さりげなく日常に寄り添う。早くも地元で愛されるビストロ
新宿から20分ほどの小田急小田原線「祖師ヶ谷大蔵(そしがやおおくら)」駅。落ち着いた雰囲気の住宅街と賑やかな商店街が共存するこの街には、食にこだわる人たちも満足するグルメな店がさりげなく潜んでいる。
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2018年12月、千代田区麹町から祖師ヶ谷大蔵に移転オープンしたビストロ『春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)』もそんな一軒だ。心和ませる雰囲気と本格的な料理に、早くも多くのファンが生まれている。
駅前から始まる、通称「ウルトラマン商店街」は、朝から晩まで人通りの絶えない賑やかな商店街。その横道にひっそりと看板が出ている『春風駘蕩』は、ちょっと秘密にしておきたくなる隠れ家らしい風情がある。
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地下に続く階段の先にあるグリーンのドアを開けると現れるのは、外の喧噪が嘘のような落ち着いた空間。アンティークの家具が、年月を経た落ち着きと木の温もりを感じさせ、大人がくつろげる雰囲気を醸し出している。
春風のように心地よい空間で過ごすひととき
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「春風駘蕩」という四字熟語は、春風のようにうららかなさまを意味する。お店を訪れた人にも、リラックスしてゆったりとした時間を過ごしてもらいたいという想いから、その言葉を店名としたのだという。
「帰り際に、“おいしかった”より“楽しかった” と言ってもらえるような店でありたいですね」
店はオーナーシェフの大塚将央(まさお)さんと奥様のあゆみさんの二人で切り盛り。温かな笑顔あふれる自然体のもてなしが『春風駘蕩』で過ごす時間を居心地の良いものにしてくれる。
正統派フレンチからイタリア郷土料理、スペインバル料理まで。多彩なキャリアをもつ大塚シェフ
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大塚シェフは、クラシックなフランス料理を得意とするレストランでキャリアをスタート。その後、家庭的な郷土料理を学ぼうとイタリアへ渡り、ウンブリア州ペルージャのオステリアでの修業を経て、神楽坂の老舗スペインバル『エル・カミーノ』の姉妹店で4年間活躍した。
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2011年に独立し、奥様のあゆみさんとともに、ワインを気楽に楽しんでもらおうと日本ワインをメインにした『春風駘蕩』を麹町にオープン。ビルの建て替えに伴い、移転先を探していた時に出逢った街が、祖師ヶ谷大蔵だった。
「食べることを楽しんでいる人が多いですね」
大塚シェフは街の魅力をこう語る。これまで全く縁がなかった土地だが、地元に根付いた店で食を楽しむ人々の姿を見て、ここにしようと決めたという。
飲み疲れない、食べ疲れない、ほっとする味わい
麹町時代はワインバースタイルだったが、移転後はシェフが得意とする料理を充実させた。ワインは料理に合うものを産地関係なくセレクトし、料理もワインも、楽しみの幅がさらに広がったビストロスタイルとなった。
コンセプトは「飲み疲れない、食べ疲れない、ほっとする味わい」。
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「素材の味がちゃんとする料理を作りたいですね」(大塚シェフ)
目の前にある素材が一番おいしくなるようにと、シェフの多彩な引き出しから生まれる料理の数々。
おのずと、ジャンルは多様となり、フレンチからスペイン料理のタパスまでジャンルにとらわれない料理がメニューに並ぶ。
家庭料理のようにほっこり和み、さらに素材を活かす繊細な工夫も施された料理を、ご紹介しよう。
季節のスープは、いろいろな食材のうまみが溢れる
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「だしを感じられる料理は、日本人をホッとさせると思うんです」(大塚シェフ)
同店では、旬の野菜を使ったスープがシーズン毎に登場する。立ち上る湯気もごちそうの「レンズ豆と自家製ソーセージのスープ」(写真上)。フランスのニースで食べた思い出の料理をシェフ流にアレンジした一品だ。
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だしには、なんと生ハムの塊を丸々使っている。肉のうまみ、たっぷり入ったレンズ豆のほっこり感、野菜の甘み、そして隠し味に入れているオリーブオイルのコクとビネガーの酸味。それぞれの味のバランスが絶妙で、複雑さがありながらも飲み口はサラリとしている。
ゴロッと入っている、ほんのりスパイスが利いた粗挽きソーセージとの相性も抜群。飲み進むにつれて、奥深い味わいがしみじみと体に染みていくようだ。
定番メニュー「鶏せせりの串焼き」は、お酒との相性も抜群
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店を訪れる人のほとんどが頼むという、おつまみ系メニューの「鶏せせりの串焼き」(写真上)。うまみが強い鶏せせり肉をグリルでこんがり焼き、スペイン・カタルーニャ地方の名物ロメスコソースを塗って、軽く炙っている。
