くつろいだ佇まいで本格和食を楽しめる店が銀座に誕生
銀座で本格的な和食といえば、少し敷居が高いと感じる人がいるかもしれない。
ならば、2019年3月、『鮨よしたけ』の旧店舗跡にオープンした日本料理店『御料理 かつ志』に訪れてほしい。銀座クオリティの和食を、構えることなくゆったりとした気分で楽しめる店だ。
場所は、多くの飲食店がひしめく銀座、見番通りの一角。ビルのエレベータから降りて、ドアを開けると、茶室のようなにじり口、足下を照らす行灯など、一気に凜とした和の世界が広がる。
店内はカウンター7席とこぢんまり。外観や内装は、前店舗のものをそのまま使っている。どっしりとした一枚板のカウンターや、明るく清潔感のあるインテリアは、少し年月を経て色合いが馴染み、どこか心が落ち着く温かみがある。
料理長の吉武括志さんは、兄である『鮨よしたけ』店主・吉武さんの影響を受け、料理人の道を志すようになったという。
料理人としてのスタートは、勤めていたレストランで知り合った親方が独立して作った本格和食の店。和食の基礎を学んだ後、「魚料理の技術をさらに極めたい」と、生簀(いけす)のある店に移る。そこで、関西で長く修業してきた親方と出会い、関西風のだしを生かした淡い味付けの料理に衝撃を受けたという。
その経験は、『御料理 かつ志』の持ち味である“品の良いだしで素材を生かす料理”につながっている。
その後、複数の店を渡り歩きながら、スッポン料理など様々な和食の技を磨く。そして、兄である吉武正博さんに腕を見込まれて、『御料理 かつ志』の料理長に就任した。
料理ごとに全てだしを変える、繊細な手仕事が光る逸品の数々
メニューは、先付、和え物、揚げ物、椀物、焼き魚など全10品からなる「おまかせコース」のみ。いずれも丁寧な手仕事から生まれる逸品ばかりだ。
さっそくメニューを紹介しよう。
濃厚でキメ細やかな白和えには、隠し味と下ごしらえでコク出し
見た目にも涼しいガラスの器で現れたのは「白和え 車海老、ホタテ、イチジク、丸ナス」。
甘みと食感を考えて厳選した具材は4種類。イチジクは甘酸っぱさをそのまま生かし、車海老は塩茹で、ホタテは醤油をまぶしてさっと炙り、丸ナスは素揚げして味を含ませている。「料理は仕込みが8割か9割」(吉武さん)と語るように、具材への丁寧な下ごしらえが味の深みを生む。
具材の下に引いてあるのは、カツオ節と昆布のだしに薄口しょうゆなどで味付けしたもの。あえ衣や具材の下味を際立たせるように、味付けは最小限にとどめ、だしのうまみを効かせている。『御料理 かつ志』では、素材に寄り添っただしにこだわり、料理ごとに全て異なるだしを使用している。
あえ衣は、絹ごし豆腐をこし、練りゴマ、薄口しょうゆ、みりん、砂糖などで調味。さらに生クリームを加えてコクを出している。こした豆腐をすり鉢ですって作るあえ衣は、クリームのようになめらか。トロリと舌の上でとろけながら、多彩なおいしさを包み込んでいく。
至極のやわらかさ。どこまでも上品なスッポンの煮麺仕立て
アンティークの朱塗りの椀に盛られているのは、吉武さんが得意とする「すっぽん仕立て」。スッポンは焼いても鍋でもおいしいが、今回はスープを楽しむ煮麺(にゅうめん)でいただく。
骨、甲羅、頭に加え、おいしいスープがたっぷり出るよう、具材には使用しない身の部位からもだしを取っている。ほんのり脂が浮いた透明なだしは、時間も手間もかけた賜物。コクがありながら、どこまでも上品な味は、スッポンにしか出せないおいしさだ。
▲エンペラは、箸の間からすり抜けてしまいそうなほどのプルプル感
椀種(わんだね)に使っているのは腕と首の肉、エンペラ(甲羅の周り部分)。いずれも味を出し切らないように、別鍋で調理してからだしと合わせている。プルプルとした独特の食感がたまらないエンペラは、コラーゲンの塊そのもの。淡泊な味わいのスッポンの身は滋味豊かで、しみじみとしたおいしさが体に染み渡る。
もう一つの椀種は素麺。絶品スープを最後まで楽しく味わうための名脇役だ。
鰹だしをまとった香ばしい甘鯛には、数滴のオリーブオイルで風味付け
焼き物は「甘鯛 椎茸、万願寺とうがらし」。身が柔らかく、上質な甘みを持つ甘鯛は、和食を代表する高級魚。
