チェーン店スーパーバイザーやオーナーを経て、焼鳥の名店に弟子入り
焼鳥は日本人にとってなじみ深い大衆食の代表格であるが、『ミシュランガイド 東京』に掲載されたとなるとその影響は顕著で、日本だけにとどまらず海外からの来客も増えるという。
東京・北千住に店を構える『バードコート』も然り。料理長の野島康之さんは、外国人客から「日本に来てこの店の焼鳥を食べるのが楽しみでした」と声をかけられることもあると話す。
野島さんが同店をオープンしたのは1999年のこと。銀座の名店『バードランド』和田利弘氏に弟子入りしたなかでいち早く独立を成し遂げたとして知られる野島さんだが、それ以前に働いた先は『モスバーガー』『ドトールコーヒーショップ』と、毛色が違うことに驚かされる。
大好物のテリヤキバーガーを毎日でも食べたいと学生時代にバイトとして入店した後、スーパーバイザーにまで昇格したモスバーガー時代、その後「自分でも店をやってみたい」と加盟店契約したドトールコーヒー時代を足すと15年弱。その間に経営の基礎を身に付けていたことが、独立を許可される決め手だったのではと自身は分析する。
『バードランド』師匠には料理人としての姿勢も教わった
とはいえ、『バードランド』での1年半のがんばりは相当なものだったに違いない。
ドトール時代に食事に訪れた『バードランド』で焼鳥を食べ、「初めてモスバーガーを食べたときのような衝撃」を受け、「師匠の下で修業して焼鳥屋になる!」と決意してからは寝る間も惜しんで焼鳥のいろはを学んだ。
閉店後に店に居残り、深夜2~3時まで串を焼いては試食の毎日で、寝泊りは店の2階の倉庫。見守ってくれた師匠・和田氏からは「おいしいのは当たり前。おいしいだけじゃなく、人を感動させる料理を提供できないとダメ」と料理と向き合う姿勢についてのアドバイスもたくさんもらったという。
日本酒ともワインとも相性がいい奥久慈しゃも
修業時代にマスターしたメニューのひとつが、本家『バードランド』で人気の定番料理「自家製レバーのパテ」(写真上)。
『バードコート』での原材料の配合は野島さん流に多少アレンジされているが、茨城県奥久慈(おくくじ)しゃものレバーを使用することと、醤油やタマネギとともに煮込んでバターを和える製法は変わらない。
日本食とはなじみが薄い調味料は使わないため、日本人の舌にしっくりとなじむパテに仕上がっているのだ。おもしろいのは、醤油の風味が強いのにワインとも相性抜群なところ。野島さんいわく、とりわけエレガントで軽やかな味わいのブルゴーニュは、このパテのなめらかさと相性がいいのだとか。
野島さん自身お酒が大好きということもあり、日本酒もワインも豊富に用意しているが、ワインへの思い入れは特に強く、フランスワインの輸入会社である『フィネス』の社長とともにブルゴーニュを訪れて30ほどのワイナリーをまわり、見識を深めたこともあるほどだ。
そのため、「MEO CAMUZET(メオ・カミュゼ)」や「MARQUIS D`ANGERVILLE(マルキ・ダンジェルヴィル)」などのブルゴーニュワインは常時数種類オンリストされている。「BOURGOGNE ROUGE(ブルゴーニュ・ルージュ)」や「COTE DU RHONE MON COEUR(コート・デュ・ローヌ・モン・クール)」はグラスでも注文できるが、いずれも、歯ごたえがあってジューシーな肉質の奥久慈しゃもとは相性抜群。
また日本酒は、焼鳥のうまみを存分に堪能してもらえるよう、埼玉『神亀酒造』の「神亀」をはじめ、骨格がしっかりしていて酸を強く感じられるものを中心にラインナップしている。
まずは「串焼き7本コース」で部位ごとの魅力を堪能しよう
焼鳥は、定番のねぎまやつくね、レバー、鶏皮、わさび焼きに季節の野菜串を加えた「串焼きコース」から試すのがおすすめ。
身がぎゅっと締まって脂肪分が少ない奥久慈しゃもは、ゆっくり丁寧に火入れすることで驚くほどやわらかくジューシーに焼きあがる。
淡泊な肉質でありながら、しっかりしたうまみを秘めた「わさび焼き」(写真上)は、わさびの刺激が少なくマイルドな口当たり。日本酒と合わせてスッキリと楽しむのもよさそうだ。
シンプルに塩で仕上げられた「レバー」(写真上・左)のやわらかさは驚異的。同じく塩をした「鶏皮」(同右)。
ともに、肉と肉の間の「詰まり」がまったくないのは、火を通すうちにふっくらと広がることを想定して串に刺しているからなんだとか。
肉質のやわらかさを堪能できる「ねぎま」(写真上)は、ねぎの焼き加減もちょうどいい。大きめにカットされたしゃもを、好きな酒とともにゆっくりと味わってほしい。
弾けんばかりのまんまる黄身に浸しながらいただく「つくね」(写真上)は、最後に残った肉汁と卵でバケットをいただけるのも楽しみのひとつだ。
野菜串2本のうち通年で提供しているのが、絶妙な塩加減を楽しめる「ギンナン」(写真上・左)。豊かな香りを満喫できる「キャベツ~トリュフ塩で~」(同右)ともに、しっかりとした存在感を残しつつも、奥久慈しゃもを引き立てる名脇役としての役割も果たしてくれる。
「真においしいとは?」を想いながら、日々、焼鳥を焼き続けている
『バードランド』が焼鳥店としてはじめて『ミシュランガイド 東京2010』一つ星店に、その1年後に、自身の『バードコート』も掲載されて以来、他ジャンルの料理人が国内外問わず食べに来ることもあると教えてくれた野島さんに、「逆に外食して自身が学ぶこともあるのか?」と聞いてみた。
すると返ってきたのはこんな言葉。
「行きつけのフレンチでは、毎度接客の質の高さに感銘を受けます。数カ月ぶりに訪れても、そのときの会話を昨日のことのように振り返ってくれるきめ細やかさには脱帽です。料理人の想いが詰まったメニューも、心からおいしいと思えるものばかり。そのときの感動を忘れず、『真のおいしさとは?』を想いながら気持ちを込めて焼鳥を焼くようにしています」(野島さん)
はるばる遠方からもファンが訪れるようになっても、お客や食材に向き合う気持ちは変わらないまま。これからもずっと、おいしい料理を提供することにひたむきであるのみだ。
撮影:佐々木雅之
【メニュー】
串焼き7本コース(鶏串5本、野菜串2本)2,500円
自家製レバーのパテ 1,000円
ワイン グラス850円、デキャンタ2,500円、ボトル5,000円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
バードコート
- 電話番号
- 03-3881-8818
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 17:30~22:30
(L.O.22:00)
- 定休日
- 月曜日・日曜日
※8月中旬、年末年始
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