名店出身の料理人が独立、注目の日本料理店『御成門はる』
東京・新橋の京料理店で修業後、東京・大門の名店『くろぎ』で腕を磨いた小川晴行さんが、2019年3月22日、独立オープンさせた日本料理店『御成門はる』。
店をひとりで切り盛りする小川さんは、子どもの頃から食べることが人一倍好きで、スポーツ推薦で入学した高校でも調理科に入ったという。
「調理の授業があるなら色々食べられると思ったんです」と食いしん坊な顔をのぞかせる小川さんが、高校卒業後、専門学校で基礎を身につけた後に入店したのは京料理店。
同店の大将および直属の先輩だった現『くろぎ』料理長の黒木純氏とともに、「社会人としてのいろはも教えてくれた兄貴分」と今でも心から慕っている。
「大将には京都にも連れて行ってもらうなど、本物に触れることの大切さを学びました。次第に器も好きになり、自分で店を出すならどんな器でどんな料理を出したいかまでを考えるようになりました」(小川さん)
食材も食器も納得のいくものを選び、おもてなしにも手を抜かないため予約受付数も限られる。個室の用意もあるが、現在はカウンターを中心に営業。料理や器に関して尋ねると生き生きした表情で答えてくれる姿から、お客とも日々コミュニケーションを楽しんでいることが容易に想像できる。
コースの始まりは、ウニ・翡翠茄子・つくね芋の美しき共演
同店のメニューは、季節の素材を楽しめるコース一種のみ。この日、まず用意してくれたのは、清涼感あるガラスの器に美しくおさめられた前菜「ウニ茄子とろろ」(写真上)。
器を満たしているのは、だしで伸ばしたつくね芋。トッピングに添えられたウニととろろによる、海の幸・山の幸の共演を楽しみながらさらにスプーンですくっていくと、器の底から、スプーンサイズにカットされた翡翠茄子(ひすいナス)が登場する。
素揚げしてから皮をむいたナスは、やわらかすぎないほどよい食感。なめらかなつくね芋をまとわせて口に運ぶと、上質なうまみがひんやりと口いっぱいに広がっていく。
次に紹介するのは「おかき和え」(写真上)。昆布締めしたスズキの上に散らされているのは、餅を揚げて作ったおかきを、すり鉢を使って粉々に砕いたもの。酒と梅で作った煎り酒、醤油とともに供されるので、前者には梅、後者にはわさびを添えて2通りの味を楽しめるのがうれしい。
酸味が効いてスッキリした味わいの煎り酒は今の季節に最適。また、餅と鮮魚といういずれも醤油と相性抜群な食材に、シンプルにわさびを効かせて堪能するのもオツ。
旬の食材を五感で楽しむ
続いて、定番メニューの「ごま和え」(写真上)。焙烙(ほうろく:火にかけて茶やゴマを煎る鍋)を使ってお客の目の前でゴマを煎り、季節の食材に和える目にも楽しいメニューだ。加えて、アツアツの状態まで熱を通すので、芳ばしい香りに鼻腔を刺激されるのも心地よい。
この日使った旬食材は夏ワラビ。丁寧にゴマを煎ったら、しっとり炊き上げたワラビにさっと和えて完成。煎りたてすりたてのゴマは、風味・香りともに素晴らしく、食事を五感で味わうことの楽しさを噛みしめさせてくれる。
ちなみに、小川さん愛用の焙烙は、著名陶芸家である中川一辺陶(いっぺんとう)氏が手掛けたもの。小川さんは、焙烙以外にも中川さんの作品を多彩に揃えている。
ひんやりした冷たさを楽しめるメニューをもう一品。炊き上げた石川芋をキンキンに冷やした「冷やしこいも」(写真上)だ。
削った氷の上に雪ノ下の葉をあしらい、その上にお行儀よく並ばせたひと口サイズの石川芋は、よく冷やしたことでうまみがぎゅっと凝縮されている。冷えているので、濃厚なのに軽やかでスッキリとした味わいである。
最後は、丸仕立ての「スッポン鍋」(写真上)。薄口しょうゆとお酒、ほんの少しのショウガのみで仕上げた上品な味わいの鍋は、素材の味を存分に楽しめる一品。小川さんが自らの目で選んだ食材のみを使用しているため、シンプルな調理法でこそおいしさが引き立つのだろう。
この「スッポン鍋」はシメとしても機能。続けて登場する、「世界農業遺産」に認定された佐渡の棚田で採れた米を炊きたての状態で堪能した後、雑炊として楽しませてもらえる。
ここの棚田は標高が高く太陽をたくさん浴びている上、水田には湧水が使われているため、米粒は小粒ながらミネラル豊富で滋味深い。おいしさと栄養がじんわりと身体に染みわたっていく幸せにどっぷりと浸れること請け合いだ。
こだわりの銘酒との一期一会も
これだけ美味なメニューぞろいなので、お酒との一期一会も楽しまない手はない。せっかくなので、小川さんイチオシのお酒を聞いてみた。
すると迷わず出してくれたのが、『府中誉(ふちゅうほまれ)酒造』の「渡舟」。飲食店でもなかなか出逢えないこの日本酒、小川さん自身も大層お気に入りで、「上品なうまみと最後に抜ける香りが特長的」と太鼓判を押す。
他にも、しっかりとした辛口で料理の味が引き立つ『黒龍酒造』の「黒龍 大吟醸 龍」など銘品ぞろいだ。
営業はその日の予約状況によって昼または夜のみとなる。食べることが大好きで、食材や器選びも盛り付けも妥協しない小川さんゆえ、1日1ステージに全力で挑んでいるのだろう。
訪れる機会があれば、メニューや調理法についても臆することなくどんどん質問してほしい。食への強い情熱を持つ小川さんが、どんなことでも懇切丁寧に教えてくれる。
小川さんとのコミュニケーションも含めてその時間を最大に楽しむことで、食の楽しさを存分に感じることができるだろう。
撮影:岡崎慶嗣
【メニュー】
コース 15,000円
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御成門 はる
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