本場四川の伝統料理が吉祥寺に上陸! 瞬く間に人気店となった『中国菜四川 雲蓉(ユンロン)』
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東京・吉祥寺。かつてからJR中央線文化の重要な役割を担う魅力的な街として、多くの若者が集い、新たな音楽や芸術を生んできた。
しかし、ここ10年、大型家電店や安売り量販店の出店が相次いだことにより街の風景も変わってきた。飲食店も例外ではない。景況も芳しくないなか、止まらぬ地価上昇により個人店を開店する店主が減り、駅の周辺では大規模・中規模のチェーン店が軒を連ねる。
舌の肥えた吉祥寺マダムからは、おいしい店、食べに行きたい店が少なくなってしまったという嘆きが漏れているという。
そんななか、2018年12月の開店から瞬く間に注目され、連日満席の続く四川料理店がある。
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『中国菜四川 雲蓉(ユンロン)』。原宿『龍の子』、麻布十番『中國菜 老四川 飄香(ピャオシャン)』など国内の名店のほか、中国・四川省にて本場の伝統料理を学んだ北村和人さんがオープンした。
手が震えるほど感動した、人生を変えた四川料理との出逢い
『東急百貨店 吉祥寺店』横、大正通りに面する中国印鑑店『青雲堂』は北村さんの実家であり、80年続く老舗。「吉祥寺に生まれ吉祥寺の街に育てられた」と語る北村さんは、街に恩返しするつもりで吉祥寺での独立を決意。
印鑑店の現店主である北村さんの父はその想いを汲み、店舗を改装。印鑑店のスペースを縮小し、店舗の大部分を飲食店として使えるよう明け渡してくれた。
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凝り性の父が休日に振舞ってくれる絶品の手料理を食べて育ってきた北村さんにとって、料理人を目指すのはごく自然なことだったという。
高校時代から吉祥寺にあった中華料理店でアルバイトを始めた北村さんは、ある日、人生を変える料理に出逢う。それが『龍の子』の麻婆豆腐と坦々麺だ。
「そのおいしさといったら、衝撃的でした。それまで曲がりなりにも中華料理店で働いてきた自分でしたが、今まで自分が作ってきたものは一体なんだったんだ、と。手の震えが止まりませんでした」(北村さん)
今でも北村さんにとっての四川料理の魅力とは、その日に受けた衝撃そのものなのだという。
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しかし、当時の飲食業界の厳しさは予想をはるかに超えていた。
早朝から深夜まで叱咤されながら激務をこなす。その厳しさに心折れそうになる北村さんを支えたのは、ほかでもない父だった。
職人の厳しさを知る父は毎晩、夜中に車で迎えにきてくれ、「せっかく素晴らしい店に入れたのだから頑張れ、辞めるな」と北村さんを励まし続けた。家族のサポートを受け、北村さんは前を向いて歩んでこられたという。
地元野菜と厳選食材を使用、作れるものは全て自家製で
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「野菜は、中国野菜など一部を除いて、武蔵野・三鷹の新鮮な地元野菜を購入しています。一般に流通する野菜は収穫から何日も経ったものも多く、“新鮮な野菜”ということには大きな価値があります。また、辣油、ネギ油、山椒油などの油や、豆板醤、甜麺醤など手作りできるものは可能なかぎりすべて手作りです」と北村さんは胸を張る。
では、『中国菜四川 雲蓉(ユンロン)』の料理を紹介していこう。
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「北海道産鱈白子入り本場四川の麻婆豆腐」(写真上)。
こちらは日本の四川料理界の重鎮である師・安川哲二氏が四川を訪れた際、豚の脳みそが入った麻婆豆腐のおいしさに感動し、帰国後に白子を脳みそに見立て再現したのがルーツだ。
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ビリっとした山椒と豆板醤の辛味をぷりぷりの白子が中和させ、箸が止まらなくなる一品。
大ぶりの鱈の白子は塩を振り脱水させてから酒と塩を入れた水でボイル。豆腐は、福島県の特産「川俣シャモ」の鶏ガラと鶏の足(モミジ)からとったスープでボイルする。
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牛と豚のひき肉には甜麺醤と醤油で下味をつけるが、その後の味付けは自家製の豆板醤のみ。酒も砂糖も必要なし、豆板醤の力と深みが麻婆豆腐の味を決める。白子は、麻婆豆腐と最後に合わせて、食感を損なわないようにしている。
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蓋つきの鍋で提供される「豚足と大福豆の煮物」(写真上)は6,000円のコースに含まれる一品だ。添えられているのは、パクチーと自家製豆板醤。
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豚足は軽くボイル後に表面を焼き、酢を入れたお湯でさらにボイルすることできれいな乳白色に変化。その豚足を再度、水から6時間ボイルし、豚足を取り出した後、同じスープで大福豆を炊いていく。完成までに8時間以上がかかる料理だ。
