オープン前から予約が殺到! 話題のシェフが独立
四ツ谷駅から数分ほど歩いた場所に、“骨太フレンチ”“男前フレンチ”という言葉を生んだ『北島亭』というフレンチレストランがある。
今どきフレンチの“少量多皿”の逆を行く、一皿のボリューム感と直球の味が人気で、連日常連客がひっきりなしに訪れる有名店だ。
そちらで16年、スーシェフとして腕を振るっていた大石義壱さんがついに独立し、自身の店を構えるとの話が流れると、なんとお店の場所も名前も未定という状況の中、続々と予約が入るという事態が起きた。
そして2019年9月2日にオープンすると、SNSでも連日投稿が止まらない! 今年後半に現れた、グルマンたちの「今年の一店」になり得る本命店が、『銀座大石』だ。
寛ぎを感じるナチュラルな店内
しかし、ビルの表には案内もなく、エレベーターを降りると無機質なドアが一枚。そのドアを開けると、広々とした全12席のカウンターが広がる。
「フレンチレストラン」というイメージからすると、やや和のテイスト。大石シェフはこう話してくれる。
「まず、カウンターのお店にしたかったんです。そして自分のラッキーカラーであるゴールドをアクセントにしたかった。また炭を使った焼き台を入れたかった。この3つをメインに仕上げていくうち、おのずとナチュラルで、和風のエッセンスを感じる仕上がりになりました」。
「カウンター」へのこだわりの理由は、大石シェフの目指す料理と関係がある。「カウンターは材料も作る過程もすべて見える、すると嘘のつけない料理ができあがる。だから、どうしてもカウンターにしたかったんです」(大石シェフ)。
『北島亭』出身のシェフが出す『銀座大石』の味とは?
テーブル席で構成される『北島亭』とはだいぶイメージの違う店内だが、料理についてはどのような違いがあるのだろうか?
「自分の腕と味を作ったのはやはり『北島亭』です。自分の料理の歴史のほとんどですから。16年もいた『北島亭』は自分のDNAで、忘れたくない、忘れてはいけない味の根底だと思います。店主と毎日通った築地や豊洲で、自分の目で素材を選ぶ大事さも学びました。そして今も毎日、豊洲で食材選びから1日を始めています」(大石シェフ)。
「とはいえ、“銀座大石らしさ”も味わって欲しい。たとえば、『北島亭』のアイコン的な一皿である“雲丹のコンソメ”をお出しするにしても、自分なりにその一皿に向かい合い、“大石の素材”“大石のコンソメ”で再構築してみました」(大石シェフ)。
あのアイコニックな一皿を大石流に!
その『北島亭』へ想いを寄せた一品という「雲丹のコンソメ」(写真下)がこちら。
雲丹、ジュレ仕立てのコンソメ、カリフラワーという構成は同じだが、『銀座大石』ではカリフラワーをムース仕立てに。また北海道余市産の塩水雲丹の澄んだ味わいを引き立てるため、一歩引いたコンソメに仕立て、テクスチャーも雲丹より緩く仕上げている。その色も味も控えめで、しかしひと口味わうとわかる、そっと添うようなうまみ。
儚げなコンソメだが、ベースは鶏に牛とベーシックに。火入れの引き具合など細部に注意を払い、この仕上げにしたそう。
フランス料理とは、素材とソースの「重なりの料理」というが、何を重ね、何を引き、何を主役にするかを考えていることが、このひとさじで伝わってくる。
クラッシックフレンチの韻を踏んだ、食感の重なるアミューズ
またクラッシュフレンチの韻を踏んだアミューズ「毛蟹のサラダ」(写真下)も素晴らしい“重なり”を感じる。
手渡しで提供されるこちらのアミューズは、北海道・噴火湾産の毛蟹をドレッシングで味付けし、その毛蟹をサンドしているのが、膨らまないようにシート状に焼き上げた、グジェール。フレンチの古典であり、アミューズとしてよく用いられる、チーズを混ぜた風味のいいシュー皮状の料理だ。
そしてその上にアボカドバターを凍らせたものをのせ、さらにその上に桜チップで燻製したキャビアで仕上げ、提供直前にスダチを絞って仕上げている。
手で提供されるさまも、まるでシェフと挨拶を交わしながら握手でもするような感覚になる。これはカウンターフレンチではないとできない料理だ。
ひと口で頂くこのアミューズ、噛むと食感の層に驚く。サクッと感、みずみずしさ、冷たさ、そしてはじける感覚! この小さな料理にここまで詰まっているとは!
また燻製の“香り”、すだちの“酸味”、アボカドのコク、グジェールのクリスピー感、蟹の甘みとフレッシュさ。幾重にも重なり、広がる味を感じることができる。直径3、4㎝程度のひと口大の料理に広がる味に、誰もが驚くだろう。
締めはなんと「土鍋」と「ご飯」を使って・・・
さて、こちらでは通常13~15皿の料理が出るそうだが、締めの料理がまた面白い。一般的なフレンチと同様にパンも提供されるが、大石シェフの「ご飯で締めたら満足感があって楽しい!」という想いから、土鍋ご飯を出すという。
土鍋ご飯で締めるというと、和食店でよくあるコース展開だが、その工程はまさにフレンチであった!
作り方をうかがうと、炒めた米を鮑の肝と魚のだしを合わせたもので炊く。ここまでは普通の土鍋ご飯だ。が、ここからフレンチの風が吹く。メインの千葉県大原産の鮑に小麦粉をはたいて発酵バターでムニエル状に焼き、仕上げにぎゅっとスダチを絞り、味を止める。
そしてその鮑をカットしたものとご飯を合わせ、盛り付け時に再度焦がした発酵バターと鮑のだしをかけ、スダチをさっとすりおろす。この手のかけ方はまさにフレンチの「土鍋ご飯」であろう。
そしてできたのが「鮑の土鍋リゾット」(写真下)。
鮑は歯ごたえの優しい黒鮑などは使わず、お米の柔らかさとの対比を求め、あえて歯ごたえのある質のものを選び、さらに締めの料理として「軽さ」を出すため、バターではなく発酵バターを使い、酸味で口中が爽やかになるように、スダチで仕上げる工夫をしている。
土鍋というルックスは和食風であるが、食べると広がるフォンのうまみとそこに絡まる発酵バターの風味は「銀座大石はフレンチである」と告げている。
さて、実はカウンター上のテーブルセットにはお箸も置かれている。
この理由を大石シェフにうかがうと、「カジュアルに、気さくに食べられると、楽しくないですか? 今、日本は各地においしいお店がいっぱいある。その中で自分が目指したものは、“おいしくて楽しいお店”。サービスもそうです。自分たちが他のお店で受けてうれしかったこと、楽しかったことを実践する。そう考えると、このお店は何料理でもない、『銀座大石』という料理を出すお店なのかもしれません」。
インタビュー中の2時間、ずっと笑顔でお話を聞かせてくれた大石シェフ。食の街・銀座に新しい風を吹かせる『銀座大石』。ここにしかない時間と一皿に出逢いに、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。
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おまかせ 24,500円
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撮影:岡崎慶嗣
銀座 大石
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