ラグビーと酒の幸せな関係。祭典が終わってもまだまだ続く
ラグビーの祭典、世界最高峰の戦い、その熱狂の日々も終わりに近づいてきた。日本での開催はかなりのチャレンジだったかと思うが、結果、瞬間視聴率で50%を越えるなど、社会現象ともなった。これはゲーム自体の面白さだけではなく、ラグビーカルチャー自体が日本という国にフィットしていた結果なのかもしれないとも思う。筆者はずいぶん前からラグビー好きだが、勝利の重み、喜びとともにここまで幅広い人々が熱狂したことにも驚きと喜びを感じている。
どんなジャンルを好きになるにしても最初は「にわか」で当たり前。最初からジャッカルだとか、ノットリリースザボールを知っていて、シックスネーションズという対抗戦があって、スーパーラグビーではハイランダーズが強いとか、全部を知らなければいけないということはないはずだ。野球で言えば、大谷が活躍している! から始まって、球種、花巻東と高校野球、ルール、相手球団の魅力的な選手、ファイターズのドラフト戦術、アメリカンリーグ西地区の戦力分析…どれでも次にひっかかったトピックスから興味のあるものが見つかって、だんだんその世界が広がり、始まっていく。
酒、ワインも同様だと思う。特にワインの世界に「にわかお断り」的な臭いを感じている人も多いだろう。筆者自身もそうだった。だからそこに風穴を開けたいと常に思っている。例えば、を続ければ、サッカーを見始めたときから4-4-2や4-1-4-1という「暗号」を知る必要はない。映画ならその監督の過去作品をすべて見ておく必要などない。きっかけは誰でもあり、第1歩で何に出逢うかもそれぞれだ。
このコラムをご覧いただいている方は、その逆でワインや食にすでに興味を持って、広げ、掘り下げるのも面白いと感じている方々だろう。前置きが長くなったが、今回の祭典でラグビーに出逢ったという方にお勧めしたいのが、ワインや酒を通してラグビーをもっと身近に感じるという方法だ。昨年、当コラムではサッカーとワインの関係を紹介したがその第2弾。いろいろな酒とラグビーの結びつきを紹介していく。
ラグビーと言えばビール! ではないことも……
ニュースでも紹介されていたが確かにラグビー好きはビールをよく飲む。今大会、札幌ドームでのイングランドのゲームを観戦したが、その前日のオーストラリアのゲームもあり、この週末の札幌はビール祭りの様相。本当によく飲むと実感。特にイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの英国系(ラグビーのアイルランドチームはアイルランド共和国と北アイルランドの連合チーム)は顕著。パブで散々飲んでスタンドで散々飲んでアフターで……。
しかし最近はワインもよく飲まれている。教えてくれたのは英国大使館筋の人だが、エピソードはスコットランドで行われたフランス戦。首都エディンバラ、6万7000人を収容する聖地マレーフィールド。その周辺のポップアップバーでワインが4000本以上売れたのだとか。その要因はファン層。英国では女性(子供も)の観客が多く、その女性たちがワインを好んでいるという分析。
イングランド対フランスの新ライバル関係
その英国、もともとワインの大消費地で目利きの国でもあるが、ここのところイングランド/ブリティッシュワインの評価も高まっている。特に顕著なのがイングランド南部で作られるスパークリングワイン。フランスのシャンパーニュと地質・土壌が似ていて、緯度も近い。英国王室御用達も出てきた。さらにこんな説が。ドン・ペリニヨンが瓶内二次発酵による、今でいうシャンパーニュ方式を見出す30年前に、英国の医者で科学者のクリストファー・マレットが生み出していたというのだ。もともとイングランドとフランスはラグビーではライバルチーム。華麗なる攻撃でシャンパンラグビーと呼ばれていたフランスからすればこれは受けて立たねば…? まぁ、このあたりは諸説もあり、いずれにしても乾杯してノーサイドで。
シャンパーニュかラングドックか
シャンパンラグビー。これは日本では古くからフランスラグビーの異名として使われていたが、そこに異論を唱えるのが南仏の、トップレベルでのラグビー経験もあるワイン生産者。曰く、ラグビーは南仏では文化で、そのスタイルを象徴するもの、とのこと。だからシャンパンラグビーではなく「フレンチフレア」(言っている意味は一緒)。こちらもバチバチと音が聞こえそうだが、観戦は南仏ワイン、祝杯はシャンパーニュということでノーサイド。
