと話しながら、本格的な料理をカジュアルに楽しめる点こそ、多くのファンが生まれる理由だ。
地元・北海道の旬食材を中心に楽しめる珠玉の一皿
宮本さんが手がける料理は、フレンチが基本。コースもあるが、アラカルトで好きなものを堪能していくのがおすすめ。
さっそく、宮本さんの地元・北海道食材などを使った、珠玉のフレンチをご紹介しよう。
まずはアンティパストの「鶏のレバーパテ」(写真上)。「レバーが苦手な人でも食べられる」と評判の一品は、盛り付けもアートのようだ。
鶏レバーをルビーポート(酒精強化ワインの一種)やバターと一緒に煮詰め、ペースト状にする調理法は、フランスのレストランで習得したレシピ。
通常のレバーペーストは生クリームで滑らかにするが、生クリームを使わないことでねっとりと濃厚な、バターペーストのような口当たりに仕上がる。ペアリングには重ための赤ワインがおすすめだ。
続いて、季節ごとにフルーツを変えるカプレーゼは、同店を代表する料理の一つ。
冬場には、柿を使った「柿とモッツァレラのカプレーゼ」(写真上)がお目見え。
柿はサクサクとした食感のものをセレクト。モッツァレラチーズ、刻んだローズマリーと和えて器に盛り、ブルーチーズの塩味を隠し味に加えた生クリームのソース、ハチミツを添える。
柿のさっぱりとした甘みに、モッツァレラチーズのミルク感が相性よく、ブルーチーズの塩味が全体をひとまとめにしてくれる。
イチジクやメロン、イチゴ、梨などの旬のフルーツと、それぞれにあったオリジナルソースで作るカプレーゼは通年提供。季節とともに変化する一皿が楽しめる。
おいしい食材をもっとおいしくする技術
サラダのおすすめは「砂肝とコンフィときの子のサラダ」(写真上)。
砂肝はサクッ、コリッとした食感を残すよう低温でソテー。エリンギと舞茸を炒めたところに、赤ワインビネガーとバルサミコ酢を加えて煮詰め、サラダのドレッシングとしている。
オリーブオイルと塩で和えた野菜を器に盛り、上から砂肝とキノコ、ドレッシングを回しかける。上に添えられているのは、薄く焼き上げたパルメザンチーズ。チーズの芳ばしさが、食感のアクセントとして機能している。
ドレッシングの酸味がきいたサラダは、キリッと冷えた白ワインや、軽めの赤ワインと一緒に味わうのがおすすめだ。
メインディッシュには「鴨の低温ロースト バルサミコソース」(写真上)を。
鴨は皮下脂肪が多いため、じっくりと脂を溶かし、皮がパリッとするまで火を入れる。皮目を焼いた後、オーブンで8分焼成し休ませるのが通常の工程だが、宮本さんはオーブンに3分入れ、休ませる工程を3~4回、肉の状態を見ながら繰り返す。
この惜しみない手間が、しっとりジューシーなやわらかさと鴨本来のおいしさを最大限に引き出す。ソースには濃厚なバルサミコソースを添えるが、まずは塩のみで鴨のうまみを感じてほしい。
「食材自体、高すぎるものは使いません。技術と手間をかけることで、値段以上においしく仕上がるんです」と宮本さん。
食材にコストをかけないことで価格も抑えられる。そこに宮本さんの技術が加わることで、高級食材に負けない一皿に仕上がるのだ。
計算されたうまみのバランス、常連を生むリゾット
「これだけを食べにいらっしゃる方もいます」と宮本さんが自信を持って紹介するのが、「北海道産昆布とフルーツトマトのリゾット」(写真上)。
米には北海道産の「ゆめぴりか」を用いる。刻んだ昆布と生クリームを合わせることで、生クリームに昆布のエキスを抽出。ベーコンやトマト、ご飯とともに軽く炊き、うまみを十分に吸わせる。
「昆布だけだとうまみが強く出すぎてしまい、重たく感じます。そこでトマトの酸味を加えることで軽く仕上げ、食べやすくしました」と宮本さん。
生クリームの濃厚さ、昆布由来のうまみを感じながらも、食後に適した軽さがあるため、食べて飲んだ後の2軒目としてリゾット目当てに来るお客がいるのも納得だ。
圧倒的な満足感で毎日通いたくなる
「2人のお客さまには器を分けて提供します。たとえばビストロで3,000円の肉料理を注文するのは躊躇しますよね。だからこそ、2人で一皿2,000円台の価格にし、食べてみたいと思ってもらえるようにしています」(宮本さん)。
今回紹介した料理はすべて一人前で、メニュー表価格の半額に相当。一皿ずつコースのようにオーダーしても、コストパフォーマンスの高さを感じられるに違いない。
また、ランチではカレーやガパオなどを提供。フレンチ仕立てのカレーは、近隣で働く人たちにも人気だという。
心も身体も満足する『36.5℃ kitchen』、ぜひ大切な人を連れて行きたい一軒だ。
【メニュー】
鶏のレバーパテ 800円
柿とモッツァレラのカプレーゼ 1,200円
砂肝のコンフィときの子のサラダ 1,100円
鴨の低温ロースト バルサミコソース 1,980円
北海道産昆布とフルーツトマトのリゾット 1,200円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
36.5℃ Kitchen(サンジュウロクドゴブ キッチン)
- 電話番号
- 03-5453-7002
- 営業時間
- ランチ 火曜〜金曜12:00〜14:30、ディナー 月曜〜土曜18:00〜24:00
- 定休日
- 毎週日曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。