大規模再開発が進む渋谷に、『sio』の血統を汲む洋食店が誕生!
渋谷駅の南西側、旧「東急プラザビル」が新しく生まれ変わるかたちで開業した「渋谷フクラス」。この6階に、身も心も温まる洋食レストラン『パーラー大箸』が誕生した。
牛タンシチューや煮込みハンバーグを、ホカホカの白ご飯とともに“お箸で食べる”店だ。
鳥羽シェフが、自分の原点である“洋食”で勝負する店
ずば抜けた発信力と創造的な経営哲学で“時の人”となった鳥羽シェフだが、実は「洋食シェフの倅(せがれ)」であることはあまり知られていない。
「親父は国会議事堂の食堂で、ずっと洋食のコックをしていました。だから、僕の原点は洋食。オムライスやシチュー、海老フライ、そういった料理が小さいころから大好きで、休みの日は親父が家族のために料理を作ってくれました。肉や野菜を焼いた鉄板で、最後に作ってくれるガーリックライスなんて、本当に忘れられない味なんです」と鳥羽シェフは振り返る。
自分にとって、洋食はごちそうだった。いや、実は誰にとっても洋食はワクワクするごちそうだったのではないか?と鳥羽シェフは気づく。
しかし現在、洋食を食べたいと思ってもファミリーレストラン以外の選択肢は少ない。
そんなときに持ちかけられた新店の出店場所が、渋谷エリアのなかでも落ち着いた年齢層の女性客が多い、旧「東急プラザ」のビルだった。鳥羽シェフは、この立地であれば、自身の原点である“洋食”で勝負できるのではと意気込んだ。
「昭和のころって、おばあちゃんがシチューや海老フライをおかずに、白ご飯を食べていませんでしたか? それこそ、僕が今回作りたかった空気感なんです。加えて、自分が休みの日に家族や仲間と食事に行きたいと思える店を目指しました」と彼は語る。
では、実際にどんな料理が提供されているのか見ていこう。
端正でみっしりジューシーな「海老フライ」は、徹底した衣付け研究の賜物
まずは「海老フライ」(写真上)。大ぶりなエビが3本、その横に、これまた大きなホタテが美しいきつね色に揚がっている。横にはタルタルが添えられ、食欲をそそるビジュアルだ。
ひと口食べて驚くのが、ギュッと密度のある食べごたえ。エビの大きさはもちろんのこと、かぶりついたときの衣とエビの一体感が素晴らしいのだ。エビもホタテも水分が中に閉じ込められ、ジューシーな仕上がり。
タルタルはエシャロット、ケッパー、スイートレディッシュ、マヨネーズ、卵を使用した自家製。酸味のとがらない穏やかな味で、フライのおいしさを引き立てる。
「食べものの中でエビフライが一番好き!」と顔をほころばせる鳥羽シェフの、一番のこだわりは衣。
食べ進めるうちに衣が外れてしまうことも多い魚介のフライだが、それを良しとせず、衣のつけ方を徹底的に研究したのだそう。
そして行き着いたのが、塩をして水分を拭ったエビをバッター液(小麦粉と卵を水に溶いたもの)に浸すこと。このバッター液が糊の役割となり、パン粉が吸い付きエビと密着する。この密着感こそが、大満足の食べごたえにつながるというわけだ。
「ホタテのドリア」は、『sio』の料理を思わせる絶妙なセンスとバランス
「ホタテのドリア」(写真上)は上品なサイズ感だが、どこにスプーンを入れてもホタテが出てくるよう、びっしりとホタテが敷き詰められている。ホタテのうまみたっぷりなベシャメルソースの下には、少しかために炊かれたターメリックライス。
鳥羽シェフのバランス感覚が冴えるのが、このターメリックライスの味だ。
「ホタテとベシャメルソースのうまみが濃厚なので、ターメリックライスにレモン汁を効かせてバランスを取りました。お一人で一皿食べても、途中で食べ飽きることはないと思います」(鳥羽シェフ)。
食べる側を思いやる愛情、そして試行錯誤が伺える。
とろける牛タンに思わずため息! ご飯にぴったりな「牛タンシチュー」
『パーラー大箸』の代表料理、渾身の「牛タンシチュー」(写真上)。大ぶりで分厚い牛タンは8時間以上かけて仕込むことで、フォークやナイフを入れる必要がなく、箸で簡単に崩れるほどやわらかい。
香味野菜とともに煮込んでいるため、口に含むとふわっといい香りが広がり、そして溶けるようになくなってしまう。