南半球の雄アルゼンチン
今大会もベスト8に進出。過去8大会中7大会を制した、南半球の伝統の強豪国、ニュージーランド(3回)、豪州(2回)、南アフリカ(2回)。ワイン好きであればニューワールドの雄とも置き換えられるだろう。ここに近年食い込んできたのがアルゼンチン。南半球では3か国対抗戦から現在アルゼンチンを加えた4か国対抗戦となり、この4か国のクラブチームで行われるスーパーラグビーでは、アルゼンチンのジャガーズが今季結成4年で準優勝に輝いた。ワールドカップでも2007年にベスト8、前回大会で4位に躍進。ラグビー同様、ワインも近年世界的な評価を高めている。アルゼンチンのラグビーといえば華麗な足技や変化にとんだ攻撃力などが特徴として挙げられるが、ワインで言えば赤のマルベック、白のトロンテス、さらにここにきてカベルネ・フランも注目とキャラ立ち+新しいトピックスも豊富だ。
肉とワインとラグビーと
アルゼンチンの食文化といえばアサード。牛肉などを豪快に炭火で焼き上げる料理で、このアサードがアルゼンチンの赤ワインにはよく合う。アルゼンチンの肉は良質な牧草で育つため余計な脂が少ない赤身で、最近、パタゴニア産の牛肉も日本に輸入され始めた。そのアルゼンチンの隣国ウルグアイも、肉とよく合うワインの国。こちらも肉×ワインが文化だ。日本ではまだ知られていないがウルグアイワインだが、タナというブドウ品種の赤ワインが素晴らしい。そしてこのウルグアイ。ラグビーでは無名だったが、今回の祭典では強豪国に勝利し歴史的な1勝を挙げた。アルゼンチンの隣国、好敵手として、肉、ワイン、ラグビーを覚えておきたい。
ジョージア対イタリア
この対決、ラグビーでも魅力的だがワイン好きからするとこんなフレーズが浮かぶだろう。「オレンジ&アンバーワイン対決」。もちろんラグビーと同様、ノーサイドの精神。どちらがどう、ではなく、オレンジワインの潮流や歴史を語る上で、ジョージアとイタリアは押さえておくべき2か国。イタリアは欧州の強豪5か国と対戦するシックスネーションズで一歩先に世界の強国に数えられたが、ジョージアが世界でその名を轟かせてきたのは2000年代から。強力なスクラムが特徴でフォワードの選手は海外のクラブチームからオファーが続々。ジョージアのアンバーワインのように世界での評価や人気が高まっている。日本と同様、世界の強豪国入り目前。ジョージアはラグビーもワインも注目だ。
ウィスキーの聖地はラグビーも熱い
スコットランド、アイルランドと聞けば、ラグビーよりも先にウィスキーと答える人も多いかもしれない。スコットランドはなんといってもスコッチの国だが、アイルランドも根強いファンを持つ。世界5大ウィスキー産地と呼ばれるのは質量ともに優れた、スコットランド、アイルランドに加え、カナダ(カナディアン)、アメリカ(バーボン)、そして日本。この5チームすべてが今大会には出場していた。日本はウィスキーの評価が世界で高まり、そしてラグビーも世界のトップに加わってきた。アメリカは次の次の開催国を狙い、プロチームによるリーグ戦が国内で始まった。ビール、ワインはもちろん、この5か国の対戦にはウィスキーもいい。
祭典は終わるが、ラグビーはこれからが本格的なシーズン。2020年1月からは国内では最高峰リーグであるトップリーグが始まる。日本代表として戦った選手がそれぞれのチームに戻り、今度は対戦相手となる。彼らと同等のレベルにいる選手、4年後を目指す選手もひしめく。2020年東京五輪の7人制の代表をかけての戦いも見どころだ。さらにオールブラックスの主将キアラン・リードをはじめ今回の祭典で素晴らしい輝きを見せた世界のトップスターも多数参戦する。実はトップリーグは南半球のプレイヤーにとってはいろいろな条件が重なり、かなり魅力的なマーケットで南アフリカ、豪州からも続々とトッププレイヤーが活躍している。彼らの活躍に彼らの母国の酒や食で乾杯、萬福。酒とラグビーの幸せな関係。どんどん広げていこう。
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