シングルオリジン専門店の先駆者『NOZY COFFEE』
前編では「スペシャルティコーヒー」を取り巻くキーワードを解説した。それらについて理解したところで、紹介したいコーヒーショップがある。
2010年、東京・世田谷の三宿エリアにオープンした、シングルオリジンの草分け的存在『NOZY COFFEE(ノージーコーヒー) 三宿店』だ。
いまや東京でも、上質なコーヒーを楽しめるショップが多くなったが、『NOZY COFFEE』は、まだ日本で「スペシャルティコーヒー」という言葉が浸透していないときから、シングルオリジンに特化して営業していたのである。
三軒茶屋と池尻大橋の間にある三宿は、コンセプトをはっきり持ち、わざわざ訪れたくなるような魅力的な店が、閑静な住宅街の中に点在するエリア。
『NOZY COFFEE』もそんな三宿を代表する一軒だ。世田谷公園に近く、散歩途中にふらりと寄りたくなるような気軽な雰囲気を放つ。
店内は、1階に4席のイートインスペース(写真上・左)があり、1階まで吹き抜けになった地階スペースに販売カウンター(同右)がある。階段を降りていくと、まるでコーヒーのための特別な空間に誘われるかのようだ。
カウンターでは、ずらりと並ぶおすすめの豆8種類より、その日の一杯をバリスタとおしゃべりしながら決めていく(エスプレッソ系は日替わり2種類から)。いずれの豆も世界中から集められ、専任のロースター(焙煎士)がその豆にあった焙煎を行っている。
豆に添えられているカードには、スタッフが一つひとつ、味を吟味したコーヒーの産地情報や特徴が書かれている。イチゴやリンゴ、チョコレート……どんな味か想像するだけでワクワクしてくる。
コーヒーを取り巻く世界を豊かにしたい
『NOZY COFFEE』代表の能城(のうじょう) 政隆さんは、大学時代にコーヒーと、コーヒー産業を取り巻くさまざまな社会問題に興味を持つようになり、卒業後すぐに同店をオープンした。
「コーヒー本来の魅力がまだ世界的に伝わっていないと思いました。もっとコーヒーの価値が上がれば、市場も変わるだろうと考えたのです」と能城さんは語る。
ブレンドコーヒーが主流だった時代に、農園を一単位としたシングルオリジンに特化したコーヒーショップは画期的だった。
「良質なコーヒーには、育った気候・風土や生産処理方法などによってさまざまなキャラクターがあります。その個性をより楽しんでもらうために、シングルオリジンのみを扱う店を作りました」(能城さん)
「ウイスキーの世界でいうと、ブレンデッドとシングルモルトの2種類ありますが、シングルモルトの方がおいしいし、価値も高い。それを楽しみにする消費者が増えると、作り手にも恩恵がいきます。コーヒーの世界でも同じような文化が生まれないかと考えました」(能城さん)
スペシャルティコーヒーという言葉は使わない、その理由とは?
