王道のフランス料理が味わえるカウンターフレンチ『haru』
2019年11月に東京・四谷三丁目にオープンしたフレンチレストラン『haru(ハル)』の料理は、まさに王道のフレンチである。
オーナーシェフの田中郷介さんは、大学でフランス政治を専攻して卒業したのち、『エコール 辻 東京』に入学。フランス・ブルゴーニュの名門レストラン『オテル レストラン ラムロワーズ』で半年間研修を受け、代々木八幡の『プティバトー』、横浜の『ストラスブール』(現『ストラスヴァリウス』)といったフレンチの名店で研鑽を積んだ。その後、青山の『トリニテ』で4年半、渋谷の紹介制レストラン『エレゾハウス』で2年半にわたってシェフを務めた誰もが認める実力派だ。
今回は満を持しての独立かと思いきや、「本当は前職を辞したあとにフランスに1年くらい研修に行くつもりだったのです。それがそのタイミングでたまたまこの物件を紹介されたので、店を出しただけなんです」と田中シェフは気負いがない。こうした自然体の姿勢は、営業スタイルや料理にも表れている。
目の前で調理されたできたてフレンチを堪能
店内はカウンターのみ。12席を備えるが、予約に対応しているのは奥の最大6席(写真上)だけ。というのも、「お客さんの目の前で調理して、最適なタイミングで料理をサーブしたい。だから、この人数が限界なんです」と田中シェフは話す。おかげでお客は、シェフの自宅に招かれたような、とびきり贅沢な体験を味わうことができる。
メニューは6皿8,000円のコース1本に絞っている。内容は基本的におまかせだが、何度か訪れればそのつど違った食材を提供してもらえるとのこと。「たとえば、メインの肉は、鶏、豚、仔羊、冬ならジビエなど、つねに何種類かストックしていますから、臨機応変に対応させていただいています」と話すシェフはなんとも頼もしい。
安心感、安定感のある王道フレンチ
田中シェフの料理を食べると、「そうそう、フランス料理ってこうだよね」という安心感が得られる。「低温調理」「和素材の使用」「新奇な盛りつけ」……、そういった近年の流行りとは距離を取り、調理法も素材使いもデコレーションも奇をてらったところがいっさいない。まさに本寸法なのだ。
定番の前菜は、「フォアグラとイチゴ」(写真上)。開いてていねいに掃除したフォアグラをラム酒、塩、コショウ、砂糖でマリネして火入れ。酸味と甘みのバランスが絶妙な『わだちファーム』(神戸)のイチゴと合わせた一品だ。田中シェフが話す通り、こちらの料理の主役はフォアグラ、ではなくイチゴ。なめらかな食感のフォアグラのテリーヌと一緒に口に入れるとフォアグラはスッと溶けていくが、それにともなってイチゴの味わいがより強調される。
温前菜は「花ズッキーニ」を使った一品(写真上)。鴨のモモ肉を粗めにたたいてグリーンピースを合わせ、オレガノ、タイムなどで風味づけ。これを“花”に詰めて、老舗専門店『関根の胡麻油』のゴマ油でカラッと揚げている。「この油はまったく胃にもたれるということがありません。毎日でも食べられる料理、けっして食べ飽きない料理を提供すること。それが“町のレストラン”の役割だと思うので、すべての料理にこの油を使っています」と田中シェフは話す。
鴨のファルス(詰めもの)は、肉々しく食べごたえ十分。皿にふられた、フランス・バスク産のとうがらし「ピマン・デスペレット」のさわやかな辛みが食欲をそそらせる一品だ。
肉も魚も、火入れは一級品
「前職がジビエ料理を中心に提供するレストランのシェフだったため、僕が作る料理は“肉”のイメージが強いみたいですね」と笑う田中シェフ。だれが言い出したのか“肉神”という異名もあるというが、もちろん魚料理だってお手のもの。ちなみに魚介は、京都・舞鶴の「水嶋鮮魚店」から直送。サワラ、サバ、マダイ、マグロ、カニ、ブリ、ホタルイカ……。1年中魚種が豊富で、旬の魚介が適切に処理された状態で入手しているそうだ。
取材時は1週間寝かせてうまみを高めた「サワラのポワレ」(写真上)。前述のゴマ油を多めに敷いたフライパンで皮目を「揚げ焼き」にしながら、フライパンにふたをして身側を「蒸し焼き」に近い状態にして火入れ。「こうすることで、皮目はパリッと、身はしっとり、ふっくらと火が入るんです」(田中シェフ)。途中でふたを開けて火入れの具合を確認できないので、技術的にはむずかしい。『プティバトー』の笹川幸治シェフから習得したという。
なるほどこんなに肉厚な身なのに均質に火が入っていて、皮目はこうばしく仕上がっている。ソースは、オレンジのフレーバーを加えた甘口のベルモット「チンザノ・オランチョ」ベースのソース・ブールブラン。菜の花のソテーとホワイトアスパラガスのピューレを付合せとして春らしさを演出。熟練の技が詰まった魚料理としか言いようがない。
ワインバーとしての予約なしの利用にも対応
前職が前職だけに、お客がどうしたって期待してしまうのが肉料理。
取材時は「キャレ・ダニョー(仔羊の背肉)」を焼いたもの(写真上)。つけ合わせは、カブやサトイモなどの焼き野菜。酸味をきかせたマデラ酒ベースのマスタードソースを合わせている。仔羊をほお張るとムギュッとした食感で、口の中にうまみがジュワ~ッと広がる。至福の時である。
仔羊はフライパンで表面に焼き色をつけたあと、オーブンで加熱。余熱で中心までじっくり火を入れている。あくまでオーソドックスな手法であるが、それゆえに仕上がりに差が出る。「近年は肉の低温調理も一般化していますが、僕は昔ながらの方法で火入れをしています。それが一番おいしいと思うし、なによりそこがプロの料理人の腕の見せどころですから。お客さんには目の前で渾身の力をこめて焼き上げた肉を味わっていただきたいですね」(田中シェフ)。
前述のとおり、コース料理を楽しむには奥側の席を予約する必要があるが、ふらっと訪れて手前側の席を利用することもできる。
「ワインバー感覚ですね。もちろん材料があれば、コースで提供している料理だって作りますよ」と田中シェフは言う。なんという贅沢だろう。食べることがなによりも好き、フランス料理が大好き。そんなグルマンたちが集う通好みのレストランである。
【メニュー】
コース(例:フォアグラのコンフィとイチゴの前菜、花ズッキーニのフリット 鴨の挽肉のマリネ、サワラのポワレ ミカンのブールブラン、仔羊のロースト マデラベースの粒マスタードソースなど) 8,000円
※本記事に掲載された情報は、取材日(2月28日)時点のものです。また、価格はすべて税別です
※詳細は店舗にご連絡ください
撮影:佐々木雅久
haru(ハル)
- 電話番号
- 03-6457-8680
- 営業時間
- 18:00~23:00(L.O.21:30)
- 定休日
- 不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。