あの『膳楽房』が、待望の姉妹店をオープン
「中国料理が日本で一般的になったのは、今から60年あまり前のこと。その頃日本で作られていた麻婆豆腐やタンメン、酢豚といった料理はどんな味だったのだろう。現代の街中にあふれる中華屋の料理とは、異なる魅力があったのではないか…」
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そんな想いにかられ、古いレシピ本を研究し、独自の味わいを追求するシェフがいる。彼の名は、榛澤(はんざわ)知弥。その独特の中華料理観を体現した1店舗目、『膳楽房(ぜんがくぼう)』(東京・神楽坂)は瞬く間に評判を呼び、連日賑わう人気店になった。
繁盛店を切り盛りする一方で、榛澤シェフは新たな構想を練ってきた。お酒の好きな彼の次のテーマは「食と酒」。『膳楽房』のように賑やかで勢いのある店ではなく、落ち着いてゆったりと飲める店もつくりたい。ようやく思いがかたちになったのは、『膳楽房』のオープンから丸6年が経った2019年4月だった。
落ち着いて料理とお酒を楽しむための場所、『智林(chillin’)』
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「店名『智林』の”智“という字には、単純な知識ではなく掘り下げた知識や知見という意味があります。お客様も自分たちも、探究心を持って楽しめるようなお店になればと願い、この漢字を使いました。また、英語のスラングでリラックスすることを”chillin’”と表現しますよね。ゆったりとチルアウトする時間をイメージしています。」と榛澤シェフは話す。
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店舗の外観は濃い紺色をベースにしており、窓からは店内の光が漏れる。中華料理を連想させるような要素は店外になく、都会にあるおしゃれなバーといった佇まいだ。
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店内は32席と広いが、地上レベルのフロアと数段下がったフロアの2つに分かれ、落ち着いた雰囲気。昔の料理本や紹興酒の瓶、中国の料理店の巻き紙に書かれたお品書きなどが飾られている。
素材自体の効能を壊さない、それが「昔の中国料理」の魅力
榛澤シェフは知る人ぞ知る有名中華料理店『龍口酒家(りゅうこうしゅか)』(東京・幡ヶ谷)の出身だ。
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「中華料理はおもしろく、奥が深く、毎日食べても食べ飽きない。火を使ってガッと炒めるなど、勢いがありますよね、そんなところが自分の性質に合うと思いました。一方、昔の料理本のレシピは現代の中華料理の基礎になっていますが、あまり重い味わいにせず、素材自体の効能を壊さない作り方をしているなと感じます。そういった部分を大切に、料理を作っています」。
重くなく優しさを感じさせる彼の料理は、女性客にも大変な人気だ。
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滋味深く味わい深い、懐かしさと新しさが交じり合う料理
懐かしさとモダンさが交差する、榛澤シェフの料理たち。素材の魅力を引き出す昔ながらの中国料理を、洗練された一皿に昇華させる。こだわり溢れる料理を紹介しよう。
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「自家製腸詰」(写真上)。腸詰には質感、味わいともにこだわり、日常的に改良を続けている。
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台湾風腸詰をベースにしているが、台湾では水分を極力残さない、硬めの腸詰がポピュラーだ。一方、『智林』の腸詰は、噛みしめると肉汁が出てくるしなやかな質感に仕上げている。
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「里麺(リーメン)」(写真上)は、『龍口酒家』の師匠に許しを請い継承を許された、思い入れのあるメニュー。26歳の若き榛澤シェフを『龍口酒家』に夢中にさせた、運命の一品だ。
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クロレラを練りこんだ特注麺をチャーシュー、ネギ、ザーサイ、ゴマ油と醤油で和えただけのシンプルな料理。ごま油の香り、チャーシューのうまみ、ザーサイの食感すべてが食欲を刺激し、箸を止めることができない罪な味。
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「智林 清湯麺(チンタンメン)」(写真上)も潔くシンプルな見た目だが、ひと口目にその滋味深さに驚く。鰈(カレイ)の煮干しからとったスープは、とても奥行きのある味わいで、青ネギとネギ油の魅力を引き立てる。縮れたたまご麺にスープが絡み、喉ごしよくスルスルと食べられる。
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“清湯”とは、澄んだスープのこと。『智林』の清湯麺は、青ネギしか乗らない。「食べて飲んだあとの〆の一杯は、シンプルに限るでしょう?」と榛澤シェフは話す。
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「塩卵入りちまき」(写真上)。40年以上前のレシピをベースに作った一品。現代は炒めて作るチマキが主流だが、このレシピでは生の米に薄めの味をつけ、それを具材とともに弱火で2時間ほど茹でて作る。茹でることで素材の味がゆっくりと引き出され、もち米もふっくらと仕上がるのが特徴だ。
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具材はアヒルの卵の塩漬け(シェンタン)、干しシイタケ、角煮、蓮の実など。上品な味わいのもち米に具材の味が加わり、うまみがたっぷり。
紹興酒はなんと20種以上。飲み比べも楽しみたい
紹興酒は20種以上を数え、そのすべてがグラスで注文可能という充実ぶりだ。
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メニューにはすべての紹興酒の味の傾向がチャート図で記され、好みのものを見つけやすいようにと配慮がされている。多くの紹興酒はグラスで1,000円以下のため、思わず複数の種類を飲み比べしてみたくなる。
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語り口も、笑顔も、作る料理も穏やかな榛澤シェフ。彼の腕と味に魅せられ、足繁く通うファンは増えるばかり。毎日食べても食べ飽きない、そして食後は体が元気になったように感じられる、そんな料理。榛澤シェフの魔法にかかりに、今宵は神楽坂に行こう。
【メニュー】
自家製 腸詰 850円(1本)
里麺(リーメン) 800円
智林 清湯麺 1,200円
塩卵(シェンタン)入りちまき 550円
前菜おまかせ盛り合わせ 1,600円より
台湾 烏骨鶏ピータン 550円
海老とトマトの卵炒め 1,350円
スペアリブとパリパリ唐辛子のスパイス炒め 1,800円
紹興酒各種 グラス 600円より
ワイン各種 グラス 550円より
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
中国菜 智林
- 電話番号
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- 営業時間
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(L.O.21:30)
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その他(2023年2月14日)
その他(2023年2月28日)
※他月2回(不定休)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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