地元民に愛され、食通たちをもうならせる名店が集まる「西原」
都内屈指のグルメタウン・代々木上原、古くから愛される店とお洒落な店が混在する街・幡ヶ谷。その2つの街の間に位置する「西原」エリア。
こだわりの強さを感じさせるスタイリッシュな店もあれば、下町情緒が残る街並みに溶け込んだ佇まいでありながら、食通たちをうならせる実力派の名店も多い。そんな後者の筆頭にあげられるのが、2012年からこの地に店を構える『funicula(フニクラ)』だ。
気取らない温かみと賑わいが街を輝かせる、愛され名店
「また来たよ」「また来るね」…、『funicula』はそんな店だ。
陽が落ちてきた頃、店に明かりが灯ると同時に客がつめかけ、あっという間に満席になる。店の灯りと楽しげな賑わいがレトロなガラス扉越しに伝わってきて、まさに地元民に愛されているトラットリアそのものの風景が広がる。
オーナーシェフの西井幸治さんは、元美容師という異色の経歴の持ち主。料理に興味を持ち、大好きだったイタリアに渡ったのは27歳の時だったという。中部を中心に転々としながらエッセンスを吸収した後、イタリアンだけでなくフレンチレストランなど幅広いジャンルのシェフを経験し、2012年『funicula』オープンに至った。
料理の特徴
同店の客の多くは女性。むしろ「店内が女性だけ、という日も珍しくないんです」と西井さん。その理由の一つが、野菜料理が非常に充実していることだろう。肉や魚なしでも満足できるほどボリュームたっぷりでありながら、一つひとつが繊細な味わい。そしてどれもワインとばっちり合うのが憎いところだ。
それでは、アラカルトよりおすすめをご紹介しよう。
▲冷前菜の盛り合わせ
初めて訪れる人におすすめしたいのが、冷たい前菜の人気メニュー6種類が一皿で味わえる「冷前菜の盛り合わせ」。
写真上・中央が「人参のラペ クミン風味」、そして上から時計まわりに「旬野菜のカポナータ」「枝豆のフリッタータ」、「豚肉のパテ」、「切り干し大根のアラビアータ」、「旬野菜と鶏肉のバルサミコ酢マリネ」。2人で取り分けてちょうどいいほどのボリュームで、この時点でワインボトルをオーダーしたくなる。
「人参のラペ クミン風味」は一風変わったパンチのあるエキゾティックな余韻が、食欲を覚醒させる一品。「切り干し大根のアラビアータ」は、本格的なパスタ・アラビアータの味付けだが、切り干し大根の甘みがどこかなつかしい。そして「旬野菜と鶏肉のバルサミコ酢マリネ」は鶏肉がしっとり優しく、酢豚のように甘めで食べやすい味。
どの前菜も、イタリア料理の本格感を感じさせつつも、親しみやすく安心できる味わい。そのバランスが絶妙である!
▲たことじゃがいもとアボカドのサラダ
大ぶりにカットした茹でタコが迫力満点のサラダ。ひと口大にカットしたジャガイモ、アボカドを加え、フレンチドレッシングにワサビとニンニクを加えたソースで、均一になじむように和えている。隠し味のワサビがさわやかで「リピート率が高く人気のメニュー」というのも納得の味だ。
▲季節野菜のロースト アンチョビクリームソース
野菜がたっぷり食べられる同店を象徴しているのがこちら。使う野菜は日によって変わるが、取材時はピーマン・パプリカ・ジャガイモ・長ネギ・カリフラワー・紫タマネギ・大根・ナス・キャベツ・インゲン・オクラなど17種類を使用。火が通りにくいものは先に火入れしており、一皿ですべてがちょうどいい焼き加減になるよう逆算されている。
アンチョビ、ニンニク、生クリームの他いくつかの隠し味を加えたアンチョビソースは、弱火で時間をかけてじっくり煮詰めている。煮詰め方が足りないと野菜に絡みにくく、逆に煮詰めすぎると冷えた時にかたまって重く感じてしまう。ちょうどいい瞬間を見極める西井シェフの目は真剣そのもの。
食べ進めるほどに、17種類一つひとつの個性とその味わい深さに驚く。そのまま食べると、芳ばしく仕上がった野菜の力強いうまみが感じられ、そこに濃厚なアンチョビソースのコクが加わると、一皿としての満足感が増幅される。
▲真鯛のアクアパッツァ
スキレットで供されるこちらは、芳ばしく焼いたマダイを、アサリ・ムール貝・ニンニク・アンチョビ・香草・プチトマト・オリーブなどとともに蒸し煮にした一皿。
「鮮度のいいアサリからでないといいうまみが出ないので、使うものにはとことんこだわっています」(西井シェフ)
アサリとムール貝から溶け出したエキス、香草やニンニクの香りが凝縮したスープは絶品! 淡白さとほのかな磯の香りを持つマダイに複雑なうまみのスープがたっぷり染みこみ、後をひく味だ。
「本格的な料理を気軽な価格で食べられて、見た目でも驚きを感じていただきたいんです」という西井シェフの想いが、差し出される料理のすべてにつまっている。
ワインはビオワインを中心にセレクト。ロゼも多数揃っているので、普段ワインを飲まない人でも、スタッフに相談しながらお気に入りの一杯をぜひ見つけてみよう。
西井シェフが語る、「西原」の魅力とは?
