遅くまでがんばっている人たちの癒しの場、深夜ビストロでみんなを笑顔にしたい
2000年代中頃、東京では日々、深夜営業のレストランが賑わっていたという。「僕が勤めていた『ラ・ピッチョリー・ドゥ・ルル』(恵比寿/現在は閉店)も、仕事後お腹を満たしにくる同業者や、遅い時間でもおいしいものを食べたい人が集ってきました。あの頃みたいな楽しい時間を僕自身また味わいたいし、その後の十数年の経験で得たものをお客様に披露したいという想いもあって、“深夜ビストロ”をオープンすることにしたんです」。
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そう語るのは、2019年11月、東京・西麻布にオープンした『ビストロ マ・キュイジーヌ』エグゼクティブ・シェフの池尻綾介さん(写真下)だ。
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『ラ・ピッチョリー・ドゥ・ルル』の料理長を勤めた後は、『白金 シェ・トモ』料理長を経て渡仏。ブルゴーニュ地方『ジェローム・ブロショ』、シャンパーニュ地方『パトリック ミシュロン』でセクションシェフを担い、『ビストロle 7』代理シェフを務めた後、帰国。その後も、『レストランひらまつ本店』『メゾン ポール・ポキューズ』で腕を振るってきた華やかな経歴の持ち主だが、10年以上の時を経ても、池尻シェフの中で鮮やかに咲き続けていた記憶は、人々が寝静まった後の時間をともに過ごしたみんなの笑顔だった。
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自家製ベーコンの脂と香りを存分に吸わせた、独特の粘りがおいしい鳴門レンコン
念願叶ってオープンした『ビストロ マ・キュイジーヌ』のメニューは、大半が『ラ・ピッチョリー・ドゥ・ルル』で供していたものだ。
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「鳴門レンコンと自家製ベーコンのロースト」(写真上)をはじめとする、豚肉のおいしさを堪能できるメニューも当時同様多彩にそろう。
「ただね、レシピは同じだけど、生産者さんの努力のおかげで食材そのもののおいしさは格段にアップしています。豚肉の質もぐっと向上しているから、僕は、生産者さんの想いが詰まった食材を使わせていただくことで、みんなにおいしいものを発表したいんです」と池尻さんは満面の笑み。食材を優先したいからメニューはアラカルトのみ。仕入れ次第で料理はどんどん変わるという。
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料理に使用している豚肉は、すべて徳島県産の金時豚。。自家製ベーコンの脂と香り、塩気を存分にレンコンに吸わせることで、ハイボールがくいくいすすむ一品に仕上げている。
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▲ハイボール用ウイスキーは数種類ラインナップ。レンコンと同じく徳島産の珍しい日本酒も
レンコンは、関東ではまだ珍しい鳴門レンコン。ショベルカーでなければ掘り起こせないほどしっかりとした土の中で育っているため、力強い味わいで粘り気も相当なもの。厚めにカットしているので、鳴門レンコンならではの食感も存分に楽しむことができる。
瀬戸内を代表する足赤エビをはじめとする、旬の恵みいっぱいのブイヤベース
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仕事後にキリッと冷えた白ワインで頭をスッキリさせたいなら、旬の魚介がたっぷりの「ブイヤベース」(写真上)と合わせてはいかが?
ぶつ切りにした魚、トマト、ニンニク、香味野菜を煮込んで裏ごしした後、サフランを加えて作ったスープから大胆に姿を現しているのは、徳島県折野港で獲れたカサゴ、ハタ、コチの3種の魚。味変が楽しめるよう、ニンジン、セロリ、ポロネギのコリアンダー漬けオイル炒めまでトッピングされているのがうれしい。
「魚介はそのときどきに届いたもっともおいしいものを使います。魚の代わりにイカが入ることもありますね」と池尻さん。「今日はどんな魚介が入っているかな?」とワクワクしながら楽しめるメニューだ。
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ブイヤベースの真ん中に鎮座するのは、徳島県のお正月料理には欠かせないといわれる足赤エビ。瀬戸内を代表するエビの濃厚なうまみとプリプリした食感は、思わずため息が漏れるほど格別である。
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▲シャブリの他にも、料理に合わせたワインがそろう
釧路の名ハンターから仕入れた蝦夷鹿は、素材の味を楽しむシンプルなローストで
野菜も魚介も「生産者との信頼関係」にこだわる池尻さんだが、ジビエもまた信頼できるハンターからのみ仕入れている。
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ネックショットと血抜きの技術が極めて高いことで知られる釧路のハンター、松野穣さんと池尻さんが出逢ったのは約6年前のこと。以来、猟に同行させてもらったり、一緒に酒を酌み交わしたりすることで親睦を深めてきた。「今では、僕がどういうものを好むか、どういう料理をしたいかまで把握してくれています」とうれしそうに明かしてくれるが、松野さんにとっても、自分が仕留めたものを信頼できる料理人に託せるのは幸せなことに違いない。
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ふたりの絆あってこその一皿は、「釧路松野さんが仕留めた蝦夷鹿のロースト」(写真上)。松野さんの名前をメニュー名にまで付けるほど惚れ込んだジビエは、ナイフを通すとほとんど力を入れなくてもすーっとキレイにカットできるやわらかさ。
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表面を焼き固めた後、オーブンで蒸し焼きするというシンプルな調理法ゆえ、素材のクオリティの高さがよくわかりしみじみと感じ入ってしまう。
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ソースは、ネズの実と黒こしょうをきかせたポワブラード(poivrade)。付け合わせとして、徳島から仕入れた力強い旬野菜がプレートを彩る。
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「徳島の生産者さんにもいつもお世話になっています。つい最近も、子どもたちの食育のために現地の小学校でフレンチを作らせていただく機会がありました」。そう教えてくれる池尻さんがまとっているコックコートを藍染したのも、徳島で出逢った伝統工芸の職人さん。店で使っているコースターも、彼の手によるものなのだとか。
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キャラメリゼしたナッツ、ドライフルーツがぎっしり詰まった冷凍ムース
最後に紹介する一品は、池尻さんが修業時代に出逢って惚れ込み、「いつか自分の店でも出そう」と心に決めていたという「ヌガーグラッセ」(写真下)。
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キャラメリゼでカリカリに仕上げたナッツとドライフルーツがたっぷり入ったヌガーグラッセは、ムースのひんやり感とゴロゴロの食感の相性が絶妙。
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甘酸っぱいフランボワーズソースで味にアクセントをつけたヌガーグラッセは、珈琲はもちろん、ウイスキーやブランデーとも相性抜群。常連客の中にも、「これはお酒に合わせるつまみとして、少しずつ食べ進めるのがいいんだよ」と言う人もちらほらいるのだとか。
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「僕は、料理の根底にあるべきものは愛情だと信じているから、愛情を込めて作った料理でみんなに喜んでもらえることがなにより幸せ」と笑顔を見せる池尻さん。愛情たっぷりの料理で1日の疲れを癒せば、お腹も心もすっかり満ちたりて、幸せな気分のまま眠りに就けるはず。
【メニュー】
鳴門レンコンと自家製ベーコンのロースト 990円
ブイヤベース 2,800円
釧路松野さんが仕留めた蝦夷鹿のロースト ソース ポワブラード 3,500円
ヌガーグラッセ 990円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別、別途サービス料5%
撮影:岡崎慶嗣
Ma Cuisine (マ キュイジーヌ)
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