イタリアン激戦区で地元民に愛される! 本格感と軽やかさを併せ持つイタリア食堂
近年、日本の「イタリアン」の多様化により、イタリア現地そのままの“マニアックな郷土料理”にこだわる店が増えている。一方で、“シェフの個性”を反映させた独自のイタリア料理を追求する店も多い。
今回紹介する『イタリアンレストラン サポセントゥ ディ アキ』はその両方のスタイルを、リーズナブルなコースで一度に味わえる満足度抜群なイタリアンだ。
東銀座から築地エリアはイタリアンの名店が多い激戦区だが、同店があるのはそこから少しはずれた、有楽町線・新富町駅から徒歩1分のところ。中央区役所近くの路地裏にある、ひっそり静かな通りだ。白地に赤い十字の、イタリア・サルデーニャの州旗が目印。
席数は24席。清潔感のある白壁、温かな雰囲気の木の床や照明、カジュアルでありながらきちんとした高級感もある、“程よい”居心地のよさを感じる空間だ。
築地生まれの築地育ちで、スタートは天ぷら職人。“1枚の写真”に導かれてサルデーニャ島へ
同店のオーナーシェフ、木村彰博さんは築地生まれの築地育ち。築地の割烹で板前をしている父親の影響で子どもの頃から市場に自然に親しみ、料理に興味を抱くようになる。
料理人としてのスタートは、天ぷら専門店だったが、「イタリアンの華やかさに魅かれて…(笑)」(木村シェフ)という好奇心から、イタリア料理に転身。名店として知られた『ラ・ストラーダ(駒沢・現在は閉店)』など、いくつかの店で修業を積んだ後、イタリアに渡った。
フィレンツェ、ミラノ、ボローニャなど美食で有名な都市のレストランで経験を積んでいた木村シェフはある時、料理雑誌の中の1枚の料理写真に強烈に心を魅かれる。その味を確かめるべくイタリアのサルデーニャ島にあるミシュラン一つ星のレストラン『S'Apposentu di Casa Puddu(サッポセントゥ ディ カーザ プッドゥ)』を訪れ、その料理に感動。
「土地の食材を使った郷土料理をベースにしているけれど、それをそのまま出すのではなく、レストラン独自の料理に再構築しているところに魅力を感じました」(木村シェフ)。
約1年間その店で働き、副料理長を務めるまでに。帰国後、地元である築地に『イタリアンレストラン サポセントゥ ディ アキ』をオープンした。
▲店名は、サルデーニャ島での修業店『S'Apposentu di Casa Puddu』の名前の一部をいただいている
ほとんどの人が注文するのは、7品4,500円の「おまかせコース」!
店をオープンした当初は、前菜3品・パスタ2品・メイン1品・デザート1品の計7品にコーヒーが付く「おまかせコース」のみの営業だった。その後、お客の要望に応じてアラカルト料理も増やしているが、現在も一番人気はこのコースだという。4,500円のコースで7品、しかもパスタが2種類も味わえるのは嬉しいかぎり。
▲前菜1品目は「チーズのクレームブリュレ」
クレームブリュレ風に仕上げたひと口大のアミューズ。パルメザンチーズをおろして溶かし、卵・生クリーム・牛乳を加えて型で蒸し、仕上げに砂糖をかけてバーナーでキャラメリゼしている。
スイーツのようなルックスから甘さをイメージして舌にのせると、パルメザンチーズ特有の発酵香と強い塩味にまんまと裏切られる。だがすぐにミルキーなコクが甘みと塩味をひとつに包み込み、舌の上でふわっととろける。ひと口の中にドラマティックな変化があり、次の料理への期待が一気に高まる。
▲前菜2品目は「アワビのカルパッチョ」
2品目は贅沢にもアワビ料理。しかも味付けは塩とオリーブオイルのみという潔さに驚く。
添えられたハーブ野菜も飾りではない。丸い形が特徴のナスタチウムの葉は、爽やかで強烈な辛み。シンプルな一皿にキリッとした清涼感を与えている。
ほかの料理にも使われているデトロイト、アマランサス、マイクロサラダなどの香味野菜は、広島県産の無農薬栽培。どれも非常に風味が強く、同店の料理に欠かせない存在。中央のオクラと赤オクラは広島県の在来種で、粘りがしっかりしていて味わいも濃厚。
自家製のパンは最近レシピを改良したばかりという自信作。表面がパリパリと香ばしく、麦の甘みを非常に強く感じる味わいで、ついおかわりを頼みたくなってしまう。
▲前菜3品目は「アナゴのフリット ゴボウのピューレとハリッサのソース」
大胆かつ美しい盛り付けが目を引く「アナゴのフリット」。皿にはハリッサ(北アフリカや地中海で使われている唐辛子をベースにした調味料)のソースとゴボウのピューレがたっぷり敷かれ、まるで現代アートのよう。
「夏の魚といえばアナゴ。泥臭い物同士が合うのではないかと思ってゴボウを合わせました」(木村シェフ)
揚げたてのアナゴの香り、ゴボウのやや土っぽい香りがたまらなく食欲をそそる。
カリッ、ふわっと軽い食感の衣は、天ぷら専門店出身の技を感じさせる、見事な揚げあがり。ピリリとスパイシーなアリッサのソースがさらに食欲を増進させるが、そこに香りのいいゴボウのピューレをミックスすると、味の深みがさらに増す。
2品のパスタと肉料理が放つ、堂々の“本格感”!