デミグラスソースの中に味噌やみりんを忍ばせることで、ご飯との相性もぴったり。添えられたニンジンやペコロスは、野菜の甘みを感じられる絶妙な火入れ具合だ。
なめらかでキメの細かい、純喫茶の「プリン」
ランチタイムとディナータイムの間、カフェタイムも営業している『パーラー大箸』ではスイーツも主役のひとつ。中でも、昔懐かしい純喫茶風の「プリン」(写真上)は人気の逸品だ。
こちらは『o/sio』の「モダンプリン」と同様に湯煎しながら蒸し上げることで、キメが細かくどこまでもなめらかな質感を実現している。
むっちり食感を楽しみたいなら『o/sio』、なめらかさを堪能したいなら『パーラー大箸』と、同じプリンであっても表情は異なる。ぜひ食べ比べてみてほしい。
「鳥羽イズム」を継承し、共にチームを率いる片腕・木田シェフの大きな存在
『パーラー大箸』を開店できたのには、鳥羽シェフの他に、ある料理人の存在があった。鳥羽シェフが絶大な信頼を寄せるスタッフ、木田翼さんだ。
木田さんは1992年生まれの27歳。過去には『富士屋ホテル』(神奈川・箱根町)、『ボンヌターブル』(東京・日本橋)での修業経験があり、未経験者の料理人が多いsio株式会社のなかではまさに救世主ともいえる存在だ。
「木田(さん)がいなければ、『o/sio』も『パーラー大箸』も開店できませんでした。僕がぼんやりと料理のイメージを伝えるだけで、彼は僕の言わんとしている意図を汲み、自ら考え試作し、料理として形にして戻してくれるんです。僕が『o/sio』の開店でバタついていた時も、『sio』を守っていてくれたのは木田(さん)。今回も『パーラー大箸』の中心メンバーにしてほしいと、自ら手を挙げてくれました。」(鳥羽シェフ)
2019年4月に『sio』に合流した木田さんは、鳥羽シェフの大切にする「イズム」をきっちり心身に染み込ませ、それを体現する存在として活躍している。『パーラー大箸』のメニュー開発時には、鳥羽シェフと日夜ファミリーレストランをはしごし、洋食メニューの研究開発に没頭。1日に4~5件の店を回ることもあった。
二人が目指したのは、見慣れた純洋食なのに驚くほどハイスペックな味わいを実現すること。それを見事なまでに形にしたのが、『パーラー大箸』なのだ。
時代が変わっても変わらない、好きなものをおなかいっぱいに食べる幸せ
「『パーラー大箸』では、家族連れからご年配の方まで、あらゆる年齢層のお客様が僕らの料理を喜んでくれている。それが目に見えるのが、とても嬉しいです」と木田さんは語る。
未経験者も第一線で料理を作ってもらう。そう明言する鳥羽シェフの右腕として、重要な役割を果たす木田さん。
二人が大切にしているのは「思いを言語化する」と同時に「みなまで言うな」ということ。細かい内容まで指示しないことで、本人が考える余地を残す。時間がかかるかもしれないが、それが相手を伸ばすと信じている。
「すべてのスタッフが『sio』を含めた3店舗で料理を作っています。これはもちろん、たやすいことではありません。でも、乗り越えた先に僕らが見る景色はきっと素晴らしいと信じられるからこそ、やる価値があるんです」と鳥羽シェフは熱っぽく語る。
「みんなが大好きなものを、おなかいっぱい食べてほしい、それが僕らの原点」。
平成生まれの若きシェフを信じて、昭和のロマンが詰め込まれた洋食を任せ、令和の時代に洋食の価値を再定義する。時代が変わっても、変わらない良質なものが数多くある。そんなことを思いながら、心温まる体験ができる稀有なレストランだ。
【メニュー】
<ランチ(全てライス・サラダ・スープ付)>
・煮込みハンバーグ 1,900円
・牛タンシチュー 2,200円
・欧風チキンカレー 1,500円
・海老フライ 2,000円
<カフェ>
・自家製プリン 700円
・パフェ 1,200円
<ディナー>
・ベーコンとほうれん草のソテー 650円
・ホタテのドリア 1,500円
・ミートソーススパゲティ 1,400円
・ナポリタン 1,200円
撮影:岡崎慶嗣
パーラー大箸
- 電話番号
- 03-5422-3542
- 営業時間
- 11:00~23:00
- 定休日
- 「渋谷フクラス」の定休日に準ずる
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。