地方の土壌と文化と共に生まれた「フランス郷土料理」
フランスは西ヨーロッパ内最大の面積を誇り、その大きさは本土だけでも日本の1.5倍ほどと言われている。
その広大な土地の中で、平野、川、山脈、海とさまざまな表情を持つフランスは、各地方の土壌や文化によって各地で独自の発展をとげ、それぞれの地域で育まれた料理、つまり「フランス郷土料理」ができあがった。
そんなフランス郷土料理の中でも、フランス西海岸サンマロ湾上に浮かぶ世界遺産の小島「モン・サン=ミッシェル」などが有名なノルマンディー地方の郷土料理が楽しめるレストランが東京駅から歩いてすぐの「国際フォーラム」内にあるという。
それがこちら、ノスタルジックな赤い格子窓に大きく開かれた扉が印象的な『ラ・メール・プラール』だ。
外観も内観も現地の本店を再現! そこはまるでフランス西海岸
赤にポイントを置いた外観はモン・サン=ミッシェルにある本店のエッセンスを生かして作られたもの。
カラーリングや家具もできるだけ現地のテイストに合わせているそうだ。
店内に入ると壁には現地で使われている銅製の大きなサイズのボウルと、釜に出し入れできるように作られた柄の長いフライパンがずらっと並んでいる。
また、現地の写真や現在の『ラ・メール・プラール』の礎を築いたマダムプラール(Madame Annette Poulard)氏の写真も飾られており、旅情を誘う。
店内に響く卵のミキシング音が『ラ・メール・プラール』のBGM
キッチン側に近付くと、どこからかリズミカルな音が聞こえてくる。その正体は卵をミキシングしている音!
「モン・サン=ミッシェルの本店では、1日中まるで楽器を演奏するように一定のリズムを刻む、ミキシング専門の職人もいます」と教えてくれるのは店長兼料理長の安達正道さん。今回は本場ノルマンディーの味にこだわった、『ラ・メール・プラール』おすすめのノルマンディー郷土料理を紹介してもらった。
ノルマンディー地方料理の特徴は?
ノルマンディー地方はフランス西海岸部に位置し、湾上に浮かぶ世界遺産「モン・サン=ミッシェル」を含むエリアを差す。
気候は暖かく穏やかで、果物の栽培や酪農も盛ん。また、舌平目やムール貝、小型のオマール海老など魚介類を多用した湾岸部と、フランスきっての酪農地帯である内陸部では乳製品と肉類を多用した料理が中心で、食文化ではふたつの面を持つ。
そのどちらにも共通するのが、新鮮な乳製品を使ったクリーム仕立ての味わいが中心であること。魚介のスープやオムレツのソースもクリーム状のレシピが多い。
また、フランスというとワインというイメージが強いが、ここノルマンディー地方では気候的にブドウが育ちにくく、代わりにリンゴや洋ナシなどが多く作られている。アルコールもリンゴの果汁を発酵させたシードル酒やシードル酒を蒸留させたカルヴァドスが中心で、「ノルマンディー風」と名のつく料理には、乳製品やリンゴ、シードル酒を使っているものを指すことが多い。
【主な郷土料理】
メール・プラールのオムレツ(スフレオムレツ)、舌平目のノルマンディー風、羊(プレ・サレ)料理、鶏肉のオージュ渓谷風(カルヴァドスを使った煮込み料理)、マルミット(ココット・鍋)料理、カマンベール・チーズ、リンゴのブルドロ(パイ生地で包んだ焼き菓子)、ガレットなど
『ラ・メール・プラール』で提供されるノルマンディー郷土料理は、創設者で“プラールおばさん”という名前で今も現地で親しまれているマダムプラール氏の作った700以上のレシピを元に作られているそうだ。
1000年の歴史と文化を味わう!『ラ・メール・プラール』のノルマンディー郷土料理
『ラ・メール・プラール』では日本の味覚や食材に寄せたアレンジメニューもあるが、スペシャリテである世界的に有名なメニュー「スフレオムレツ」やシードル、ムール貝料理、スープドポワソン(濃厚な魚介だしのスープ)、ノルマンディー地方のチーズ、ノルマンディー風のサーモン料理、羊料理、シードルを使ったデザートやガレットなど、前菜・メイン・デザートと幅広いノルマンディー郷土料理が揃っている。
では、モン・サン=ミッシェルに興味のある方なら必食、日本店でも一番人気の「スフレオムレツ」からデザートまで、ノルマンディー地方の料理を見せてもらおう。
▲スフレオムレツ
モン・サン=ミッシェルへ訪れた巡礼者へ、動物性たんぱく質なしでも満腹になってもらおうと創業者のマダムプラール氏が考案した『ラ・メール・プラール』のアイコンともいえる一品。卵3個を使い、日本のお店では本店の“窯焼き”の味に近付けるため、燻製塩を練りこんだバターをたっぷり使って焼いている。
日本では6種の味があるが、写真は「きのこと押し麦のクリームリゾット フォアグラのポワレ」を添えたもの。実は現地近くに加工工場のあるフォアグラはノルマンディー地方では人気の食材。
そしてこちらの料理はいかに卵をふんわり泡立てるかにかかっている。その泡立ての秘密はシェフたちの技術と、この三重になったホイッパーにある。
「常温に戻した新鮮な卵を使い、リズミカルにミキシングします。リボン状のかたさになったら鍋へ一気に注ぎ入れ、中弱火で休ませながら、じっくりと火を通します。卵は火が通りやすいので、気泡の様子を見極めながら盛り付け時を判断しています」(安達さん)。
大皿じゃないと乗り切らないようなボリューム感は現地と同サイズ。ひと口食べるとじゅわっと口内に卵の甘みとうまみが広がり、そして静かに溶けるようなムース感はなかなか味わえない食感!