甘鯛と野菜を盛り付けた椀には、骨と鰹節からとっただしに、ほんのり薄口しょうゆで味付けしたつゆが注がれる。つゆからほんのり漂うのはオリーブオイルの香り。だしとオリーブオイルは相性抜群で、ほんのわずかに垂らしたオイルがだしにコクとフレッシュな香りをプラスしている。
甘鯛は、薄く塩を振って、皮目から炭火で香ばしく焼いていく。付け合わせの万願寺とうがらしはそのままに、椎茸は香ばしさを出すために、しょうゆを塗ってから炙っている。
炭火で焼かれた甘鯛の皮はパリッと香ばしく、身はしっとりとふくよか。淡いながらもうまみたっぷりのつゆが、身の甘さを引き立ててくれる。
炊きたてホカホカご飯に、贅沢すぎる“ご飯のお供”がたまらない
この店のスペシャリテは、コースの締めくくりに出される「ご飯」かもしれない。
使用するのは、山形県産のお米「夢ごこち」をメインに長野県産、宮崎県産の3種類をブレンドしたもの。甘みやコシの強さ、あっさりした風味などそれぞれの米の良いところが調和し、食べ疲れない、コースの締めくくりにふさわしいご飯となっている。
目の前のカウンター内でシュウシュウと蒸気を上げて炊きあがる白ご飯。茶碗にふんわりと盛られると、炊きたての香りが鼻腔をくすぐる。
米一粒ひと粒がツヤツヤと光り、ブレンドすることで生まれた程よい甘みと粘り、食感のバランスが絶妙。しっかりとしたうまみがあるため、冷めてもおいしくいただけるほど。
土鍋ご飯は、店をオープンした時から力を入れてきたそう。しかし、「オープン当初はコースの品数が多く、せっかく土鍋で炊いても、ご飯まで食べきれない人が多かったんです」(吉武さん)。
そこで、コース料理の品数やボリュームを押さえる代わりに、天ぷらや刺身など、少し豪華な“ごはんのお供”を付けることを考えた。
▲〆のご飯には、自家製のお供が4種類
この日のスペシャル“ご飯のお供”は、朝仕入れたばかりのマグロ赤身の漬け。この他に、ちりめん山椒やたたき梅、おしんこなどが盆の上に並ぶ。すべて同店の自家製だ。
炊きあがったばかりのホカホカご飯に、いい塩梅にタレに漬かったマグロをのせていただけば、お腹も心も満たされていく。
“〆のご飯”と聞いて、ここまで豪華なセットを想像する人はいないだろう。最後の最後まで、嬉しいサプライズが待っているのだ。
料理に合わせる日本酒も、店主自らが厳選
ドリンクは、『鮨よしたけ』のソムリエがセレクトしたワインもあるが、お客の8割は日本酒を頼むという。すっきりとした辛口系の酒を中心に、多彩なだしを料理に使うことから、だし各々にあった酒を揃えている。また旬の酒にも力を入れており、今の時季であれば、『磐城壽 夏酒 純米吟醸』、『みむろ杉 夏純 山田錦』といった夏限定の日本酒もラインナップされている。
吉武さん自ら業者に出向いて飲み比べながら、料理にぴったり合うと選んだ日本酒の数々。料理とのマリアージュを楽しみたい。
「お客様に認められること」が一番大事
「お客様の目を見れば、おいしいか、好みでないかがわかります」と語る吉武さん。
毎日、向かい合うお客の反応を見ながら、日々精進を続けているという。これも「料理は独りよがりになってはいけない、お客様に認めてもらって、初めて価値が生まれる」という吉武さんの信念があってこそ。
素材それぞれに施された丁寧な仕事、決して出しゃばることなく素材のうまさを支える繊細なだし。和食の妙味をくつろいだ気分で堪能できるのが、『御料理 かつ志』の何よりの魅力だろう。
「もっといろいろな楽しみ方をしてほしい」という吉武さんの思いから、冬には鍋料理を始める予定だとか。“銀座で和食”をさらに楽しくしてくれる同店に、ぜひ訪れてみよう。
撮影:岡崎慶嗣
【メニュー】
おまかせコース 15,000円
日本酒 みむろ杉 1,400円
日本酒 磐城壽 1,400円
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御料理 かつ志
- 電話番号
- 050-5493-0749
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
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夜の部 18:00~22:30
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