数多の鮨屋がある港区でキラリと光る人気店『鮓 村瀬』
熟成・王道・アッパー系・深夜使い系……。現在、鮨屋のオープンラッシュが続く“港区鮨”は、港区にいる人々の多様性に準じるように、さまざまな顔を持った鮨屋が軒を連ねている。
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その中でも、「アクセス良好で実直かつ活気のある店内、そして絶品の鮨」と、オープン以来根強い人気を誇り、平日でも連日満席の鮨屋が『鮓 村瀬』だ。
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都内の鮨業界を牽引し、現在の人気鮨屋の大将を多数輩出している四ツ谷『すし匠』出身で、こちらのお店にいる11人の弟子・スタッフを仕切るのは大将の村瀬信行さん(写真上)。
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お店は「六本木ヒルズ」から六本木通りを挟んだ向かいを少し入ったあたりにあり、六本木駅から徒歩でも行きやすい。
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また超都心にありながら、すっきりしたインテリアにコの字型のカウンター、そして大きな窓越しに見える緑の木々が清々しい印象だ。
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木目を生かした清潔感のある内装は『すし匠』の親方・中澤圭二さんと相談したという。最初は壁だったという大きな窓も、雰囲気に抜け感が出てとても心地いい。
箸に書かれた一文字が語る「理想の鮨像」
さて、このような雰囲気で出る鮨とはどのようなものか? カウンターに座り、今日のおすすめをいただこうと思ったそのとき、ふと目の前の箸に目が止まった。
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箸を留めている紙に、「鮓」ではなく、「魚」「米」「乍」で、すし、と書いてある。この文字を選んだ理由を村瀬さんにうかがうと、「この漢字は、米に合わせた魚を作る、つまりシャリに合わせたネタを作る、という意味です。この言葉通り、自分はネタに合うシャリ、シャリに合うネタを提供することを大事にしています」と教えてくれた。
では、さっそく『鮓 村瀬』の鮨をいただこう。
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まずゲタにたっぷりとのせられて出てくるのは、『すし匠』系ではおなじみの口直し、ガリ・ワカメ・海ぶどう。食感や味が違う口直しがずらっと揃うと、なんだか出だしから楽しくなる。
驚きの味わい深さ! 鱚に締めものの可能性を感じる
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口直しの後は握りから。最初は昆布締めにした兵庫県・淡路産の「鱚(キス)」(写真上)に木の芽を添えたもの。人肌のシャリと常温にきちんと戻されたネタが口にすっと馴染む。
従来の「鱚はあっさりすっきりした味」というイメージを覆す、驚きのうまみと食べごたえ! 昆布で締める意味を感じる味の深さだ。やや固く炊かれた米酢の白シャリとの相性、そして最後にふわっと香る木の芽の清涼感もすばらしい。
鮪は和辛子をかませた江戸前古典の組み合わせで
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夏場は新潟産のものを仕入れるという「鮪の中トロ」(写真上)。今度はパンチのあるネタに負けない、赤酢を使った赤シャリで。食べると、ワサビではない辛味が口中に広がる。
そんな反応を見て、村瀬さんが「うちの鮪は和辛子を合わせています。実は古典の江戸前寿司では、鮪の握りは“和辛子と赤シャリ”で作るものだったそう。珍しいというよりもクラシカルな組み合わせということです」と教えてくれた。
確かに、鮪の酸っぽさをうまく包み込んでくれるような辛味。スッキリしたワサビもおいしいが、和辛子は鮪のうまみをじっくり増幅させてくれるようで、とても良い。古典の仕事に理由あり、と思える、現代こそ味わってほしい組み合わせだ。
締めものは『鮓 村瀬』のスペシャリテ! おぼろをまぶした絶品の小肌
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そして酢締めにした九州産の「小肌」(写真上)に黄身酢のおぼろをまぶした握り。こちらも赤シャリで。光物のネタを寝かすと出てしまうえぐみと、酢の酸味を和らげるおぼろとの組み合わせが極上! 酢締めのネタは苦手だと思っている人にこそ食べてほしい一品だ。
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酢締め・昆布締め・塩締めなどの“締めもの”が得意という、『鮓 村瀬』の看板ともいえる握りであろう。
つまみと握りはランダムに提供し最後まで食べても飽きないリズムを
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続いて出たのはつまみの「蒸し鮑」(写真上)。おまかせで出てくる約30品を全部紹介できないため、流れがわかりにくいかもしれないが、『鮓 村瀬』はつまみと握りがランダムに出てくるスタイルなのである。
このリズムが鮨という、ともすれば単調になりかねない食事に常に変化を与え、30品と多めの内容でありながら、いつまでもおいしく、飽きずに食べられる。ちなみに村瀬さんもこの出し方が好みだそうだ。
さて、こちらの蒸し鮑。歯ごたえとやわらかさが両立するよう、ごく細火で4~5時間蒸しあげている。貝類独特の噛みごたえを持つ蒸し鮑と、添えられた肝の磯を感じる濃厚なうまみ、下に敷かれた岩海苔のだしを一緒に味わうと、この一皿で“海の恵み”という贅沢を口中いっぱいに感じる。上に少量添えられた柚子こしょうのアクセントもいい。
煮物の炊き方も丁寧に! 細部までしっかり面倒を見たネタはどれも粒揃い
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最後は江戸前寿司といえば煮物ネタ! 長崎県・対馬産の「穴子」(写真上)で。穴子の骨で炊いたコクのある甘い共ツメが塗られ、中にはワサビをかませている。
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この組み合わせがまさに“鮨”を食べたという気にさせる、締めにふさわしい握り。ほろりと柔らかいのにハリは保たれている炊き方にも驚きだ。
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さて、多数の品をいただいて、村瀬さんの鮨に感じたことは「ネタへの面倒見がすばらしい」ということ。常にネタとシャリに目をくばり、温度の確認、ネタの保湿や香りに欠かせないドリップのふき取りなど、一品一品に丁寧に細部にまで向き合っている。
決して過剰なお世辞は言わないが、各席に適宜声をかけ、店内と鮨に目を配り、最高の状態で提供する。新しい鮨屋がひしめく港区で、『鮓 村瀬』に江戸前寿司の真髄を見た。平日でも連日満席のため、ぜひ予約をしてから伺ってほしい。
【メニュー】
おまかせ 26,000円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
撮影/岡崎慶嗣
鮓 村瀬
- 電話番号
- 03-3479-5240
- 営業時間
- 18:00~(21:00から21:30までの間に最終入店)
- 定休日
- 月曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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