中華料理店なのにまるで料亭!「懐石料理スタイル」が新しい、中華の新星誕生
中華料理といえば、円卓に並ぶ大皿料理を大勢でワイワイ楽しくとりわけるシーンが目に浮かぶ。だが各人に一品ずつ提供する懐石料理スタイルの中華料理店として注目されているのが、2020年2月5日にオープンした『恵比寿中華泰山(たいざん)』だ。
オーナーである大津慶一さんが、「日本独特の温かいおもてなしと美意識、本格広東料理をひとつに融合させた店を作りたい」と考え、作った店だという。
『恵比寿中華泰山』があるのは、JR恵比寿駅の東口から徒歩5分ほど歩いたところにある、恵比寿四丁目交差点路地のビルの2階。落ち着いた街並みに溶け込むようにひっそり佇む、まさに隠れ家のような店構えだ。
料亭か高級旅館のダイニングのような空間は、中華料理を食べにきたことをつい忘れそうになるほど。
4席のカウンター(写真上・左)以外はすべて個室。2名用が1室、4名用が2室、8名用(同・右)の計4室22席で、さまざまなシチュエーションで使い分けができそうだ。
この空間を見ると価格が高そうに感じるが、ランチコースは3,800円(7品)から、ディナーコースは6,600円(7品)からと、意外にもお手頃価格だ。
腕を振るうのは、『赤坂璃宮』『桃園』などの名店で研鑽を積んだ実力派シェフ
厨房で腕をふるっているのは、36歳(取材時)の料理長、菅野能仁さん。『赤坂璃宮』、『ホテルイースト21』の中国料理『桃園』(東陽町)などで腕を磨き、横浜中華街の中でも老舗として知られる本格中国料理店『揚州飯店(ヨウシュウハンテン)』では料理長も務めた若き実力派だ。
大学卒業後にイタリア料理に興味を持ち、辻調理師専門学校に進んだが、授業で中国料理の魅力に開眼。
「鍋ひとつで揚げ物も煮込みも炒め物もすべて作れるのは、世界中の料理の中で中国料理だけであることを知り、とても驚きました。テクニックを知れば知るほど奥が深くて、授業では鍋を振るのが楽しくてしかたなかったですね」(菅野さん)
コースは、繊細さと遊び心に富んだ6種の前菜からスタート
アラカルトメニューは、菅野さんの確かな技術力が感じられるオーソドックスな中華料理が充実。
対してコース料理は、菅野さんのセンスと遊び心、ほかでは味わえない料理を満喫できる。コース料理はランチタイムとディナータイムで各3コースあり、いずれもメニューの食材が時季により変わっていく。
今回は、贅沢な旬食材をふんだんに使っているのにリーズナブルな価格と評判の「翡翠(ひすい)コース」を紹介しよう。
全7品の「翡翠コース」は、目にも鮮やかな「中国前菜の六種盛り合わせ」(写真上)からスタート。中華料理のイメージを裏切る繊細な盛り付けが、九谷焼の小皿のインパクトの強い絵柄と違和感なく融合し、箸をつける前に見惚れてしまう。
「九谷焼は日本の伝統的な食器なのに、不思議と中華っぽいニュアンスがあるんです。味とともに、盛り付けた時に器の美しさも伝わるように心がけています」(菅野さん)
2種類のナッツの盛り合わせ「黒糖ナッツ・カシューナッツ麻辣味」(写真上・左)は、人気メニューのひとつ。「黒糖ナッツ」は、カリカリに香ばしく揚げたピーカンナッツに黒糖を煮詰めたシロップで飴がけしたもの。「カシューナッツ麻辣味」はカシューナッツを揚げたあと、山椒、豆板醤、ラー油などを絡めたもの。甘いナッツと辛いナッツ、交互に食べると止まらないおいしさ。これだけでお酒がかなり進みそうだ。
「美明豚の釜焼き叉焼(チャーシュー)」(写真上)は、菅野さん自慢の一品。ジューシーな肉質と甘みのある脂が特徴の茨城産銘柄豚・美明豚(びめいとん)を使用し、隠し味にバラ科のリキュールを使ったタレに漬け込んで焼いている。
たっぷり汁気を含んだ肉は、口の中でほろりとくずれるほどのやわらかさ。タレの甘みの後に、華やかなバラの香りがふんわり広がる。チャーシューは中華の料理人の個性がはっきりあらわれる料理のひとつだが、これは菅野さんの繊細なセンスが際立つ逸品だ。
「大山鶏 低温調理のよだれ鶏」(写真上・右)は、低温調理で約2時間加熱してしっとり仕上げた鶏むね肉に、黒酢、醤油、山椒、ラー油、豆鼓(とうち)入りのタレをかけたもの。ピリッとした刺激とほどよい酸味が、食欲を目覚めさせる。
「牡丹海老の和え物 葱生姜・海老味噌ソース」(写真上・右)は、刺身でも食べられるボタン海老に、生姜、葱油、ボタン海老の味噌をミックスし調味したソースをかけたもの。ソースは凝縮された海老のうまみとともに、すりおろした後に汁を切って使用した生姜の繊細な食感が印象的。
