熟練職人による、あの「お好み焼き」がふたたび
伝説のお好み焼き職人・長岡作茂(さくも)。
お好み焼きひとすじ30年、地元神戸にてお好み焼き屋『作作(さくさく)』、その後上京し西麻布にて隠れ家鉄板焼き『Nagaoka Sakumo』(現在は閉店)を営み、著名美食家をはじめ、数々の食通に愛されてきた人物である。
『作作』では約20年間、神戸のソウルフード・お好み焼きを昔ながらの形で提供し、その味を求めて長い行列ができたほどであった。『Nagaoka Sakumo』では一転、神戸ソウルフードと東京流の洗練された味を融合させた鉄板焼きを隠れ家的に提供してきた。
その長岡さんが原点回帰。有終の美を飾るべく、また新たに暖簾を掲げた。『作作』時代の神戸お好み焼きを彷彿とさせる様々なお好み焼きが堪能できる店である。その名も『ながおかのおっさん』。
一度聞くと忘れないこの店名からは、実家に帰ってきたような気持ちで和んで欲しい、疲れた時におっさんと話して癒されて欲しいという温かな思いを感じることができる。
『ながおかのおっさん』が位置するのは、東京メトロ日比谷線・広尾駅より徒歩5分の明治通り沿い。赤いポスト、レトロな外観にどこかホッとする。中に入ると、古民家のような温かな空間が広がる。中央に広々と配される鉄板沿いにカウンター10席、テーブルが20席、奥には6名用の個室を備える。
この内装を手掛けたのは、在日ハンガリー人アーティストであるゼレナク・シャンドル氏。長岡さんの人柄やお好み焼き屋にふさわしい、木目をベースとした温かみのある和の空間をつくり上げている。
▲店内に飾られるアートの数々もシャンドル氏自身がデザイン
眼前の鉄板を舞台に繰り広げられる「ながおか劇場」
同店では、お好み焼きを中心とした鉄板料理と豊富な一品料理を揃える。コースは3種類・3,500円、4,500円、6,500円と、予算に応じて選べるのが嬉しい。
今回はお好み焼きを中心に、魅惑の「ながおか劇場」をご紹介しよう。
お察しの通り、同店の特等席は鉄板前に並ぶカウンター。仕切りもないので、熱や香りがダイレクトに伝わり、そのライブ感だけでも十分に楽しめる。できたてアツアツのお好み焼きを、汗かきながら頬張るのもオツである。
まずは基本メニュー「ながおかのお好み焼」(写真上)。生地のベースである中力粉に八方だしを加え、キャベツと角切りのジャガイモ、こんにゃくなどを混ぜ込む。粉量は巷のお好み焼きの1/3程度にとどめ、ふんわり感を演出する山芋や水は使わない。最低限の素材から最高のうまみを引き出すのが、長岡さんのこだわりだ。
そこに、牛スジ肉や豚肉を加える。コテを自在に操りながら華麗に仕上げていく長岡さんの姿に浸れる至福のひとときである。生地を整えた状態でもふんわり感が十分伝わるほど優しくやわらかに、かつ小さめに焼き上げられていく。
一つのサイズが小さめなのは、色々な種類を楽しんでもらいたいからという長岡さんの配慮である。
シンプルに仕上げられた一品は、ソースの芳ばしい香りが立ちのぼり食欲を刺激する。アツアツを頬張ると、ふわっとした食感に驚く。空気を抱いた生地が非常になめらかで軽く、そこにジャガイモとこんにゃくの食感がいいアクセントとなっている。
すべての食材は、長岡さん自身に馴染みがあるものを使うのが信条だという。キャベツ等の野菜は特に、時期や産地によって水分量や味わいなどが変わってくるため、地元神戸に近い西日本側のものを多く使用している。その食材の水分量を見極め、粉の配合やキャベツの切り方を変えていく。
ソースは、地元神戸や大阪にあるソース屋の中から信頼できる3つを取り寄せてブレンドしている。上品な甘みやフルーティーさによって、お好み焼き全体のうまみを格段に引き上げている。
ここで長岡さんから「辛いものがお好きな方はぜひ付けてみて」と、オリジナルの辛みソースが手渡される。ピリッとした辛みが後を引くこのソース、聞けば山椒・ペペロンチーノスパイス・コブミカンの皮で構成されているという。
辛みは十分ありつつも、フルーティーさが優しい生地を引き立て、パンチのある味わいに昇華させてくれている。いいアクセントとして、すべてのお好み焼きに広がりを加えてくれる”あそび”だ。ただ、よほどの辛党以外の方は少しずつ使うように。