卵のほのかな甘みと付け合わせのきのこの豊潤な香り、押し麦の食感やフォアグラのコクが相性よく、スプーンを運ぶ手が止まらなくなる。
700年前のレシピとは思えない、現代でもじゅうぶん通用する味! 現地では1日に1000皿以上出るというのも納得である。
▲チキンとフォアグラのノルマンディー風
ふっくらとソテーしたチキンとこんがり焼いたフォアグラの上にかかっているのは、ノルマンディー地方ではさまざまなレシピに使われているという、生クリームを使ったクリームソース。付け合わせの野菜やマッシュルームと一緒に、たっぷりクリームソースをつけて食べると、お腹も大満足! ノルマンディー地方の恵みを感じる贅沢な一品だ。
クリームソースのテクスチャーは軽く、ハーブのアクセントもあって食べ飽きない。この「食べ飽きなさ」「毎日おいしい味」という面も郷土料理の醍醐味だろう。
「ノルマンディー地方では前菜やスープ、メインディッシュからデザートまで、乳製品を使ったものが多いのですが、ハーブや野菜の組み合わせで飽きずに食べられる工夫がされています。ノルマンディー地方の乳製品は品質もよく、フランス全土で愛されています」と、安達さんは話してくれる。
▲シードル風味の塩キャラメルソースを使ったガレット
日本でも人気の高いガレット(クレープ)だが、実はノルマンディー地方が発祥の地。安達さんいわく、「ノルマンディー地方のデザートはシンプルで素朴。ただ、現地の人はその素朴なデザートにたっぷり生クリームをのせます。名産ですからね」とのこと。写真のガレットは、現地で大人気の塩キャラメルソースにシードル酒を加え、よりノルマンディー地方の風味を増したスタイル。
ガレットといえば折りたたんだ四角形というイメージだが、生地をくるくるとロール状に巻き、シードル酒・バター・塩を混ぜたソースをかけ、アクセントにピスタチオをのせている。もっちりした生地と甘しょっぱいソースの相性が絶妙!
さすがヨーロッパというべきか、どのお皿もなかなかのボリューム感だが、ここ『ラ・メール・プラール』ではランチタイムは名物のスフレオムレツも楽しめ、ディナータイムもモン・サン=ミッシェル、ノルマンディー地方の味が少しずつ楽しめるコース料理も準備されている。
マダムプラールのノルマンディー郷土料理レシピを現代の日本に
ノルマンディー地方の本土は海や内陸に面しているが、モン・サン=ミッシェルは離島で土地も痩せており、乳製品や保存のきく野菜、肉を上手に使いまわして毎日の食事を作っていたそうだ。
安達さんの思うノルマンディー郷土料理とは、「シンプルで素材重視の家庭料理がベースになっており、初めて食べる日本人の方でもどこか懐かしさを感じると思う。修道院のあった『ラ・メール・プラール』の目指した味は身体の休まる料理。量はそこそこありますが味わいは優しく、幅広い年代の人に楽しんでいただける味」だと言う。
優しさが根底にある素朴な「ノルマンディー郷土料理」。アクセスもよく東京観光の際にもおすすめな『ラ・メール・プラール』で、フランスの地方の味わいと1000年の文化を味わってみてはいかがだろうか?
【メニュー】
コース 3,200円、4,800円
スープドポワソン 1,000円
チキンとマッシュルームのクリームスープ 900円
チキンとフォアグラのノルマンディー風 1,800円
キノコと押し麦のリゾット フォアグラのポワレのスフレオムレツ 2,100円
シードル風味の塩キャラメルクレープ 600円
シードル 600円
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ラ・メール・プラール
- 電話番号
- 050-3171-7167
- 営業時間
- 11:30~22:00(L.O.21:00)
- 定休日
- 年中無休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。