レストランの「テイクアウト&デリバリー」【賢人・岩瀬大二】
飲食店が悩んでいる、戦っている。自粛要請、時短営業、アルコール類の提供制限、さらに進んで休業要請。規模の大小、体力の違いなどはあるだろうが、いずれにしても飲食店の構造(原価、固定費、資金繰りなど)を考えればきつい、厳しい。そこで活路をひらいたひとつがテイクアウトとデリバリーだ。
店の生き残り策であると同時に、利用者としては心の安らぎでもある。おこもりの中で自分のつくった料理はどうがんばっても似てくる。変化がない食卓は厳しい。現代の日本、その自分の日々の食事はとても変化に富んだものだったはずだ。自炊をしっかりされている方でも時折の外食はとても幸せなものだっただろうし、逆に忙しい時間の中、外食がメインで自炊の時間は休日の趣味という方も少なくないだろう。
いずれにしても味と空間という変化が私たちの日常になっている。だから外食がある。テイクアウトやデリバリーを利用すれば、その場所には行けないが、味の変化と空間、センスに思いを馳せることができる。そしてそこで受けてきたホスピタリティの一端を感じることもできる。お互いの我慢が新しい幸せを生み出すことに繋がっている。
居酒屋の「唐揚げ」「餃子」からバルの本格メニューまで!
過去このコラムで登場した店も魅力的なテイクアウトメニューや仕組みを取り揃えた。いくつか紹介していこう。
本格居酒屋と本格ラーメンという「1軒はしご」が楽しめる亀戸の『ばらいち』は、人気のつまみメニューや定食のテイクアウトと近隣への配達。時々でメニューは変わるようだが酒飲みにはつい食指が動いてしまいそうなのが「大人の4種盛り」。鶏唐揚げ、揚げ餃子、チョリソー、ポテトフライという、どうにもビール、レモンサワー、ホッピーあたりが進みそうなのがうれしい。
七里ヶ浜で抜群のロケーション、海風が香るスペイン居酒屋『mori mori』では自慢のパエリア弁当に加えて、タパス(小皿料理)も用意。テイクアウトなので近隣の方のみとなるが、あの辺りのライフスタイルを考えれば、おそらく海の見える、または風を感じるバルコニーや庭で楽しめるのだろう。おこもりでありながらも素敵な時間を過ごせるというのはうらやましい。
同じく湘南は茅ケ崎のブリュワリーレストラン『ゴールデン・バブ』と、その姉妹店、辻堂の『バル・パンチョ』は、ビールやスペインワインにハマるボリュームもたっぷりなおつまみのパッケージ。昼、夕方のビールにはハンバーガーが魅力的。これも「むしろ」楽しい時間が演出できそうだ。
お酒の販売でワイン×料理を愉しもう!
さらにうれしいサービスが可能になった。「期限付酒類小売業免許」により、期間限定ではあるが飲食店に酒販免許が国税庁より認可され、飲食店が酒を販売することが可能となった。魅力的なワインや酒と料理の組み合わせを提案してきた飲食店、その一端を自宅でも楽しめるのは朗報だ。
餃子とシャンパーニュという組み合わせで楽しませてくれる『スタンドシャン食』は、名物餃子とシャンパーニュのお取り寄せとデリバリー(配送)の組み合わせ。名物の餃子はお取り寄せで、シャンパーニュは近隣の配送も可能。シャンパーニュのラインナップでは、お店のお任せセレクト6本セットがなかなかのお得感だ。
スペインのサンドウィッチ、ボカディージョを提供する『フェルミンチョ・ボカ』。その本店である西麻布の人気スペイン料理店
『フェルミンチョ』もテイクアウト&デリバリーに加え、秘蔵のスペインワインを放出するという。スペインワインのコレクターでもあるオーナーが選ぶワインと本格的なスペイン料理の組み合わせだけに、家に居ながらにしてその世界をゆったり楽しめるというのはむしろ贅沢だろう。
こうした取り組みが各所、各店で行われていることで、「救われた」から「新たな喜び」になっている感もある。私は3日に1度の買い物のみの外出で、それも徒歩5分圏内、範囲もある通りとある通りの間のみと厳しめに決めているため、残念ながら多くのテイクアウト店があるわけではない。けれども、その中でありがたいことに『アロセリア ラ・パンサ』がある。ここはコラムで紹介した中目黒のスペインバル『バル・ポルティージョ・デ・サル・イ・アモール』の姉妹店だ。
この日選んだのは、日替わり弁当から、国産鶏団子のアーモンドソース煮込みと国産豚肉のスパイシー焼き。いずれもパン、パンコントマテ、ドンキホーテの人参サラダ、じゃがいものオムレツ、イカ墨のふんわりボールがセットされ、これとスペインのロゼワインで休日気分。この日は忙しく原稿仕事をしていたが、ひとときの心地よいブレイクになった。
ここで紹介した店の詳細は私の過去コラムを参照いただきたい。テイクアウト、デリバリーに関しては時間、内容の変更も頻繁にあるかと思うので最新情報はそれぞれでキャッチいただけるとありがたい。
テイクアウト&デリバリーで守るべきルールとは?
さて、東京都はテイクアウト・デリバリーを手掛ける店舗への金銭的な支援も発表した(詳細はこちら)。休業することと営業を続けること。十分な補償ではないにしてもいくつかの許認可や補償的なもの、貸付などを利用してどのような舵を切るのか、悩ましいことではあるけれど選択するための材料はいくつか出てきてはいる。だが、前提として飲食店のみなさんの判断、創意工夫、また決断など、自ら動かなければいけないわけで、その中で、まず何かに取り組んでみようという気持ちに敬意を表したい。
という中で2点提案したい。それは飲食店側、私たち側がそれぞれ気をつけたいことだ。
飲食店側は安全、安心を担保することが必要だろう。衛生管理を徹底すること。それはコロナ対策だけではなく普段から気をつけるべき食中毒といったケアを含めてだ。あわせてこうしたことを規定する法律や条例、要請を遵守すべきだということ。社会の一員としての飲食店。これは結局、普段どのような姿勢で商売をやっていたかのリトマス紙のようなものではないだろうか。
そして利用者側。この時期のテイクアウトは、安らぎとある意味の治療行為でもあると思う。暮らしをまもるための、この環境下でも楽しめるもの。決してレジャーではない。本末転倒なのは、テイクアウトを求めて公共交通機関を使って遠出をする。スタンプラリー的にSNSの勲章にする。こうした行為だ。魅力的なテイクアウトが並べばそこに行きたくなる。わかる。しかし、この環境下であることを考えれば、わからない。それはこの後、自由な往来が戻ってきたときに、その店に行くためのカタログだと思っていただきたい。
テイクアウトやデリバリーはうれしい流行であるとは手放しでは喜べないが、そのおかげで私たちは飲食店とつながり続けることができている。上手に利用して楽しみたい。