【連載:魅惑のコーヒーワールド】「スペシャルティコーヒー」を知って、もっと楽しいコーヒーライフを!
近年、豆に強いこだわりを持ったコーヒーショップやカフェが続々と誕生している。そんななかで、「スペシャルティコーヒー」という名前を目にしたことはないだろうか。なんとなくイメージ出来るが意外と知らないこのスペシャルティコーヒー、一体どんなものなのだろうか。
本コラムでは、知っているようで知らない、魅惑のスペシャルティコーヒーの世界をご案内。また、極上の一杯に巡りあえるコーヒーショップもご紹介。毎日のコーヒーライフをさらに楽しむきっかけとなれば幸いだ。
そもそも、スペシャルティコーヒーの定義とは?
スペシャルティコーヒーという概念が広まったきっかけは、1982年『アメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)』が設立され、それまで漠然と使われていた言葉が明確化されたことである。
そもそもスペシャルティコーヒーを“概念”と呼ぶのは、生産から一杯のコーヒーとなるまで、コーヒーに関わる全てについて考え、その品質向上を目指したムーブメントから生まれてきたことによる。
では、スペシャルティコーヒーの定義とは何だろうか。「一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)」による定義を、3つのポイントにまとめてみた。
1.消費者がおいしいと評価して満足するコーヒーであること
これまでコーヒー豆の格付けは、豆の大きさや産地の標高など、生産者側からの基準で決められてきた。これに対してスペシャルティコーヒーでは、飲む側の視点を取り入れた。品質だけではなく、“一杯のコーヒーがおいしいかどうか”という基準を大切している。
2.カップの中のコーヒーが「際立つ印象的な風味特性」を持っていること
コーヒーのフレーバーは、よくフルーツやハチミツなどに例えられるが、このような風味特性は、品種や栽培された場所の気候や風土から生まれる。スペシャルティコーヒーでは、個性的な風味がクリアに感じられるコーヒーを良質なものと考えている。
日本では、「SCAJ」のカップ評価基準に基づき、コーヒーの液体の風味(カップ・クオリティ)によって、スペシャルティコーヒーと一般のコーヒーを区分している。
3.「From seed to cup(フロム・シード・トゥ・カップ)」
豆の栽培・収穫から焙煎・抽出に至るまでのあらゆる過程できちんと品質が管理され、豆のポテンシャルが生かされることで、初めて個性豊かなコーヒーが生まれる。このため、風味についての高い評価だけでなく、生産者側のしっかりとした管理も併せ持つことが大切とされる。
これを実現するには、どこで誰が栽培しているのか、どのような生産処理をされているのかといったコーヒー豆に関する情報が、いつでも追跡できなければならない。また、生産者が安定して高品質の豆を作り続ける環境などに対しても配慮することが重要だ。(サステナビリティとトレイサビリティ)
以上3項目をすべてクリアしたコーヒーだけが、スペシャルティコーヒーと呼ばれる。当然ながら流通している量も少なく、日本では輸入されているコーヒー全体の8%ぐらいといわれている(SCAJ スペシャルティコーヒーマーケット 市場調査 2016)。
小規模農園が世界的有名に! コーヒーのトップオブトップ「COE」とは?
“おいしいコーヒー”を求めて生まれたスペシャルティコーヒー。このムーブメントに欠かせない存在が、年に1度、各生産国で行われている「カップ・オブ・エクセレンス(COE)」と呼ばれるコーヒーの品評会だ。
国内予選を経て出品されたコーヒー豆は、世界各国から集まった国際審査員による審査で86点以上(2019年5月現在)の評価を受けると上位に選出されると、「COE」の称号が与えられる。
「COE」に選ばれた豆は、その後ネットオークションで値段が決まる。いずれもとびきり高品質な豆のため、高額で落札されるのが通例だ。
品評会に出品されるコーヒーは、スペシャルティコーヒー基準(カップ・クォリティのきれいさ、甘さ、酸味の特徴評価など7項目)をクリアしたものばかり。その中から選ばれるのだから、「COE」はまさに”トップオブトップ”のコーヒーといえるだろう。
「COE」のようなコンテストで一躍有名になったコーヒーの代表例が、前回コラムで紹介した『エスメラルダ農園』のゲイシャコーヒーだ。農園が研究を重ねて丹念に作ったコーヒー豆は、すばらしい味わいがあっても、量が少量ならば既存の流通ルートに乗ることは難しい。
だが、「COE」で入賞すれば、知名度のない小農園でも世界中のバイヤーから注目されることになる。今後もゲイシャのようなコーヒー豆が、「COE」から現れる可能性もあるだろう。
