「今夜飲みにこない?」と気軽に友人を招けるお店を出したかった
「うちは1品だけの注文でも、ワインだけ飲みに来てくれるのでも大歓迎です」。
笑顔でそう話すのは、2018年5月に東京・神楽坂にオープンしたビストロ『BISITO(ビジト)』のオーナーシェフ伊藤洋平さん。
都内の高級フレンチやフランスの『ミシュランガイド パリ』に掲載されたレストランで修業を重ねてきた中で、肩肘張らずに「ちょっと飲みにおいでよ」と気軽に友人を招けるお店を出したいとの想いが強くなったという。
伊藤さんが料理の道に進むと決めたのは高校卒業後。地元の福島県で洋食店を営んでいた父親のすすめでこの道に入り、東京・芝公園の『THE CRESCENT(クレッセント)』、たまプラーザ『LES SENS(レ・サンス)』、東大前『Le Lys dans la vallee(ル・リス・ダン・ラ・バレ)』(現在は閉店)を経て渡仏したのが27歳のときだという。
フランス滞在はそこから約4年におよぶ。
最初に働いたのは、南フランス・ニース近くのル・ルレにある『Le Clos Saint-Pierre(ル・クロ・サン=ピエール)』。
この店で半年ほど研鑽を積んだ後、地中海リゾートの街、南仏ニースの『Kei’s Passion(現在の『KEISUKE MATSUSHIMA』)』、スペイン国境近くのワイン産地で知られるジュランソンの『Restaurant Chez Ruffet(シェ・ルフェ)』で腕を磨き、帰国してから独立までの間は、飯田橋のスペイン料理店『Comedor El camino(コメドール・エル・カミーノ)』で7年間腕をふるい、広くさまざまな郷土料理を学んだ。
「おまかせコース」は約4品で5,000円から
『BISITO』では、伊藤さんが得意とするニース料理だけでなく、王道のフレンチをはじめとした幅広い調理法の料理を楽しめる。
「おまかせコース」は4品程度で5,000円からととてもリーズナブルだが、アラカルトも充実しているので、その日のおすすめを聞きながら一品一品チョイスするのも楽しい。
マッシュルームを生のままいただけるレアな一皿
まずは、アラカルトの中でもイチオシの一品から紹介していこう。
前菜としてもぴったりな「岩手県八幡平(はちまんたい)の生のマッシュルーム」(写真上)は、鮮度抜群のブラウンマッシュルームとホワイトマッシュルームを生でたっぷりといただける一皿だ。
きのこそのものの魅力を堪能できるよう、味付けはオリーブオイルと塩、ビネガーのみ。アクセントには、自家製のラルド(豚の背油を塩漬けしたもの)が添えられている。
岩手県の伏流水(ふくりゅうすい・水質の良い地下水の一種)と地熱を活用した『ジオファーム・八幡平』育ちのマッシュルームは、肉厚で香り豊か。
まずは単独で口にすると、鼻から抜ける馥郁(ふくいく)たる香りが何とも心地よく、プリプリの食感もクセになりそうだ。自家製ラルドと一緒に口に運ぶと、肉のうまみと相まって塩気もベストバランス。
みんなでシェアするのもいいが、独り占めしても最後まで飽きずに食べられそう。
広島県三原産のタコはうまみたっぷりで上品な味わい
魚介好きならぜひ試してほしいのが、「広島県三原市のマダコのカリカリ焼き」(写真上)。
「このサイズが一番おいしいから」との理由で1.5~1.8kgで指定して取り寄せたタコを塩茹でしてやわらかくした後、フライパンを使って強めの火力で表面をパリッと焼き、香ばしさを引き出した一品だ。
「タコは産地によって全然味が違うんですよ」という伊藤さんによると、三原のタコは上品な味わい。「以前は金沢のものを使っていたんですけど、金沢のタコは荒波に揉まれた力強さを感じる味わいでした。上品な味わいの三原のタコに出逢って、これだ、と思ったんです」。
確かに、ひと噛みしただけでわかる繊細さと、口の中に広がる品の良いうまみは格別。表面のサックリとした食感と中心のやわらかさとの対比も心地よく、ワイン片手にいつまでもこのうまみに酔いしれていたいという気持ちにさせられる。
