きちんとしたコースから深夜の一杯まで、使い勝手抜群なビストロが誕生
“プチフランス”と呼ばれる東京・神楽坂は、『ミシュランガイド東京』に掲載のレストランから気軽に一杯を楽しむワインバーまで多彩なスタイルのフレンチがそろう激戦区。
その神楽坂に「あの人が帰ってきた」と、界隈の食通たちをざわつかせるビストロが現れた。2019年5月にオープンした『Floraison(フロレゾン)』だ。
「特別な日のごちそうではなく、『おいしいフレンチが食べたい』と思ったときにいつでも気軽に立ち寄れて、それでいてきちんとした料理やワインを楽しめる店が作りたいと思いました」と語るのは、オーナー兼ソムリエの佐々木利雄さん(写真下・左)。
佐々木さんは、プロからの支持も高い人気店『神楽坂しゅうご』を立ち上げた元オーナーソムリエ。同店を離れた後、福岡でフレンチレストラン『L'eau Blanche(ローブランシュ)』をオープン。地元グルマンたちの注目を集め、瞬く間に人気店とした。そして、再び神楽坂に戻ると、福岡に続く2店目を立ち上げた。おいしいワインと食材を見抜く佐々木さんのセンスに絶大な信頼を置くファンたちが、早くも詰めかけている。
見番横丁の坂を道なりに下っていくと、ビルの2階にある大きな窓から煌々と漏れる光が目に入ってくる。ビル横の階段を上っていくと白いシンプルな看板とドアが現れる。少し素っ気ない風情が隠れ家のようだ。
ドアの向こうに広がる空間は、グレーをベースにぬくもりのある木目をふんだんに使った、モダンでありながらも、どこか心がリラックスできる。
席数は全部で24席。目の前でシェフの華麗な技を眺められるカウンター席は、まさにシェフズテーブル。通りを見下ろせる窓際のテーブルは親しい人との会食に、中央のテーブル席は友人同士のワイン会などに使えそう。営業は深夜2時30分までと遅く、21時以降はワイン一杯から楽しめるため、2軒目使いもできる。
東京でタッグを組むのは鳴海陽人さん(写真上・左)。有名ホテルのフレンチレストランや『麹町エメヴィベール』などで活躍した後、フランスのグランドキュイジーヌを代表するシェフ、フィリップ・ミル氏の東京店のレストランでスーシェフを務めた。以前から鳴海シェフの腕前に惚れ込み、東京で店を出すならぜひと願っていた佐々木さん。その二人がタッグを組んで『フロレゾン』が誕生した。
コスパ抜群の料理は細やかなフランス料理ならではの技法が生きる本格派
鳴海シェフの作るフレンチは、バターや生クリームもしっかり使う王道フレンチ。香りや食感、味わいまで考え抜かれた細やかな手仕事が光るひと皿は、メイン、ソース、皿の中のビジュアルなどどれをとってもハイクラスの品格がある。これで6品6,500円というから驚きだ。
コースは、アミューズ、冷前菜、温前菜、魚料理、肉料理、デザートという構成。内容は、旬をベースにその時々の仕入れにより変わる。アラカルトも前菜からメインまでそろうため、コースのように組み立てることも可能だ。
こちらは冷前菜の「対馬、イサキのカルパッチョ」(写真上)。ガラス皿に皮目を軽く炙ったイサキが彩り鮮やかなな野菜と共に盛り付けられ、目にも涼やか一品。
イサキは皮目をバーナーで炙って香ばしさを出し、みずみずしい水ナスと合わせている。ソースは、糖度の高いトマトを使ったソースと、ほろ苦さと甘酸っぱさが絶妙なバランスの愛媛県岩城島産レモンを使ったソースの2種類。最後の一口までふんわりと余韻にレモンが香り、どこまでも爽やかだ。
人気メニューの温前菜「ドイツ産ホワイトアスパラガスと温かいパテ、有機野菜のサラダを添えて」(写真上)。
なめらかな舌触りのパテ・ド・カンパーニュは、ジュッとグリエされることで香ばしさが増し、肉のうまみが一層濃く感じられる。添えられた無農薬のルッコラやからし菜は、シェフの出身地、青森県から取り寄せたもの。野菜そのもの味が力強く、パテの存在に負けていない。
クラシックをベースにシェフの個性が生きる食べ応え抜群のメイン料理
テーブルに現れた瞬間、フワッと香るマッシュルームの香りが食欲をそそる「長崎五島、黒むつのポワレ、デュグレレ風」(写真上)。
