東京・西永福の路地に隠れた、絶品ステーキ専門店
東京・西永福駅のほど近く。ほど近く、なのだがあまり人通りのない路地裏。昼間は閉まっているシャッターが、日が傾きかけたころにゆっくり開く。ガラス張りの店舗、黒い自転車、ワインの瓶に小さな看板。何の店かまったくわからないのだが、夜な夜な多くの客でにぎわっている…。
「あそこ、なんの店?」「調べても、出てこないのよ」地元の人にきっとこう囁かれているであろうこの店は『meuglement(ムーグルモン)』。熟成肉のステーキとヴァンナチュール(自然派ワイン)の専門店だ。
オーナーでありシェフである中森隆司さんは、あえて店の内容がわかる情報を外に出していない。そこには、12席しかない店のため、まずはこの店が好きでこの店で食べたいと思って来店してくれる客を大切にしたい、という思いがある。
店内に入ると目に入るのがコの字のカウンター。奥に向かって階段状に下がっており、なんともユニークで不思議な内観だ。
どの席からも、厨房内で肉を焼く中森さんが見える。焼かれる肉を見て、思わず肉のおかわりをするゲストもいるという。店内の装飾物も最小限に、照明もシンプルにおさえ、すっきりと気持ちの良い空間だ。
肉の名店「カルネヤ」「祥瑞」で腕を磨いてきたオーナーシェフ
中森さんは、神楽坂の人気肉イタリアン「カルネヤ」で肉の魅力に取り憑かれ、六本木にあるステーキの名店「祥瑞(しょんずい)」でシェフとして活躍してきた。
「以前、吉祥寺に住んでいたこともありこの界隈の雰囲気は知っていたので、井の頭線沿線で物件を探していました。ここはもとはラーメン店だった物件ですが、個性的な内観に惹かれました。西永福は吉祥寺や下北沢・渋谷からも割と近いですし、中央線の阿佐ヶ谷駅も、自転車やバスですぐなんですよ」と中森さん。
メニューは大きくシャルキュトリー(肉の惣菜)、サラダ、ステーキ、パスタに分かれる。
まず肉の塊を見せられ、どの肉をどのくらい食べるかを決定する。そこから、肉以外のメニューを選んでいく。すべては「肉をおいしく食べていただくため」という目的をブレさせず、同時に客のテンションを一気に上げる、優れたプレゼンテーションだ。
肉は、一流シェフたちから定評のある希少熟成肉専門卸・北海道の『エレゾ』、滋賀県の『サカエヤ』などの業者から、ステーキにちょうどよい熟成具合(30日前後)のものを取り寄せる。中森さんが重要視する点は、”赤身と脂のバランス” ”味の濃さ“ そして ”包有する水分量”。
『ムーグルモン』では肉を揚げ焼きにするため、肉の中に水分が蓄えられていないと、フライパンの中で肉が暴れてしまう。理想的な状態に火入れするためには、肉の水分量はとても大切な要素だ。
期待感高まる一品料理、完璧に火入れされた職人技ステーキ
まずは主役のステーキから紹介しよう。
「ステーク&フリット」この日の肉は滋賀『サカエヤ』のあか牛サーロイン(写真上)。300gのゴロンとした厚切りの塊を、丁寧に火入れしていく。ある程度以上の大きさの肉塊でないと理想的な火入れにならないため、200g未満の注文は受けていない。
使っているのは『山田工業所』の厚さ2.3mmフライパン。注文から2~3カ月しないと手元に届かない、プロに人気のフライパンだ。
多めの油で肉を一面ずつ焼きつけ、最後にアロゼ(油をまわしかけ火を入れる調理法)で仕上げ。焼きあがりが表面は香ばしく、中はしっとりとする。
たったの5~6分、フライパンひとつでここまで完璧な火入れができるとは見事のひとこと。オーブンで少し休ませてからカットする。
肉の真ん中が、みずみずしい状態なのがご覧いただけるだろうか?
肉質はやわらかく、凝縮感がしっかりとある赤身だが食べ疲れはせず、どんどん食べ進められる。添えられたフレンチマスタードとキタアカリのフリットが、肉を食べる喜びを倍増してくれる。
そして不思議なことに、食べた直後にもう一皿食べられそうなほど、体への負担を感じない。「女性でも300gくらいペロリと食べる方がいますよ」と中森さんは言う。
フランスの自然派ワインと丁寧に作られた一品料理を楽しみながら、肉の焼き上がりを待とう
ワインは自然派のみを取り揃え、全体の6割が赤ワイン。フランスのものが多くロワール地方やラングドック地方、コート・デュ・ローヌ地方のものを中心に取り揃える。自然派ワインは多少値が高いイメージがあるかもしれないが、『ムーグルモン』ではボトルで5,200円から。良心的な価格に設定している。
ステーキ以外のサイドメニューも気になるものばかり。
「短角牛のリエット」(写真上)は、900円という値段の割に、皿に山盛りのボリューム。肉感あふれるリエットは塩分が適度に控えられ、脂質も控えめで食べやすい。
もっちりした自家製パン(別料金)との相性も抜群、ワインが進みそうだ。
「マッシュルームのサラダ」(写真上)はシェフおすすめの一品。
良質なマッシュルームの人工栽培には、馬ふん堆肥が不可欠。引退した競走馬を引き取り、その馬ふんを使った堆肥でマッシュルームを育てる『ジオファーム(岩手・八幡平)』から取り寄せる。キュッとしまったマッシュルームの中にうまみが凝縮、刻みエシャロットとペコリーノチーズがさらにおいしさを引き立てる。
好きで来てくれる人に、気持ちよく食事をしてもらう
「気に入って何度も来てくれるお客様が気持ちよく食事ができるかどうか、そのことを優先して考えています。」中森さんの姿勢は、“誰にでも来てほしい”とは対極とも言える。
腕に自信があるからこそ、地に足のついた考えがある。だから、店の外にはほんの少しのヒントしか見せない。看板に書かれたのは実はカウベルだということも、気づいた人だけがクスッとしてくれれば、それでいいのだ。
【メニュー】
ステーク&フリット エレゾ・短角牛 1,600円/サカエヤ ・あか牛 1,800円(いずれも100gあたり)
パテ・ド・カンパーニュ 900円
短角牛のリエット 900円
マッシュルームのサラダ 900円
ヤングコーンのグリル 900円
エゾジカのソーセージ 900円(1本)
パスタ各種 900円~
グラスワイン 900円~
ボトルワイン 5,200円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
meuglement(ムーグルモン)
- 電話番号
- 080-2117-5863
- 営業時間
- 18:00~L.O.23:00
- 定休日
- 火曜+不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。