幸食のすゝめ#095、青い鮫には幸いが住む、本駒込。
「このアイスクリームちょうだい、後ろに書いてある方」、サラサラ髪の男のコがメニューを指差しながら、店主の菅原さんに何度も話しかける。
「ダメだって、それ!カルダモンペッパーでしょ。全然、甘くないから」、「でも、アイスクリームなんでしょ!」、「アイスだけど、スパイスがたくさん入ってて辛いの。大人のおつまみ用だからさ、無理、無理」、「マーマレードの方にしたら? あ、ごめん、今日はもう売り切れちゃってた」。

小さい頃から通っているのだろう、まるで親戚同士みたいに、すっかり打ち解け合っている2人。
隣では、ネパール風に味付けされた大根のスパイス和え、ムラコアチャールをつまみながら、若いお母さんがベルギーの白ビールを飲んでいる。
菅原さんの気さくで和やかなムードが、白と木材を基調とした明るい店の印象をさらに温かく包み込む。カウンター後ろの壁には、ターメリック色で描かれた象と花のイラスト。はしゃいでいる子どもが、絵本の中の主人公に見えてくる。

市場の移転と共に、多くの人気飲食店も引っ越した豊洲市場。場内に並ぶ店の中で、今もたくさんの客を集めているのが、築地以前、日本橋時代からの老舗、菅原さんが働いていたカレー店の『中栄』だ。
朝5時の開店から午後2時の閉店まで常に満員状態、意外にも行列ができないのは提供の素早さと回転のスムーズさにある。
客は着席と同時に、辛口の「インド」か甘口の「ビーフ」、あるいは「ハヤシ」、「合いがけ」と注文。瞬く間に、目の前にカレーが登場する。
最近は、炙りチャーシューなどのスペシャルメニューもできたが、それらですら、提供に2〜3分しかかからない。スパイスバーの原点は、出身店『中栄』にあった。

日本式カレーライスの1つの到達点である『中栄』で調理しながら、どんどんカレーの魅力に引き寄せられ、スパイスに覚醒して行く菅原さん。家に帰れば、ビリヤニやアチャール(インドのピクルス)、南インド料理の試作に没頭した。
スパイスのエッジが立ったインド料理は、ビールやワイン、焼酎にだって合う。前菜で酒を楽しみ、カレーで〆る。そんな店があったら、きっと自分だって通い詰めるだろう。
たくさんつまみを楽しんだ後の〆だから、カレーはSサイズも用意しよう。そうだ! 『中栄』が元祖の「合いがけ」もいい。バーと言ってもカレー屋だから、土曜や日曜、祝日にはランチも出そう。
谷根千散歩の人たちにも、ぜひスパイスの魅力を知って欲しい。
スパイス飲みという新しき魅惑

夜はもちろん、スパイスバーの本領発揮だ。本郷通りから千駄木の団子坂へ抜ける道に『コザブロ』というオレンジ色の看板が灯ると、ターメリックイエローのバータイムが始まる。

まずはスパイシーコールスローや、ひよこ豆のサラダ、チャナチャットでグラスワイン。キャロットラペもいいし、砂肝や貝のピックル、アチャールもいい。迷ったら、3種か5種のおまかせ前菜盛りも用意されている。

鶏やラム、気仙沼産鮫の串焼も絶対にマークしたいメニュー。何故なら、『中栄』前の職場は焼鳥屋、菅原さんは焼きの技術もプロだ。特製スパイスでマリネされた串物は、レモンやミント、ココナッツなどをミックスしたインド風ペースト、ミントチャトニが添えて出される。口に含むと、心はもうケララの風に揺れているだろう。
個性が際立つ4種のカレーたち

主役のカレーは、『コザブロ』ならではのスパイスマジックが炸裂する。
チキンはサラサラでヘルシーなスリランカ風、鮫のカレーにはレモングラスとコブミカンでタイ風のアクセント。でも、主役のアオザメとスパイスがしっかりインドを主張する。人気のキーマはカシア(シナモン)とラムの香りが混ざり合うゴア風味。

ホクホクひよこ豆のチャナマサラは、トマトベースながら濃厚な仕上がりで、肉がなくても大満足。
それぞれの合いがけも出来るし、スモールポーションも選べる。食後にはデザートかチャイを頼んで、スパイシーな夜を締めくくろう。帰り道にはもう、初めて食べた鮫の味が恋しくなっているはずだ。
青い鮫には、幸いが住んでいる。
<メニュー>
おまかせ前菜3種盛800円、おまかせ前菜5種盛1,200円(S)1,000円
焼物200円〜250円、ネギ焼き300円(2串)、カレー各種1,000円(S)700円、
お好みカレー2種合いがけ1,200円(S)900円、ビール600円〜、サワー400円、
グラスワイン650円~、チャイ400円、自家製アイスクリーム380円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です
スパイスバル コザブロ
- 電話番号
- 03-6874-1597
- 営業時間
- (水〜金)18:00-24:00(L.O.23:30)、(土)17:00-24:00(L.O.23:30)、(日)17:00-21:00(L.O.20:30)、ランチ(土日)11:30-15:00(L.O.14:30)
- 定休日
- 月曜、火曜 (祝日も含む)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