デュグレレとは、魚を蒸し焼きにし、魚のだしや白ワイン、生クリーム、トマトを煮詰めたソースをかけたクラシックな料理。バターベースでありながら、トマトの酸味やハーブがきき、見た目より軽やかな味わいに仕上がっている。
「旨みがたっぷりのった黒ムツは、低温でじっくり蒸し上げました」と鳴海シェフ。タンパク質が固まる一歩手前の温度でゆっくり蒸し上げた魚は、身がふんわり、しっとり。クリーミーでさまざまなうまみが溶け込んだソースをまとわせて食べれば、フランス料理ならでは多彩な味の世界にうっとりする。
メインの肉料理は「鳥取で捕れた本州鹿のポワレ」(写真上)。本州鹿は、佐々木さんが『神楽坂しゅうご』時代に知り合った人からの紹介で産地にまで訪れて品質を確かめ、料理に取り入れていたもの。
クセが全くなく、噛み心地がやわらかい。きめ細かな肉質と上品なうまみといった本州鹿の魅力を堪能できる。
上質な本州鹿のロースを鳴海シェフは最上の火入れで焼き上げた。ソースは鹿の出汁にブランデーで深みを加えたソース。リッチでコクのあるオトナの味わいだ。
コースを締めくくるデザートは2種類から選べる。「コニャック風味のテリーヌショコラとバニラアイス」(写真上)は、カカオ72%の濃厚なチョコレートがぎっしり詰まったテリーヌショコラ。チョコレート好きにはたまらない。
フワッとかかったパウダー状のアイスクリームがまるで夏に降る雪のようにロマンチックな「ココナッツのムース、甘夏とパイナップルのコンフィー」(写真上)。こちらは、添えられたメレンゲのサクサクした食感も軽快で、柑橘とパイナップルの甘酸っぱさが爽やかなスイーツだ。
それぞれ個性が違うデザート。どちらを選ぶか迷うこと必須だろう。
お待ちかね! シニアソムリエによる至福のペアリング
オーナーである佐々木さんは、合格率10.3%(2016年)という難関資格、シニアソムリエの資格保持者。その佐々木さんが、鳴海シェフが作る料理に寄り添うバランスの良い味わいものを中心に、多彩なワインを厳選し、そろえている。
正統派フレンチが料理のベースのため、メインにはフランスワインを据え、その他、佐々木さんと長い付き合いのある日本のワイナリーの上質なワインもいくつか用意されている。
今回ご紹介した料理をイメージして佐々木さんがセレクトした5本(写真上)。カルパッチョには柚子やかぼすのような和の柑橘の香りがする甲州の白ワイン、夏の季節の魚料理には、南フランスの果実味豊かなコート・デュ・ローヌの白ワイン、そしてジビエの鹿にはほんのり野性味を感じさせる、フランス南西部ガイヤックの赤ワインなどを合わせている。料理が生まれた地方や食材の旬まで考え抜かれたペアリングは、同店の魅力の一つだろう。
「今日いけるかな、空いているかなとふらっと来ていただけるような店にしたいですね。お一人様でもグループでも、コースでもアラカルトでも気軽に楽しんでほしい」と佐々木さん。
「クラシックという基本を踏まえて、徐々に自分の料理を作って行きたいですね」と鳴海シェフ。
『フロレゾン』は「開花」という意味のフランス語。二人の個性が神楽坂の地で確実に大きな花を咲かせてくれそうだ。
【メニュー】
・コース料理(全6品、カフェ付) 6,500円~
・アラカルト
対馬、イサキのカルパッチョ 1,600円
長崎五島、黒むつのポワレ、デュグレレソース 2,800円
鳥取で捕れた本州鹿ロースのポワレ 3,500円
コニャック風味のテリーヌショコラとグラスパニーユ 700円
グラスワイン 800円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
※アラカルトは別途500円のチャージあり
撮影:小野千明
Floraison(フロレゾン)
- 電話番号
- 03-5946-8676
- 営業時間
- ディナー:18:00~翌2:00(L.O.2:00)
- 定休日
- 毎週日曜日 第2月曜日
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