シングルオリジンを知れば、さらにスペシャルティコーヒーが楽しくなる
そして、至福のスペシャルティコーヒーを楽しむのに、知っておきたいキーワードが「シングルオリジン」だ。
「シングルオリジン」とは、生産国が同じなだけでなく、さらに細かくエリア・農園も同じで、生産処理も同じ品種が、他品種とブレンドされることなく“一つの銘柄として”販売されるコーヒーのこと。
同じ国でも、場所が違えば土壌や気候も違い、ひいてはコーヒーの味わいも異なる。「シングルオリジン」は、豆自身が持つ個性を純粋に楽しむことができるのだ。
前述したようにスペシャルティコーヒーでは、トレーサビリティ(追跡可能性)が重要だ。“生産者の顔が見える”コーヒーである「シングルオリジン」は、まさにその中心的存在といえるだろう。
「シングルオリジン」を楽しむには、コーヒー豆のパッケージに注目してほしい。
例えば、前回コラムでご紹介した『丸山珈琲』の「ガリード ゲイシャ エル・アレナル」(写真上)。名前には、生産者(ガリード)、品種(ゲイシャ)、エリア(エル・アレナル)といった情報が含まれている。
このようにシングルオリジンでは、名前やパッケージに、生産国だけでなく農園名や品種、生産処理方法に至るまでの細かな情報が盛り込まれている。
ぜひ、気に入ったコーヒーがあれば、農園やエリアなどをチェックしてほしい。自分の好みを調べていったり、同じエリアで違う農園の豆で飲み比べたり、コーヒーの楽しみ方を広げてみよう。
「ストレート」「ブレンド」は「シングルオリジン」とどう違う?
コーヒー専門店を訪れると、「シングルオリジン」の他に「ブレンド」という表記がある。また「ストレート」という言葉を目にしたことがあるかもしれない。これらの違いは何だろうか。
「ストレート」は「シングルオリジン」より大きなくくり方で、生産国単位で区別されたコーヒーを指す。異なる農園の豆も混ぜて販売されるため、豆本来の個性は失われてしまうことが多いが、各国の特徴的な味わいを楽しむことができる。以下に、産地別味わいの一例をまとめてみた。
▲ストレートコーヒー 産地別の味わい例
「ブラジル産=バランスが良く飲みやすい」というのは聞いたことがあるかもしれない。だがそれは、ストレートコーヒーという概念で豆を捉えた時の特徴なのだ。つまり、ブラジルの各農園によるシングルオリジンが全てその特徴に当てはまるということではない。
これをシングルオリジンの区分まで掘り下げると、ブラジルのカルモ・デ・ミナス地区には「COE」に選出された豆が多くあることや、パナマのボケテ地区には最上級ゲイシャ種を生産していることで有名なエスメラルダ農園があるということまでがわかる。
続いて「ブレンド」は、言葉のとおり複数種類の豆を混ぜて作られるコーヒー。それぞれの豆の欠点を補うようなブレンドをして、誰でもおいしく飲めるバランスの良いコーヒーを作ることができるというような長所がある。
また、複雑なフレーバーを特徴とするスペシャルティコーヒー同士をブレンドすれば、より風味の際立った新たなフレーバーを生むこともできる。店のオリジナルブレンドを飲み比べてみれば、その店や店主の個性を知ることもできるだろう。
「スペシャルティコーヒー」まとめ
・スペシャルティコーヒーの定義は、「際立つ印象的な風味特性」を備え「コーヒー豆からカップまで(From seed to cup)」あらゆる過程がしっかり管理され、トレーサビリティやサステナビリティも併せ持ったコーヒーであるということ
・スペシャルティコーヒーのトップオブトップは「カップ・オブ・エクセレンス(COE)」に入賞したコーヒー
・「シングルオリジン」とは、エリア・農園単位かつ単一品種のコーヒー
・「ストレート」は生産国単位で区別され、「ブレンド」は複数種のコーヒー豆が混ぜられて作られるコーヒー
自分好みのコーヒーが見つかる、おすすめの一軒
「シングルオリジン」や「ストレート」「ブレンド」、どれがいいか迷ってしまうほどバラエティ豊かなコーヒーが味わえる“コーヒー新時代”。
コーヒーの味を探る旅に出かけて、自分ならではの“おいしいコーヒー”を見つけてみよう。そんな旅にうってつけのコーヒーショップをご紹介しよう。
東京・世田谷の三軒茶屋近くにある、シングルオリジンに特化した先駆者的コーヒーショップ『NOZY COFFEE』だ。
<編集協力>
小田中雅子
<参考文献>
・『珈琲の教科書』堀口 俊英(著)/新星出版社
・『珈琲完全バイブル』丸山 健太郎(監修)/ナツメ社
・『ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典 普及版』ジェームズ・ホフマン (著)、丸山 健太郎 (日本語監修)、日経ナショナル ジオグラフィック社