料理人夫妻が開いた「フレンチ小料理屋」
「フレンチ小料理屋」というユニークなコンセプトを打ち出したフレンチレストラン。それが東京・麻布十番に店を構える『プティ・レストラン ラ レーヴ』だ。カウンター10席だけの小ぢんまりとしたお店で、オーナーシェフの加田俊介さん、夢さんの料理人夫妻が2人で切り盛りする。
2人はフレンチの巨匠、アラン・デュカス氏のレストラン『ベージュ アラン・デュカス東京』で出逢った。俊介さんはそこで5年間勤めたのちに渡仏し、パリの『ル・ムーリス』、『パピヨン』といった名だたるレストランで研鑽を積む。夫人の夢さんも同様にパリのレストラン『イティネレール』で腕をみがいた。帰国後は2人そろって牛肉をメインに扱うレストランに勤め、2019年10月に独立。現在は調理を俊介さん、おばんざいの仕込みと接客を夢さんがおもに担当している。
店名に冠した“プティ・レストラン”を日本語に訳すと「小料理屋」になるが、「もちろん、そんなフランス語はありません(笑)。もともと妻が『小料理屋をやりたい』という夢を持っていて、自分もお客さまの顔を見ながら料理を作りたかったので、『フランス料理をおばんざい仕立てで提供する小料理屋』というコンセプトにしました」と俊介さんは話してくれる。
フランスの家庭料理をベースにした「おばんざい」
おばんざいは、『ラ レーヴ』の“顔”であるカウンターに設置したショーケース(写真上)に陳列。日替わりで10品前後を用意する。
「キャロットラペ」や「リエット」といった定番のほか、「手羽先ギョーザ」「サルシッチャ巻き玉子焼き」「じゃがバター」というユニークなメニューもそろえる。また「タコさんウインナー」というメニュー名の、思わず笑みがこぼれてしまうようなレパートリーもある。しかし、これらのメニューもれっきとしたフランス料理。遊び心のあるメニュー名からは想像しにくいが、フランスの家庭料理や地方料理がベースになっているのだ。
唯一無二のフレンチ仕立てのおばんざいとは?
同店の看板メニュー「おばんさい盛合せ」(写真下)をオーダーすれば、その意味するところがわかるはず。
こちらは上から時計まわりに「キャロットラペ」と「赤タマネギのピクルス」、「イワシの酢漬け」、「手羽先ギョーザ」、「牛テールとナスの煮込み」、「サルシッチャ巻き玉子焼き」、そして中央の「2年熟成キタアカリのじゃがバター」をひと皿に。
メニュー名からはフランス料理だと想像しがたい「手羽先ギョーザ」の正体は、なんとフランスの家庭料理「コッコ・オ・ヴァン」(鶏肉のワイン煮)。もともとはかたい肉質の雄鶏を赤ワインでやわらかくなるまで煮込んだ料理だが、こちらでは手羽先にマッシュルームを詰めてアレンジし、日本のおばんざいに見立てている。また「サルシッチャ巻き玉子焼き」もソーセージをブリオッシュ生地で包んだリヨン料理が原形になっている。
スターターとして、まずは「おばんざい盛合せ」を味わえば、『ラ レーヴ』がかかげる“フレンチ小料理屋”というコンセプトをしかと理解できるだろう。
「酸」と「香り」を重視した料理の数々
おばんざいのほか、「前菜」のカテゴリーでは、魚、フォアグラ、サラダ、スープなど6品前後を用意する。
こちらは「ブリ大根~ブリのミキュイと4種の大根~」(写真上)。3種のビネガーでマリネしたブリをミキュイ(半生)に火入れ。ヴァン・ジョーヌとダイコンのソースを合わせ、ミドリダイコンで辛み、コウシンダイコンのピクルスで酸味、フレッシュのムラサキダイコンでシャキシャキとした歯ごたえを表現している。“ブリ大根”というメニュー名だけを見ると、和食の煮付けをイメージするが、こちらはフランス料理の技法と調味、素材使いを駆使した“フランス料理版のブリ大根”である。
この料理をふくめて、俊介さんが料理をつくる際に重視するのが「酸」と「香り」の存在。「フランス料理の特色のひとつが酸味にあると考えています。だから、ほとんどの料理でビネガーなどを用いて酸の要素を加えるし、そこにハーブやマイクロリーフなどの香りをまとわせて料理に立体感をもたせるんです」(俊介さん)。
王道の料理をそろえるメイン料理
おばんざいが多彩なアイデアを用いた「変化球」であるとすれば、メイン料理は「直球」ともいえる王道のフレンチが味わえる。そのひとつが『オマール・ブルー』(写真上)の一皿。
「オマール・ブルー」は、いわばオマールの王様。フランス・ノルマンディ地方などでとれる青みがかった種類のオマールで、ぜいたくにもアナゴを主食にしているせいか味も香りも一級品だ。
ぷりっぷりっのオマールの身を半生に茹で、頭からとった濃厚なアメリケーヌソースでグラッセ。甲殻類特有のうまみが凝縮された、説明不要のおいしさである。
一方、肉料理も牛、鹿、鶏などを日替わりでそろえるが、つねにメニューにのせているが仔牛だ。「仔牛」(写真上)は北海道産を使用。尾崎牛のテールでとったソースを合わせ、1年間熟成したじゃがいも「メークイン」を使ったドフィノワと青菜のソテーを付け合わせに。
火入れは、熱源に溶岩石を用いたグリラーを使用。「炭火と同様、高温かつ遠赤外線によって加熱できて、炭よりも扱いやすいという利点があります」と俊介さん。仔牛のランプ肉を焼いては休ませ、焼いては休ませという工程を6~7回繰り返し、表面から1mmくらいに焼き色がつくように焼き上げる。
仔牛ならではのさくっとした歯ごたえで、上品な肉のうまみが感じられる。くどさがまったくないので、するするとお腹におさまっていく。
コースでしっかり食事にも、2軒目利用でちょい飲みにも! 使い勝手もバツグン
俊介さんはソムリエの資格も保有しており、フランス産を中心にボトルは6,500円~用意する。ワイン愛好家向けにグラン・ヴァンもそろえる。とはいえ、グラスも常時。赤白3本ずつとシャンパンを一律1,200円で提供しているので、気軽にワインを楽しみたい人にも安心。「2軒目の利用でもぜひ」と俊介さんはあくまでお客さん目線だ。
店内はカウンターのみの10席。おばんざいをアテに気軽にワインを楽しむもよし、気張って前菜から魚、肉とフルコースを堪能するもよし。本格的なフランス料理が食べられるにもかかわらず、これほど使い勝手がいい店は、そうはないだろう。
【メニュー】
おばんざい盛合せ 1,500円
ブリ大根~ブリのミキュイと4種の大根~ 1,800円
ノルマンディ産オマールブルー 時価
オークリーフ牧場 仔牛ランプ150g 3,000円
※本記事に掲載された情報は、取材日(2月26日)時点のものです。また、価格はすべて税別です
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撮影:佐々木雅久
La Reve(ラ レーヴ)
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