幸食のすゝめ#101、米粉の真ん中には幸いが住む、外苑前。
「あっ、今のヤキ入れるとこ、もう一度くれますか!?」、SNSに動画を投稿するのだろうか、古着風のスウェット(シャツ)を着た男性がスタッフにリクエストしている。
「じゃ、今度のサバカレーの時に、もう少し近くでやりますね」、黒いサーマル(Tシャツ)のスタッフが笑顔で応える。
外からの陽光が射す店内には、街の喧噪を忘れさせる優しい空気が満ちている。
それにしても、ヤキ入れるって!?
気になって、サバカレーの時に覗くと、オリジナルのフランスパンの側面にスタッフが店のロゴの焼き印を押している。
「バインミートーキョー」という店名の通り、東京生まれのバインミーらしいキュートなルックス。表参道や原宿にほど近い外苑前から、新しい東京スーヴェニアが誕生した。
ヘルシーな東京発のバインミーを求めて
今も新店がオープンする中、一段落を迎えた感があるタピオカのブーム。そんな中で、6年ほど前、高田馬場で初登場して以来、着実に右肩上がりの上昇を続けているのが、ベトナムのサンドイッチ「バインミー」だ。
バケットの中から覗くパクチーの緑や、ナマスのオレンジ色と白、ヘルシーそうで「映える」ヴィジュアルはSNSでの投稿も多く、今やハッシュタグは80,000近い数字になっている。
しかし、このバインミー、元々がファストフードなので、実は見た目ほど身体に優しいものではなかった。
「今回、バインミーの作り方を調べていくうちに、彩りのよさや、野菜・タンパク質・主食をバランス良く摂れそうなルックスで、身体に良さそうな割には、ラードや乳脂肪がたっぷりで、毎日食べるには身体に負担が大きいことに気づいたんです」
そう話す広報担当の音仲紗良(おとなかさら)さん(写真上)は、教科書・書籍や、女性向け情報誌などの企画・編集を経て、フードコーディネーター&スタイリストとして、数々のメディアで活躍。
ナッツの量り売り専門のカフェ『nuts tokyo』のゼネラルマネージャー兼フードプロデューサーを手がけたことでも有名だ。
ナッツやマッシュルーム、辛口イタリアンなど、多くの食を発信して来た彼女が次にバインミーをターゲットにしたのは、ワンハンド(手軽)に栄養バランスのいい食事を求める時代の流れに注目したからだ。
それからは、都内だけでなく地方のバインミーも食べ歩き、多い日には1日3食以上バインミーという日もあった。
そんな中、彼女を襲ったのは思いがけない体調不良。原因は、ヘルシーなはずのバインミーだった。
「日本食はどんなにおなかいっぱい食べても、もし太ったとしても、身体を壊すことはないのに…」
そんな疑問の中から生まれたのが「おいしくて、満腹。ヘルシーで、満足」な、東京スタイルのバインミーだった。
「米粉100%バインミー」の完成へ
「バインミー」という言葉は、もともとはサンドイッチの名称ではなく、パンそのものの総称。一般的には、バゲットより小さいバタールタイプのフランスパンを指す。
小麦畑がなかったベトナムには、もともとパン食文化はなく、フランス軍によって持ち込まれた。その際、米文化の土地らしく米粉をプラスした食感が独特の歯応えを生んだ。
「テイクアウトフードのニーズを調べると、おにぎりの次に人気があるのは、お弁当ではなくサンドイッチなんです。その中でサンドイッチの1つのジャンルとして、バインミーは日本に定着すると思ったんです」(紗良さん)
でも、米文化のベトナムから来たサンドイッチなのに、日本のバインミー専門店には米粉100%のグルテンフリーの店はなかった。
「ないなら、作ってしまおう!」
閃きと直感の人、紗良さんのチャレンジがスタートした。もちろん、原価率は上がってしまうし、小麦粉のグルテン質がないことで生地は安定しないから、チャレンジは容易ではなかった。
定番の具材であるレバーパテも、通常はラードやマーガリン、乳脂肪分がたっぷり含まれている。しかし、材料をヘルシーにすることで、独特のコクも失われていく。
そんな中、持ち前のアイデアと探究心で、紗良さんはジャパニーズスタイルに再構築した、東京発のバインミーを完成させる。
「乳脂肪を使う代わりに、米糀(こめこうじ)甘酒やナッツでコクや油分、甘みを補いました。シーズニング(ソース)の代わりには、丸大豆100%の『豆たまり(大豆と塩のみで作られる調味料)』を使っています」(紗良さん)
その結果、トランス脂肪酸を含まず、脂質が一般のものに比べて約3分の1に抑えられたバインミーが完成。「食事=健康」を実現する、未来のバインミーの誕生だ。
おいしさのドラマが広がるメニュー