前半は自由にアレンジをきかせた木村シェフ風のイタリア料理が続いたが、後半は本場仕込みの腕を感じさせる2種類のパスタと肉料理。
▲パスタ1品目「フレーグラ 海の幸のスープ仕立て」
フレーグラはイタリア語で「魚卵」の意味で、クスクスにも似た粒状のパスタ。サルデーニャ島でよく食べられている郷土料理だ。
米粒大のパスタなのにきっちりアルデンテに仕上がっていて、針の先ほどの芯が残っているため、小さいのに噛みごたえがある。ニンニクの風味がきいたブイヤベース風の濃厚なスープをからめて食べると、スプーンが止まらないおいしさ。
▲パスタ2品目「ポルチーニ茸とサルシッチャのラグー タリアテッレ」
サルシッチャとは、粗くミンチ状にした肉のソーセージ。ポルチーニ茸と合わせたラグーはイタリア北部・ピエモンテ州の名物料理だ。
タリアテッレはイタリア北部で食べられているきし麺状のパスタで、木村シェフ手打ちの生パスタ。主張の強い味わいのサルシッチャとポルチーニ茸を、モチモチした食感のタリアテッレがひとつにまとめあげている。
▲メイン料理「鴨胸肉の炭火焼き」
熱々の皿で運ばれてきたのは、ざっくりとカットされた鴨むね肉の塊。運ばれてきた瞬間に、炭のいい香りがふんわり広がる。
皮目は、カンカンに起こした炭火の上の、最も高温の部分を使って火を入れる。その後、細かく火加減を調節しながらフライパンで全体を焼き、完全に火が通る前に休ませて余熱で仕上げる。
高温の炭で、焦げる直前まで焼き上げた皮は、ザクザクと力強い食感で香ばしい。噛みしめると肉汁があふれ、中の肉は低温調理をしたようななめらかさ、しっとり感がある。バルサミコ酢にハチミツを加えただけのシンプルなソースが、鴨肉のうまみを最大級に引き出している。
▲デザート「ティラミス コーヒーのメレンゲとラムキャラメルアイス」
デザートも、アートのように美しく精巧に作られている。
白い板状のものは、コーヒーの粉を入れて薄く焼き上げたメレンゲ。触れただけでくずれてしまいそうなほどもろく、サクサクした食感を味わった直後、一瞬で溶ける。
ティラミスには、大きめに割ったごく軽い生地のチョコレートクッキーがたっぷり入っていて、ホロホロの食感が心地いい。とろけるようなゆるさのコーヒーゼリー、ラムの香り高いキャラメルアイスといっしょに食べると、さまざまな食感と味わいが交錯し、まるでパフェのよう。まさに大人のティラミスだ。
これにコーヒーがついて4,500円は、信じられないほどお値打ち。月ごとにメニューが変わるので、毎月でも通いたい気持ちになる。
▲ワインはすべてイタリア産。サルデーニャ州をはじめ、さまざまな地方のワインをバランスよく取り揃えている
「こだわりはありません。これからも、カジュアルで誰もが楽しいと感じるような料理を作っていきたい」
木村シェフの作るパスタや肉料理には、本場で学んだイタリア郷土料理の伝統が、揺るがぬ確かさで息づいている。だが魚料理にはどこか、素材をシンプルに味わう潔さを追求する和食の美学も感じられる。それはもともと築地で魚専門の卸をしていて、魚料理専門の割烹の板前に転身したという木村シェフの父親の影響かもしれない。
オープンから9年、「年を追うごとに、イタリアの食材よりも日本の食材を使う料理の割合が多くなっています」と語る木村シェフ。
「日本の食材がおいしいから、仕方ないんです(笑)。築地も近いから、食材を選ぶのが楽しくて」。
そんな“築地愛”あふれる木村シェフが目指しているのは、“ポップなイタリアン”。
「もっとカジュアルで、誰もが楽しいと感じるような料理を作っていきたいですね」(木村シェフ)
【メニュー】
おまかせコース 4,500円
グラスワイン 750円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
サポセントゥ ディ アキ
- 電話番号
- 050-5487-9745
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 火~日
11:30~14:00
18:00~23:00
(L.O.22:00、ドリンクL.O.22:00)
- 定休日
- 月曜日
※月1日の不定休あり
※8月12日~8月16日 夏季休暇
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。