スペイン・アンダルシア州の料理店『MAQUILA』の暖簾分けとしてオープン
食べることの楽しみの一つは、五感で土地ごとの息吹を感じられることだが、このほど赤羽にオープンした『MAQUILA TOKYO(マキーラトウキョウ)』では、料理を通して、スペイン・アンダルシアの食の「今」を体感できる。
場所は“せんべろ”でもお馴染みの街、赤羽!
一人で店を切り盛りする、料理長の安斎怜(れん)さんは赤羽生まれの赤羽育ち。20歳から料理の世界に入るも、本腰を入れて修業を始めたのは、24歳のとき。スペインで結婚し、現地シェフらとともにアンダルシア州セビーリャに『MAQUILA』をオープンした実姉の影響を受け、スペインでの修業を決意した頃だった。
スペイン南部に位置するアンダルシアは、暖かな気候で過ごしやすく、街の人々は明るく陽気。かつてイスラム勢力が力を伸ばしていたため、エキゾチックな建物も多く建ち並ぶが、特徴的なのは白壁の建物が多いこと。青空と白い建物のコントラストの美しさは、何枚でも写真に収めたくなるほどだ。
そんなアンダルシアの街に渡った安斎さんは、そこから約2年間、『MAQUILA』で研鑽を積みながら現地の文化に触れ、現地の「今」を吸収していった。
エキゾチックな魅力あふれる「アンダルシアの今」を伝えたい
アンダルシアは料理も特徴的だ。パエリアやアヒージョといった、日本人が「スペイン料理」と聞いてまず思い浮かべるメニューはあまり食べられていないという。
まず、711年から5世紀以上もの間、イスラムに支配されていたため、料理にはさまざまなスパイスが使用される。また、安斎さん曰く、北アフリカ発祥のクスクスを使った料理も多いそうで、海辺の町では新鮮な魚介と、内陸では肉料理と合わせて鮮やかな色合いのメニューとして食卓に並ぶのだとか。
「料理やお酒をお客さんに出すときには、食材や、そのメニューにまつわるストーリーも伝えていきたい」と明かす安斎さんとの会話を楽しめば、自然とアンダルシア通にもなれそうだ。
しかしそもそも、帰国後すぐに自身の店をオープンする予定はなく、日本に帰ってきてから3年間は、東京・月島のスペイン料理店『ラ ヴィーニャ』で料理長を務めていたという安斎さん。
そんなある日、赤羽にオフィスを構えていた父親から、「オフィスを畳むことにしたが、カフェとして貸し出せる人はいないか?」と相談を受け、それならと自らが挙手。
想い入れの強い『MAQUILA』に暖簾分けしてもらうかたちで独立することに決めたのだった。オープンイベントでは『MAQUILA』本店の料理人たちも来訪して腕を振るい、大盛り上がりだったそう。
では、早速料理を紹介していこう。
アンダルシア発祥の冷製スープ「ガスパチョ」は季節の味わい
まずは、「季節のガスパチョとトマトのサラダ」(写真上)から。年間を通して暖かな気候のアンダルシア地方発祥の冷製トマトスープ「ガスパチョ」は、今やスペイン全土で親しまれている定番料理。
同店では夏の間、スイカとトマトを1:1の割合で合わせたスッキリした味わいのガスパチョをいただける。中に入っているのは、フレッシュなトマトと、粗めのみじん切りにして炒めたナスとナッツ、シェリービネガー。アンダルシアは、シェリー酒発祥の地としても有名だ。
まずはスプーンでスープのみをすくって爽快感を堪能した後、野菜やナッツの歯ごたえを味わうと何倍にも楽しめる。シェリービネガーの酸味も、ちょうどいいアクセント。スイカのガスパチョと聞くと、スイカ果汁のさっぱりとした口当たりを想像しそうだが、トマトやオリーブオイルもしっかり入っているので、こっくりとしたマイルドな味わい。パンに浸してゆっくりとうまみを堪能するのもいいだろう。
蒸し焼きにした柔らかな「パステル」はいろんなソースで楽しめる
続いては、すり身にしたサーモンとエビ、卵、生クリームを混ぜて蒸し焼きにしたパテが主役の「サーモンとエビの冷たいパステル」(写真上)。
パステルとは、スペイン語で「ケーキ」の意味。お菓子のケーキだけでなく、今回のようなパテ状の前菜にも用いられる。スペインではカサゴ(スペイン語で「カブラッチョ」)で作られることが多く、「プディング・デ・カブラッチョ」の名前で知られるメニューだが、安斎さんのアレンジにより、うまみの強いエビとサーモンを使用。
▲焼き上がったばかりのパステル。冷やしてから型からはずし、盛り付ける
パステルの下に敷かれているのは、煮詰めてうまみを凝縮させた甘えびのソース。梅干しとラズベリーのソース、ゴーヤと紫蘇のソース、くだいたパンくずを生ハムの脂で炒めた「ミガス」とともにプレートに美しく盛りつけられている。