パリッパリからとろ~りまで、様々な食感を堪能し尽くす
続いて「ねぎ焼」(写真上)。先の「お好み焼き」とは打って変わって、広げた生地をコテの面で強く焼き付け、絶妙な焼き加減を愉しむ一品。ベースの小麦粉に、ネギ・天カス・カツオ節・豚肉が入っている。ちなみに豚肉は、牛スジ肉やシーフードにも代替可能だ。
パリッパリ&極薄に仕上げられたそれは、サクっと心地よい食感と、十二分に引き立てられた醤油と高知県産青ネギの芳ばしい香りが一度に楽しめる。
お好み焼きというよりつまみとして、お酒を合わせていただくのがおすすめだ。
自身の名を冠した「作焼き」(写真上)。関西でお馴染みのとん平焼きを長岡流にアレンジした一品である。薄く広げた玉子の上に自家製マヨネーズや牛スジ肉、ネギ等を乗せ、器用に包み込む。切ると中から半熟状態の玉子が溢れ出る様は、この上ない眼福である。
自家製マヨネーズには酢を使わず、さらに生クリームを隠し味として使用しているため、ほんのりと甘みもあり、スルスルと食べられる。
その他、長岡さんの大好物であるオニオングラタンスープから着想を得た「10時間焼」(写真上)も。タマネギの甘みを存分に引き出したお好み焼きである。お好み焼きという料理から様々なキャラクターをつくり上げる長岡さんのこだわりとクリエイティビティ、熟練の技術が光る一皿だ。
シメにおすすめなのが「作そば」(写真上)。食材は麺と白髪ネギのみ、シンプルに味付けされた焼きそばである。『作作』時代は自身で製麺していた経験も持つ長岡さん、使用する麺にはもちろん大きなこだわりを持つ。
「茹でた時に伸び縮みしないものを、油をくぐらせず生麺の状態で使っています」(長岡さん)
その麺を岩塩・藻塩・コショウで整え、仕上げに少量のポン酢をかけるのみ。唯一のトッピングとなる白髪ネギは、特有の辛みを活かすために、その日に切ったものを水にさらさずに合わせる。
見た目通り、味わいはかなり繊細で、ねぎのピリッとした辛さと塩コショウがアクセントとして楽しめる。シンプルながらも奥深い、長岡さんの哲学が詰まった逸品である。
神戸で愛される本当のお好み焼きを食べてほしい
うまみの詰まったお好み焼きは、酒のつまみとしても大いに活躍。広尾という場所柄もあるが、同店のアルコールリストは非常に豊富なのも魅力である。
あくまでもお好み焼き店、居酒屋にあるようなお酒は一通り揃う。そのなかでもワインにはこだわっており、ソムリエが厳選したものが、グラスで赤・白各3種以上、ボトルで赤・白・泡各5種以上ラインナップ。あの「ヴーヴ・クリコ」や「ドン・ペリニヨン」もスタイバイしている。
その貫禄ある姿から、一見頑固で硬い印象を受けるかもしれないが、笑顔が素敵で優しさあふれる長岡さん。帰る客にも「おおきに、気を付けてね」と丁寧に声がけし、まるで一人ひとりに家族として接しているかのようだ。
「いま東京にあるお好み焼きの多くは、本場関西で愛される昔ながらのものとは厳密には違うんです。30年前の昭和のお好み焼きを、ぜひ食べに来てください」(長岡さん)
自身の人生を捧げる「お好み焼き」の、本来のおいしさを多くの人に知ってもらいたいと熱く語る。
お好み焼きへの情熱と人間としての温かさを持つ長岡さん。そんな温もりと至福の一皿を求めて、また扉を開けたくなる。
【メニュー】
ながおかのお好み焼き 1,000円
ねぎ焼き 1,200円
作焼き 800円
10時間焼 1,400円
コース 3,500円~
ワイン(グラス 700~1,300円)、(ボトル 6,800~40,000円)
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込みです
ながおかのおっさん
- 電話番号
- 03-6277-1239
- 営業時間
- 月~金曜 17:30~24:00、土曜・祝前日 17:30~26:00
- 定休日
- 日曜・祝日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。