ロメスコソースとは、パプリカ、トマト、ナッツ、ニンニクなどをすりつぶしたソース。アクセントに、すりおろしたレモンの皮を散らしている。ナッツの芳ばしさとパプリカの甘みの組み合わせが絶妙で、ジューシーな鶏肉のおいしさをさらに盛り上げてくれる。一度食べるとクセになるおいしさだ。
「パスタ」や「肉のグリル」にも、食べ手を考えたひと手間を
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うどんのように極太で少し不揃いなビジュアルがユーモラスな、ウンブリア州の郷土パスタを使った「ウンブリチェッリ 豚ほほ肉ハムのソース」(写真上)。モッチリ,シコシコと強い弾力が特徴。もちろんシェフの手打ちだ。
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合わせるソースは現地の定番。タマネギとグアンチャーレという豚ホホ肉のハムを炒めたものに、白ワインと水を加えて煮詰め、塩で味を調えたもの。白ワインの酸味が効いているため、ハムの脂身によるコクがありながらも爽やか。たっぷりかけられたペコリーノロマーノも、ミルキーに口の中に溶けていく。
シンプルでありながら、ギューッとうまみが詰まったソースは、長年人々に愛されてきた郷土料理の偉大さを感じさせる。食べごたえもあるので、〆のメニューにもぴったりだ。
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同店では、岩手県から直に仕入れている食材がいくつかある。「岩手県短角牛内もも肉のグリル」(写真上)もその一つだ。
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こだわりは、レアではなくロゼ一歩手前まで施された火入れ。表面はカリッと芳ばしく、肉汁がじんわりにじみ出る程度の焼き加減。赤身肉ならではのうまみが凝縮され、しっかり中まで火が通っているので、胃にも負担にならない。
口に入れると、噛み心地が軽いことに気付くだろう。焼く前に塩麹で牛肉をマリネし、サクッと噛めるやわらかさにしている。“食べ疲れない”料理を心掛けるシェフの、食べる人への気配りだ。
デザートは、〆としてしっかり機能
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甘いものが好きという大塚シェフが作るデザートは、スイーツ好きの心をくすぐるものばかり。
「栗のクレームブリュレ シナモンのアイス」(写真上)。シンプルで味が単調になりがちなクレームブリュレに、粗めに砕いた栗ペーストをプラス。ゴロゴロした食感も楽しく、ボリューム感のあるデザートに仕上げている。
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栗はフランス産のものを使用。小粒で濃い味わいを生かし、甘さは控えめ。代わりに、シナモンアイスクリームはしっかり甘みを利かせている。
温かいクレームブリュレと冷たいアイスクリームのコンビは絶妙で、溶けたアイスクリームをソース代わりにして食べるのもよいだろう。
料理全体では軽い食べ心地を目指しているが、デザートは、逆にバターや砂糖をしっかり使っている。食事の〆としてお腹にたまるようにとの考えからだ。
ワイナリーから直に仕入れたものも!夫婦こだわりのワインがずらり
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オーナー夫妻揃って、ワイン好きだという。店で供するワインはすべて二人で試飲して選んでおり、常時、赤・白からオレンジワインまで約80種類ほどをラインナップ。インポーターからおすすめのワインを仕入れることもあるが、日本ワインは特に、麹町時代からの付き合いを重ねてきたワイナリーから直に仕入れているものが多い。
シェフ自らが、自分の料理に合うように選んだワインなので、どれを選んでも相性は抜群。
「ペアリングなどと難しく考えず、気楽に楽しんでほしいですね」(大塚シェフ)
グラスワインは、赤・白3種類ずつ、スパークリング1種類を用意。21時を過ぎれば、ワイン一杯におつまみといったワインバースタイルで楽しむこともできる。
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食べる人の気持ちに寄り添う優しい味わいの料理、生産者の想いが感じられるワイン、そして笑顔が満ちている空間。
「おいしいものを食べて、ほっこりしたい」という時に、ぜひ訪れてほしいビストロだ。
【メニュー】
レンズ豆と自家製ソーセージのスープ 1,500円
ウンブリチェッリ 豚ほほ肉ハムのソース 1,700円
岩手県短角牛内もも肉のグリル 3,900円
鶏せせりの串焼き(1本) 700円
栗のクリームブリュレ シナモンのアイス 780円
ワイン 720円~(グラス)
※料理は、「鶏せせりの串焼き」以外2人前量。記事中の写真は取り分けた1人前
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税抜です
春風駘蕩(シュンプウタイトウ)
- 電話番号
- 050-5488-0979
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 月・水~土
18:00~24:00
(L.O.23:00)
日・祝日
18:00~22:00
(L.O.22:00)
- 定休日
- 火曜日
定休日以外でお休みを頂くこともございます。当店ホームページが最新の情報となりますのでご確認頂きますようお願い申し上げます。
https://shunpu-taitou.info/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。