「ミガス」とはスペイン語で「パンくず」の意味。もともとは、十分なお金がない人たちが、固くなったパンくずまでおいしく食べるための知恵として生まれた歴史を持つが、今では伝統的な料理としてレストランでもその味を楽しむことができるのだとか。
パステルそのものにもサーモンとエビのうまみが詰まっているが、少しずつカットしてソースやミガスのトッピングをゆっくり味わうのが楽しい。酸味の効いた爽やかな梅干しソースと、紫蘇の爽快感がクセになるゴーヤソース、濃厚な甘えびソースはどれも相性抜群。柔らかな口当たりのパステルにカリカリに炒めたミガスをのっけて、食感の妙を味わうのもまたいい。
養豚が盛んな都市のレバーメニューを再現
続いて紹介するのは、血抜きして低温調理したレバーをパクチーの爽やかさとともに楽しめる「しっとり豚レバーとパクチー、シェリービネガー」(写真下)。
この料理は、アンダルシア南西部にある都市・アラセナで食べたメニューを再現したものだという。安斎さんによると、アンダルシア地方では豚や牛の内臓まで食べることは稀だが、アラセナは養豚が盛んなため、おいしい内臓料理が楽しめるのだとか。
しっとりとやわらかな口当たりに仕上げたレバーにトッピングされているのは、フレッシュなパクチーと「Mojo(モホ)」というソース。モホは、カナリア諸島(西アフリカ沖に位置するスペインの群島)原産とされるソースで、もっとも一般的な赤色のものの他、緑色やオレンジ色のものもある。
このメニューに取り入れられているモホは、パクチーとニンニク、シェリービネガーで作られたもので、栄養たっぷりの濃密レバーに爽快感を加えてくれている。レバーが主役のメニューとなるとこってりと重たくなりがちだが、このソースが掛け合わされたことにより、辛口な白ワインとも相性のいい一皿へと昇華されているようだ。
オーブンでじっくりと火を通した豚バラ肉の濃厚なうまみを堪能
最後に紹介するのは、「豚バラ肉のオーブン焼き ハチミツのソース」(写真上)。
豚バラ肉を塩と砂糖に漬け込んでから、オーブンで1.5時間かけてじっくり火入れ。仕上げ焼き色をつけたら、シェリービネガー、レモン、鶏ガラスープ、焼いたときに肉から出る肉汁、ケチャップ、バター、レモンピールで作ったソースをかけて完成。
手間と時間をかけて焼き上げているため、ほろっと口の中でほどけるほど柔らかなのに、肉自体のうまみがぎゅっと凝縮されている。また、こんがり焼き色をつけた表面部分はサクッと軽い食感なのに、咀嚼するとジューシーな肉汁が口の中に広がっていくところも心地よい。
添えられているのは、ニンジン、カボチャ、ジャガイモ、ブロッコリー、タマネギ、ズッキーニ、カリフラワーなどの野菜に、牛乳、バター、クミンを加えて作ったやさしい味のピューレ。クミンが効いていてスパイシーに感じられるのに、舌触りはとてもなめらか。
豚バラ肉とあわせて楽しむのはもちろん、ピューレ単体でも口に運んでまろやかさを堪能したくなる。
食後は、読書とワインの時間を楽しんではいかが?
スペインのワインやビールもバラエティ豊かにそろっているので、おすすめを聞きながらゆったりとした時間を過ごすのも至福。
奥行きのあるカウンターはパーソナルスペースがたっぷり確保されているので、隣を気にすることなく食事を楽しめるのがうれしい。本国の『MAQUILA』で撮影した写真が飾られた窓際席や、スペインの店舗と同じく大きな窓を配した壁際の席で、ふたりだけの時間に酔いしれるのも素敵。
店内には、編集者のお父様が仕事に使っていた資料をはじめとする書籍がぎっしりと並んだ本棚も。「どれも自由に読んでいただいて大丈夫ですよ」(安斎さん)とのことなので、おいしい料理と読書の時間を楽しむのもまた一興だ。
アンダルシアの「今」を目や舌で感じながら、安斎さんとの会話や本を通して知識欲も満足させられる『MAQUILA TOKYO』なら、食を通して世界を知ることがもっと楽しく感じられそうだ。
【メニュー】
・季節のガスパチョとトマトのサラダ 880円
・しっとり豚レバーとパクチー、シェリービネガー 580円
・サーモンとエビの冷たいパステル 980円
・豚バラ肉のオーブン焼き ハチミツのソース 1,280円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
MAQUILA TOKYO(マキーラトウキョウ)
- 電話番号
- 03-4283-7296
- 営業時間
- 17:00~24:00
- 定休日
- 火曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。