下に敷いたラタトゥイユには旬の野菜がたっぷり使われているので、これ一品でもバランスよく栄養を摂取できるのもうれしいところ。
ちなみに、ラタトゥイユに使われている野菜は、店舗近隣の八百屋『神楽坂野菜計画』や『神楽坂 八百屋瑞花』で仕入れたもの。無農薬や低農薬のものが中心の、身体にもやさしい旬野菜だ。
コラーゲン豊富な希少部位にゆっくり火を入れたワイン煮込み
その日のメニューに掲載されていたらぜひ頼んでほしいのは、「希少部位、和牛千本筋の赤ワイン煮込み」(写真下)。牛1頭につき2本しかとれないという牛の太もも部分の肉は、低温で5~6時間じっくりと煮込んでやわらかく仕上げる。
赤身が多い部位とは違ってゼラチン質が豊富なので、丁寧に煮込むとパサつかずねっとりとした食感になるのが特徴的。
赤ワインと野菜を煮詰めたソースはやさしい甘さで、口の中でほろほろとほどけていく肉の内部まで、うまみを凝縮させてくれている。
隣に添えられたポテトは、でんぷんが一気に糖に変わらないよう、90℃以下で2~3時間かけてゆっくり火を通すことで甘みやほくほく感を最大限引き出したもの。
オリーブオイルと塩を使ったマッシュポテトに仕上げられているため、バターを使ったもののように重たくなく、芳ばしい香りも楽しめる。
白ワインに合わせるために考案された魚料理
白ワインに合う料理をお求めなら、断然おすすめは「本マスの低温調理」(写真上)。
45℃以下で1時間ゆっくりと熱を入れた本マスにバターソースを合わせたこの料理は、同店の過去のイベントにおいて、「(特定の)白ワインに合わせた料理を作ろう」とのコンセプトのもと生まれたのだとか。
そのときに選ばれたワインに使用されていたブドウの品種は「シュナン・ブラン」。フルーティーな香りに、ハニーやナッツのようなフレーバーも感じさせるリッチな味わいで、濃厚なバターソースと相性がいい。
イベント時とまったく同じワインは用意がない日もあるが、同じブドウを使って作られたワインとともにオーダーするのもオツである。
バターソースは、炒めたエシャロットとワインビネガー等を使った酸味ががった味わいが特徴。
この日は旬の菜の花が下に敷かれていたが、えぐみがおいしい春野菜とも相性がいいソースで、バターがベースでありながらさっぱりとした口当たりだ。
また、料理との相性を考えながら仕入れているワインは、通も驚くほど上質なものぞろい。
「本日のグラスワイン」として赤、白、ロゼともに900円から用意している他、ワインリストには珍しい一品が並ぶ上、スペインの蒸留酒なども楽しめる。
「ニース料理が食べられるお店と紹介していただくことが多いんですけど、それだけじゃなくフレンチのいろんな魅力を楽しんでほしいです」との伊藤さんの言葉通り、食材の合わせ方も調理法もさまざまに堪能できるのが同店の醍醐味。
しかも、「おめかししてコースでいただくフレンチ」ではなく、その日の気分で食べたいものを自由に選べるのがうれしい。
また、「気軽に訪れてほしい」との想いから用意しているペット同伴OKのテラス席は、神楽坂近辺に在住の外国人にも人気。音楽を聴きながらふらっと訪れて、ひとりで食事を楽しんでいく人も多いのだとか。
めいめいが自分なりのスタイルで食事を楽しめる『BISITO』なら、誰もがフレンチの新たな楽しみ方に出逢えること間違いなしだ。
撮影:山本昌志
【メニュー】
・岩手県八幡平(はちまんたい)の生のマッシュルーム 1,200円
・広島県三原市のマダコのカリカリ焼き 1,850円
・希少部位、和牛千本筋の赤ワイン煮込み 3,000円
・本マスの低温調理 2,500円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
BISITO(ビジト)
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