『NOZY COFFEE』では、コーヒーを紹介する際にスペシャルティコーヒーという言葉は使っていない。
「スペシャルティコーヒーかどうかではなく、自分たちで品質を見極め、そのコーヒーの持つ個性そのものをお客様に楽しんでもらいたいと思っているのです」(能城さん)
さっそく3種類、おすすめのシングルオリジンを紹介しよう。同店では、抽出は、シングルオリジンにお薦めのフレンチプレスかゴールドフィルターかのどちらかを使用している。
今回は、すべてゴールドフィルターで抽出。コーヒーのオイル分を吸収しやすく、すっきりした飲み口が特徴のペーパーフィルターに比べ、ゴールドフィルターは、メッシュが純金コーティングされているため、オイル分もしっかり抽出し、味と香りにも影響が少ない。そのため、ペーパーフィルターより豆そのもの味わいをダイレクトに引き出すことができる。
「ホンジュラス、パトリアルカ農園」(写真上)は、300軒以上の生産者が参加したホンジュラスの「COE2018(各生産国で毎年行われる豆の品評会)」で19位に入賞したコーヒーだ。柑橘を思わせる鮮やかな酸味と、アプリコットのような甘味を感じさせ、フルーツジュースのようにジューシーだ。舌触りが滑らかで、甘さの余韻が心地よい。
一つのコーヒーの中に、複雑な味わいがまるで層のように重なっているのだが、それらの風味を妨げる雑味がなく、次々と現れるフレーバーを心地よく楽しむことができる。
「コスタリカ、ドン・エバンヘリスタ農園」(写真上)。こちらは酸味より甘みが強く感じられ、冷めてくると黒蜜のような濃厚な甘みが増してくる。
「上質なコーヒーは味わいが豊か。ひと口飲めば、最初そして後からと多彩な味わいの移ろいを感じることができます。また、質の良いコーヒーは冷めてもおいしいんですよ。むしろ冷めたほうが豆のキャラクターを感じやすくなるぐらいです」(能城さん)
「ブラジル、オーロヴェルジ農園」(写真上)。「リンゴを思わせる味わいが感じられるでしょう」と能城さん。爽やかな酸味と穏やかな甘みのバランスがほどよく、確かにリンゴのようだ。
コーヒーを飲んで、リンゴを思い出すとは考えてもみなかった……このような新たな出逢いがシングルオリジンの魅力の一つに違いない。
「これまでコーヒーは、深い焙煎で苦いものとされ、酸味は余計な味わいと捉えられていました。スペシャルティコーヒーという概念の登場によって、むしろ酸味や香りなどコーヒー豆そのもののキャラクターを楽しめるようになりましたね」(能城さん)
シングルオリジンの魅力はカフェラテでも
『NOZY COFFEE』では、本日のおすすめ豆2種類から選び、エスプレッソやカフェラテ、アメリカーノとしても楽しめる。
エスプレッソはマシーンで圧力をかけ短時間で抽出するため、粉の挽き具合や量が少し違えば、味わいに差が生まれてしまう。このため、毎朝その日使う豆の魅力が最大限に引き出されるように、0.1g単位で粉を調整している。プロの腕の見せどころだ。
エスプレッソにミルクを合わせる「カフェラテ」でも、コーヒーの風味がしっかり味わえることを第一にしている。ミルクは低温殺菌牛乳を使用。ミルクの風味が強すぎず、まろやかな甘みがコーヒーを包むように仕上がっている。
エスプレッソをお湯で割る「アメリカーノ」も、ドリップとはまた違った香りと味が生まれ、バリスタごとでも味わいの個性が異なる。一つの豆でいろいろな楽しみ方ができるのは、何度も訪れたくなる大きな魅力だろう。
一期一会、至福のコーヒー体験ができる
「『NOZY COFFEE』では、豆のキャラクターは全て違うと考え、それを分かりやすく伝えています。店も、シングルオリジンのように、その土地らしさやそこでしか味わえない時間や空間を大切にした店作りをしていきたいです。」と語る能城さん。
豆は、同じ農園でも収穫される年や、栽培されている場所で味が異なるという。高品質なコーヒーは扱われる量も少ないため、一つの銘柄が気に入っても、その銘柄が次あるとは限らない。出逢う味は、まさに一期一会。一杯から広がる豊かなコーヒーの世界を、ぜひ体験してみよう。
【メニュー】
エスプレッソ 480円
アメリカーノ(ホット/アイス) Small 530円、Medium 630円、Large 730円
カフェラテ(ホット/アイス) Small 580円、Medium 680円、Large 780円
フレンチプレス・ハンドドリップ 650円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込みです
NOZY COFFEE(ノージーコーヒー)三宿店
- 電話番号
- 03-5787-8748
- 営業時間
- 平日 11:00~18:00、土・日・祝日 9:00~18:00
- 定休日
- 不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。