米糀甘酒とカシューナッツでクリーミーなコクとおいしさを生み出した「スタンダードバインミー」(写真上)は、生まれて初めて味わうレバーパテに驚かされ、紗良さんが追求したヘルシーだけどおいしい「カラダ想いのバインミー」の完成に声援を送りたくなる。
「サバカレーバインミー」(写真上)は、カレー風味のサバのグリルに、クミンシードとマリネした紫キャベツやライムの薄切り、パクチーなどが入り、SNS映えしそうな美しい彩り。
頬張ると、スパイシーな味の構築が素晴らしく、カウンターの男子たちから人気No.1の指名率だった。
「五香粉チャーシューバインミー」(写真上)は、シーズニングの代わりに、丸大豆100%の「豆たまり」を使用。そこに、五香粉(中国のミックススパイス)を効かせた特性ダレにひと晩漬け込んだ、ジューシーで食べごたえ抜群のチャーシューが入る。チャイニーズなフレーバーにも現代的なセンスを加える、紗良さんならではのバインミーだ。
そのほか、レモングラスの特性ダレに漬け込んだ鶏モモ肉のグリルを、たっぷりの野菜と共に挟んだ「レモングラスチキンバインミー」。水切りした木綿豆腐にターメリックパウダーで色と香りを付けた、まるで卵サラダみたいな「ヴィーガンバインミー」は、素揚げしたゴボウの香ばしさと食感がポイントになっている。
今後はさらに「今月のバインミー」として、色々なメニューが増えていく予定とのこと。紗良さんのオリジナリティに溢れた新しいバインミーに期待が加速する。
朝も、昼も、カフェタイムも思いやりがいっぱい
ちゃんとした朝ごはんを食べることが難しい都会の真ん中で、ヘルシーで充実した1日を始めるために、リーズナブルな「モーニング」も用意する。
「自家製ピーナッツバターバインミー」(写真上)は、ナッツ専門カフェ『nuts tokyo』も手掛けている紗良さん独壇場のナッツのおいしさがいっぱい。しっかりローストした「千葉半立」のピーナッツを皮ごとペーストして、きび砂糖と甜菜糖シロップで優しい甘さをプラス。まだ眠っている朝の脳を優しく目覚めさせてくれる。
「TKB(卵かけ風バインミー)」(写真上)も、紗良さんならではのお茶目でお洒落なオリジナル。日本人なら誰でも大好きな「TKG(卵かけごはん)」のバインミー版だ。カリカリの白身とトロっと濃厚な黄身が、五香粉の香りを効かせた甘辛い醤油ダレと絡み、米粉100%のパンに染みていく…。
想像するだけでも食欲が湧いてくる「TKB」は、TKGに続く新しいトレンドになるかもしれない。
お昼には、日替わりのサイドディッシュとドリンクが付いた、お得なランチセットも出す。
特に注目されるのは、2020年3月18日より始まったサブスクリプション(定額会員サービス)の導入だ。地域のお客やヘビーユーザーたちに向けて、ドリンク飲み放題や毎オーダー100円OFFなど、さまざまなサービスを展開する。
朝も、昼も、毎日だって食べたい。ありそうでなかった、米粉100%のジャパニーズ・ベトナミーズ。ヘルシーなおいしさを追求するだけでなく、いろいろなアイデアや、地域の人たち、お得意さんたちへの愛に溢れた神宮前の小さなベトナム。
米粉の真ん中には、幸いが住んでいる。
【メニュー】
<バインミー>
スタンダード880円
サバカレー930円
五香粉チャーシュー980円
レモングラスチキン980円
ヴィーガン1,080円
<モーニング>
自家製ピーナッツバインミー500円
TKB(卵かけ風バインミー)600円
<ランチセット>
バインミー+日替りサイドディッシュ+ドリンク1,500円〜
<ドリンク>
オリジナル燻製コーヒー350円
オーガニックティー350円
コロナビール/ベトナムビール(バーバーバー)750円
※デリバリーも実施中です。(電話受付)
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。
バインミートーキョー
- 電話番号
- 070-4142-0868
- 営業時間
- 月~金(モーニング)9:00〜10:00、(ランチ&テイクアウト)11:00〜17:00(ランチL.O.14:30)、(カフェ)15:00〜17:30(L.O.17:00)/土・祝 (ランチ&テイクアウト)11:00〜18:00(ランチL.O.14:30)、(カフェ)15:00〜18:30(L.O.18:00)
- 定休日
- 日曜日
- 公式サイト
- https://banhmi-tokyo.com
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。