さて、このエリアを知り尽くした西井シェフが感じる、西原の魅力に迫ってみよう。
「西原は高級住宅街なので、住んでいる人にゆとりが感じられて安心感があります。そして食通の人、自分の好きなものをはっきり持っている人が多いと感じます。“自分”を持っていて、考え方がお洒落な人が多いんですよ。だから、話をして面白いんです。そこが大きな魅力ですね」
飲食店もこだわりを持った店が多いためか、非常に仲がいいという。
「仲がよすぎてちょっと困る時もあるほどです(笑)。飲食店としてはライバルではありますが、お互いの店に行き来して情報交換もしますし、自分の店が満席の時は要望が近そうな店に電話をして空席があるか聞き、紹介することもありますよ」
名料理人でありながら、山を愛する西井シェフ
店内の本棚には山の写真集や、登山をテーマにした小説が多く並ぶ。実は西井シェフは、登山ガイドの資格取得を目指しているほどの山好き。特に好きなのが北アルプスと南アルプスで、一時は店が休みの日に毎週、山に登っていたこともあるという。
店名の「funicula」は、世界最古のCMソングといわれるイタリアの登山電車の宣伝曲「フニクリ・フニクラ」に由来している。
「店の前の急な坂道がまるで登山鉄道のようで、初めて見た時『このまま山に登っていけそう』と思って(笑)、あの曲が頭に浮かんだんです」(西井シェフ)
厨房を切り盛りするのは、西井シェフとスタッフ3人の計4人。オープンキッチンなので満席の時の忙しさが手にとるように伝わってくるが、西井シェフは至って冷静で、スタッフとのコミュニケーションも穏やかかつ丁寧に行う。
そこに山を愛する男のたくましさ、繊細さが感じられる。西井シェフの作る料理が、本格的でありながら、どこかやさしく、安心する味わいなのはそのためなのだろう。
ウッディで温かな店内は、来る人を癒し続ける
同店が位置するのは、小田急線「代々木上原」駅東口を出てすぐのところ。中へ入ると、カウンターが12席と2人掛けのテーブルが1卓。元は天ぷら店だったという店内はどことなく和の雰囲気が残っていて、ホッとする温かみが感じられる。
ぜひ、シェフの姿を見ながら、ワインを傾けてゆったりとくつろいでいただきたい。
奥のフロアにはテーブルが4卓(12席)、まるで友人宅に訪れたかのような温かい雰囲気が嬉しい。仲間と家族と、時を忘れてわいわい過ごすのにぴったりだ。
▲西井幸治シェフ プロフィール(写真上・左。右はホールスタッフの佐藤琢磨さん)
27歳の時で美容師から料理人に転身。トスカーナを中心に、リグーリア、ロンバルディアなどの中部・北部の州の料理店で修業し帰国。その後、イタリアンだけでなくフレンチ店など幅広いジャンルを経験し、2012年に『funicula』をオープンした。登山が趣味で、登山ガイドの資格を取得中。
【メニュー】
冷前菜の盛り合わせ 1,500円
たことじゃがいもとアボカドのサラダ 1,000円
季節野菜のロースト アンチョビクリームソース 1,300円
真鯛のアクアパッツァ 1,800円
グラスワイン 780円~
ボトルワイン 3,800円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
funicula
- 電話番号
- 050-5488-3498
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 火~金
18:00~翌1:30
(L.O.1:00)
土
17:30~翌1:30
(L.O.1:00)
日
17:30~23:30
(L.O.23:00)
- 定休日
- 月曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。