完全予約制の薪火料理レストランで極上のおもてなし体験
路地裏にたくさんの飲食店が軒を連ねるグルメの街・三軒茶屋。日々新しいレストランが登場するこのエリアに、2020年2月、大人のための隠れ家レストランがひっそりとオープンした。薪火料理をメインにするイタリアン『ciòcco(チョッコ)』だ。
茶沢通りから一本路地を入ったところ、小さなビルを3階まで上がり、扉を開けるとまず目に飛び込んでくるのは屋久杉の丸太の一枚板で作られた重厚なカウンター、そしてその奥には薪ストーブが鎮座している。
キッチンを一人で取り仕切る『ciòcco』のシェフ・本田克彦さん(写真下)は、20歳の頃にイタリア料理店で料理人としてのキャリアをスタートさせた。その才能はすぐに開花し、1年半後には店を任されるようになり店長兼シェフとして1軒のレストランを任されることに。
「若い頃から料理が好きで、自宅で色々な料理を作っていました。作るのが好きならば、それを職業にすればいいと考え料理人を志しました。店に入るとすぐに厨房を任されるようになりましたが、同時に自分の力不足も感じていたので、イタリアに渡り、改めてイタリア料理の勉強を始めました。その後も様々なレストランや飲食業界で働きましたが、自分が納得いく料理を全力で作りたいと思い、『ciòcco』をオープンしたんです」
多くの経験を積んできた本田シェフが辿り着いたのは、薪火料理のレストラン。イタリアを訪れた時に薪火で焼き上げたビスティッカがおいしく、薪火の力の素晴らしさを実感したことから着想を得たという。
薪火を利用して高温で火入れすることで、素材の味わいが凝縮され、香ばしい薫香をまとう。近年は、東京にも薪火料理の店がオープンしており、グルマンたちからも注目されている料理法だ。そんな薪火で調理するのは、本田シェフの父の故郷である新潟・佐渡島の食材たち。
「あまり知られていないのですが、佐渡島は食材の宝庫で肉も魚も野菜も素晴らしいものが手に入ります。私は佐渡を回り生産者とお会いして食材を吟味してきました。自分の中で今まで受け継いできたもの、今後受け継いでいきたいと思う気持ちを大切にして、ルーツのある佐渡の食材をメインに仕入れています」。
なお、『ciòcco(チョッコ)』は完全予約制。料理はおまかせコース1本のみで、本田シェフの渾身の料理がひと通り堪能できる。
料理のキーワードは「薪火×新潟食材×熟成」
では、『ciòcco』のおまかせコースから、ある1日の料理をご紹介しよう。
まず、『ciòcco(チョッコ)』を訪れて席に着きドリンクを注文したら登場するのは、到着時間に合わせて焼き上げられた自家製の「フォカッチャ」(写真上)。新潟で有機農法で作られたレンコンをすりおろし、国産小麦と合わせて、ビール酵母をほんの少し加えて3日間かけてじっくりと発酵させた生地で作ったフォカッチャだ。サワードウの自家製チーズと桜のハチミツを付けていただくが、焼き立てのフォカッチャはむっちりとした食感。これが評判でおかわりしてしまうお客も多いというが、これからがコースの本番なので食べたい気持ちをぐっと抑えて料理を待とう。
アミューズは「牡蠣のフラン」(写真上)。牡蠣の水分を飛ばして、味わいを引き出すように香ばしく火入れ。ブイヨンとトリュフなどのキノコだしとクリームを加えてペーストにしてから卵と合わせオーブンで蒸し焼きにしてフランにする。その上には、薪で焼いた鴨肉をトッピング。濃厚な牡蠣の苦みとうまみ、鴨の甘い脂が口の中で三位一体となった一品だ。
ちなみにワインは、ビオのイタリアワインを中心にそろえるほか、食後酒としてグラッパも用意。シェフと相談しながら、1杯ずつペアリングを楽しむのも一興だ。
味の表現力が素晴らしい! シェフならではの組合せの妙
前菜には、その見た目からも春を感じる「3週間熟成の鰆のカルパッチョ」(写真上)を。血抜きした鰆を氷温で熟成させたのち、風に当てながら3週間ほど熟成させ、薪火で皮面だけをバリっと焼き上げ、数種のビネガーを合わせてマリネする。合わせるのはホワイトバルサミコ酢でマリネしたイチゴとさまざまなハーブやエディブルフラワーのサラダ。イチゴのフレッシュ感が熟成した鰆によく合う、ロゼワインと共にいただきたい一皿だ。もちろん魚は旬に応じて変わるので、訪れた際、どんな魚が登場するのか楽しみだ。
続いては「アスパラとそら豆のソテー」(写真上)。極太サイズの長崎県産の「王様アスパラ」を蒸してからバターにくぐらせ薪火でさっと火入れして香りをまとわせる。そして、濃厚な卵黄のコンフィとパルミジャーノ・レッジャーノチーズ、ミモレット・チーズをふったうえに乗るのは、自家製の松坂牛の生ハムとトリュフ。
「松坂牛の生ハムは、『ciòcco』をオープンすることを決めた時に仕込んでいたものです。松坂牛の塊肉を購入して1年間熟成させていたんです」と本田シェフ。そんな生ハムは、アスパラと共に口に入れると強烈な香りだけを残しながら、アスパラにまとうソースのように溶けていく。トリュフやチーズの香りも相まって、恍惚とした余韻が残る贅沢な料理だ。
魚料理は「白甘鯛の薪焼き」(写真上)。黒大根のピューレに皮目をパリッと焼き上げた白甘鯛をのせ、佐渡の牛乳で作った自家製の発酵バターと海藻からだしを取ったバターミルクソースを合わせている。やさしいミルクの味わいで白甘鯛の香ばしさが包み込まれた、海の幸と山の幸の邂逅が一皿に表現されている。
闘牛のドライエイジング肉を贅沢に塊で焼き上げる!
メインの肉料理は、新潟県中部に位置する山古志村の闘牛をドライエイジングした「薪火の肉ステーキ」(写真下)が登場。
「赤身の味わいが強い肉をずっと探していたんです。今は、乳牛や闘牛も引退後に食肉用として飼育して市場に出すという取り組みが行われています。一般的に黒毛和種だと脂が重く感じてしまうのですが、黒毛和種の闘牛は筋肉があり力強い味わいです。それを115日熟成させたものを薪火でステーキにしました」
薪火ストーブで炭を作り、コンロで塊肉をじっくりと火入れしていく。ロゼ色のステーキは、肉のうまみをシンプルに感じてもらうためゲランドの塩とグリーンペッパーの塩漬けでいただく。付け合わせは、長期熟成のバルサミコで和えたサラダと薪火で何時間もかけて焼き上げた自然農法のサツマイモ。濃厚な味わいの赤身は、時間の経過を経た熟成の賜物だ。
新潟の食材を“薪火”と“熟成”というキーワードで昇華させていく本田シェフの料理は、とにかく手間を惜しまないところから生まれる。「凝り性で手が抜けないんです。何をしたらお客さまが喜んでくれるのかを常に考えています」と本田シェフ。
大切に育てられた食材のポテンシャルを最大限に引き出した薪火料理は、三軒茶屋のみならず多くのグルマンをこの場所へ運んでくれるだろう。
【メニュー】
シェフのおまかせコース(アミューズ、前菜2品、パスタ、魚料理、肉料理、デザート) 10,000円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
撮影:榊智朗
ciocco(チョッコ)
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