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トロトロになった豚足と豆の味わいをぐぐっと引き出すのが、パクチーと豆板醤。
爽やかなパクチーと干しエビの入った深みのある豆板醤は、優しく炊き上げられた豚足と大福豆の味わいに緩急をつけてくれる。四川では豚足煮込みの専門店もあるほど、日常的な料理だそう。
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大きなエビが鎮座する「有頭大エビの美食家が愛した豚肉と四川漬物のチリソース煮」(写真上)。
中国の「美食家協会」のメンバーであった四川生まれの偉大な画家・張大千(1983年没)がこよなく愛した、魚介と豚肉のチリソース煮をエビで再現。現地では、川魚もよく使われる。
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包丁で手切りした豚バラ肉、ダイス状にカットされたマコモダケとハクレイダケに卵と青菜が添えられる。エビのうまみと甘み、肉感の豊かさとピリッと効いた唐辛子が絶妙に絡み合う。これこそが、エビチリの原点となったスタイルとのことだ。
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こちらは「清湯(チンタン)」(写真上)。コースの中に組み込まれる、澄んだスープだ。
完成までに2日を要するこのスープ、1日目に豚肉、鶏肉、鴨肉、金華ハム、干し貝柱を炊き、うまみを抽出。2日目にはさらに、鶏むね肉、牛ひき肉、豚ひき肉を入れて炊き続け、最初10リットルあったスープを最終的に3リットルまで煮詰める。
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スープの中には黄芯白菜と、雲南省のモリーユ茸。口に含むと繊細ながら、実に豊かでふくよかな味わいが広がり、究極のうまみとはこういうことなのではないかと思わされる。
変わりゆく中国、素晴らしい伝統料理を守りたい
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店舗の内装には、グレー色のレンガを大胆に使用している。これは四川の古民家の建材として長らく使われてきた「青煉瓦(あおれんが)」だ。
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正面にはまるで絵画と見紛う(みまがう)ほど精密に仕上げられたパンダの刺繍。
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見上げれば中国の田舎の食堂などで見かける鳥かごを模した照明(写真上)がいくつも下がる。
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何よりも店名に使われる漢字「蓉」は、旧名で四川省成都のこと。四川を知る人なら「なるほど」と頷く数々のオマージュが散りばめられ、そこに北村さんの信念が垣間見えるようだ。
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「多くのお客様にいらしていただいてとても嬉しいのですが、実はもっとやりたいことがたくさんあって。現地で使われる発酵食品や発酵調味料をもっと作りたいんです。ただ、作るのに1年や2年とかかるものなので、徐々に取り掛かるつもりです。あと、伝統料理だけだと内容が濃すぎるので、現地の日常的なスナックみたいなものをデザートや食間に加えたいと考えています。そういったものによって、お客様が“隙”というか、遊び心を感じられるようなお店にしたいですね」(北村さん)
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中国ではここ最近の近代化の波により、伝統料理を出す高級店は減り、家庭料理店ばかりが増えているとのこと。
愛する街、吉祥寺で四川伝統料理の魅力を紹介し、ここでしか味わえない本質に触れてほしい。北村さんの想いは、すでに吉祥寺の枠から大きく溢れ出て、多くのお客の心を揺り動かしている。
【メニュー】
・山城口水鶏(四川省楽山式 よだれ鶏) 1,500円
・陳麻婆豆腐 1,800円
・陳麻婆魚白子 (北海道産鱈白子入り本場四川の麻婆豆腐) 2,500円
・大千干焼有頭蝦(有頭大海老の美食家が愛した豚肉と四川漬物のチリソース煮) 3,000円
・経典回鍋肉(本場四川のホイコーロー) 1,600円
・内江牛肉面(四川省内江地方のスパイシーな牛肉麺 1,600円
ディナーコース 6,000円/8,000円/12,000円 (いずれも要予約)
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
撮影:登坂未来
中国菜四川 雲蓉(ユンロン)
- 電話番号
- 0422-27-5988
- 営業時間
- 11:30~14:30(LO14:00)、ディナー18:00~22:00(L.O. 21:00)
- 定休日
- 火曜日・水曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。