いずれもほんのひと口サイズの前菜に、実に細やかな仕掛けが施されていて、懐石料理を味わうような楽しさが感じられる。
旬野菜とともに味わう魚料理は、複雑で濃厚なうまみに驚き
前菜の後には「蒸し点心」(取材当日は「上海小籠包と桜海老の大根餅」)。続いて海鮮料理だ。
「真鯛の自家製XO醬 強火炒め」(写真上)は、旬のマダイと、コリンキーや紅芯大根など季節野菜の炒め物。自家製XO醤のほかは、わずかな塩とオイスターソースのみというシンプルな味付けだが、複雑で濃厚なうまみを強く感じる。
深い味わいの秘密は「自家製XO醤」。XO醤とは、干し貝柱や干し海老などの高級な乾物を戻して使用する合わせ調味料だが、菅野さんは乾物のうまみを濃厚に残すため、戻すのに必要なギリギリの水分しか使用せず、ハチミツで甘みを足している。菅野さんの料理の繊細さと大胆さを象徴している一品といえよう。
大胆さと繊細さが交互に炸裂! コース料理ならではの計算された流れを堪能
続いて、鮮やかな藍色の蓋物が登場。そっと蓋を開けると……?
春の野を思わせる緑色のソースと、見事に形が整った美しいフカヒレが目に飛び込んでくる。「フカヒレステーキ 春野菜ポタージュ」(写真上)だ。
下味を付けた後、たっぷりの油で両面をこんがりと揚げ焼きにしたフカヒレは、外側がカリッと香ばしく、中がしっとりやわらかく、姿煮よりも繊維のプリプリした食感が強く感じられる。一枚のフカヒレで、多彩な食感が味わえるのが嬉しい。
ソースとして添えられている春野菜のポタージュのベースは、ホウレンソウ。それに新ゴボウ、新ジャガイモ、グリーンピースを加えて茹で、ミキサーにかけて、白湯でのばしている。濃厚なフカヒレステーキなのに食べ飽きないのは、まるで春そのものをいただいているようなこのポタージュの清新な味わいが舌をリフレッシュさせるからだろう。
続いて本日のメインともいうべき「牛ヒレカツ 新タマネギの鎮江黒酢ソース」、シメの「大海老のガーリック蒸し卵白炒飯」、最後のデザートでコースは終了。
デザートの「杏仁豆腐甘夏ソース」(写真上)は、スプーンでやっとすくえるくらいのやわらかさ。
さっぱりした甘みの杏仁豆腐に、ほろ苦さを絶妙に残した甘夏ソースがよく合う。
料理に合わせるなら、紹興酒よりもワイン、中国茶よりも日本茶がオススメ
お酒は紹興酒も置いているが、メインはワイン。
「菅野シェフの料理が主役になるような、主張の強すぎないワインを揃えています」(女将の千葉真由美さん)
ノンアルコールドリンクとして菅野さんの料理に合うお茶を追求した結果、探し当てたのが、『茶聞香(ちゃもんこう)』というブランドの日本茶。
「G20大阪サミット」、「G7伊勢志摩サミット」などで国賓に提供されたことで有名な、ワインボトル入り手摘み高級茶「ロイヤルブルーティー」を製造・販売する『ロイヤルブルーティージャパン』がプロデュースしたお茶を、目の前で丁寧に淹れている。
「茎ほうじ茶」(写真上・左)は赤ワインのような、上品な深みのある甘みと、長く続く余韻が。
「煎茶」(同・右)は白ワインのように、スッキリとした繊細な味わいが楽しめる。
日本人と相性の良い広東料理を、もっと日本人好みに進化させたい
食べ終えて、料理ジャンルとしては対極にあるイメージだった中華料理と懐石料理が、違和感なく融合していることに驚いた。中華料理と懐石料理、どちらにも物足りなさを感じている人に、ぴったりはまるのではないだろうか。
和服の女将やスタッフのこまやかなサービスもまた、『恵比寿中華 泰山』の大きな魅力。個室なのでプライバシーも保たれ、接待にも記念日にも、安心して使えそうだ。
【メニュー】
ディナーコース「翡翠」(7品) 8,800円
ランチコース 3,800円~
グラスワイン 800円~
紹興酒(グラス)600円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込みです
※ディナータイムのみ、別途サービス料10%が必要です
※本記事の取材・撮影は2020年3月に実施いたしました
撮影:佐々木雅久
恵比寿 中華 泰山
- 電話番号
- 03-5422-7944
- 営業時間
- 11:30~14:30(L.O.14:00)、18:00~23:00(L.O.22:00)
- 定休日
- 日・祝
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。