オープンから1年半で、『ミシュランガイド東京』のビブグルマンを獲得した店
フレンチ&イタリアン激戦区の自由が丘は、華やかにオープンを飾る店も多い一方で、リピート客を維持するのが難しいエリアでもある。
そんな自由が丘に2017年4月にオープンした『D'êtraison (デトレゾン)』は、実力派シェフの作るオリジナリティあふれるフレンチで固定ファンを増やし続け、オープンからわずか1年半で『ミシュランガイド東京』のビブグルマンを獲得した。
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東急東横線・自由が丘駅の中央口を出て、徒歩10分ほど。隠れ家のようなさりげない佇まいの入口。
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中に入ると、木の温かみと和のテイストが融合した、落ち着いた空間が広がる。背もたれの優雅なカーブが特徴の「柏木工」(飛騨高山)の椅子は、美しいだけでなく座り心地抜群で、つい長居したくなる。
4名用のテーブル3卓(写真上)は、コロナ対策として各テーブルを離して置いている。
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カウンター席(写真上)も大人気。夜、通りがかりに小窓から店内をのぞき、カウンター席が空いているのを確認して入る一人客も多いとか。
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シェフの三田幸輔さん(写真上)は、フレンチの名店『レ・ザンジュ』(銀座・現在は閉店)、『ラブレー 』(代官山)、『オー バカナール』(赤坂・現在は閉店)を経て、『レストランFEU (フウ)』(乃木坂)ではスーシェフを、『ランベリーBis(ビス)』(表参道・現在は閉店)でシェフを務めた実力派。2017年4月に独立し『デトレゾン』をオープンした。
9月末までの限定メニュー、トウモロコシの三重奏のような前菜「朝採りトウモロコシのババロア」に感動
メニューの約半分はオールシーズン楽しめる定番料理で、残り半分が季節ごとに入れ替わる。
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夏季の前菜メニューで一番人気は、「朝採りトウモロコシのババロア」(写真上・1人前)。
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クリーム状にしたトウモロコシと、クリームのみで作られているババロアを合わせたものをひと口食べると、とろけるような舌触りと凝縮された甘み。
それを見事に引き立てているのが、トッピングのポップコーン。サクサク食感とほのかな塩味、焼きトウモロコシの香ばしさ。そこに天使のエビのプリプリ感、スナップエンドウのしゃっきり感も加わり、さまざまな食感が一様に、トウモロコシのババロアのなめらかさを引き立てているのを感じる。
夏になるのを待ちかねて注文する常連が多いというのも納得。7月~9月末までの提供のため、味わえるチャンスはあとわずかだ。
「誰にでもわかる味をちょっとずらすのが好き」
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魚料理の定番で人気が高いのが、「天使海老とホタテのソテー 7種のスパイスの薫り」(写真上・1人前)。
クミン、白胡椒、ローズマリー、フェンネルシード、ディル、エストラゴンに、隠し味としてカレー粉を加えているのがユニークだ。
「カレー味はシーフードによく合いますし、僕は誰にでもわかる味を、ちょっとだけずらすのが好きなんです」(三田さん)
この発想はなかった! 牛ほほ肉はコンフィにすると、ゼラチン質が最高においしくなる
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「誰にでもわかる味をちょっとずらすのが好き」という三田さんの真骨頂ともいえるのが、肉料理のスペシャリテ「和牛ほほ肉のグリエ 粒マスタードソース」(写真上・1人前)。
牛ほほ肉はそのままだと筋があって固いので、赤ワイン煮込みにするのが定番だが、「それだとあまりにも普通すぎて、あえて自分が作る必要もない気がしまして…」と三田さん。
そこで、牛ほほ肉を丸一日、ハーブ風味のマリネ液に漬けた後、コンフィに仕上げている。5~6時間かけ、低温の油でじっくり揚げ煮した牛ほほ肉は、表面はカリッと香ばしいのに、フォークで軽く押すだけでほぐれるやわらかさ。ほほ肉の中のプルプルしたゼラチン質を、これほど贅沢に味わえる料理はほかにないと思えるほどだ。
「最近はご年配でもお肉を好まれる方が多いので、このお料理は『やわらかくて食べやすい』とすごく喜ばれるんです」(三田さん)
人気No.1のリゾットは、「シメ」へのラブコールから生まれた
フレンチなのに、この店を訪れるお客のほとんどが頼むのがリゾット。リゾット目当てで訪れる人も少なくないという、超人気メニューだ。
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中でも人気が高いのが、通年提供している人気グランドメニュー「岩のりのリゾット ウニ添え」(写真上・1人前)。
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三田さんの作るリゾットは確かにアルデンテなのに、芯にそれとわかるような固さがない。その秘密は、石川県産のイタリア米「カルナローリ」を天日干しにしたものを使用していることにある。
「カルナローリ」はイタリアでも作られている品種だが、日本の土壌はイタリアより湿度が高いため、米自体の水分が多くなり、日本人好みの粘度の高い食感になる。とはいえ、形は一般的な日本の米よりも長く、ひとまわり大きな粒なので、アルデンテの食感を残しやすい。
つまり、イタリア米特有の粒感と日本米特有の粘りが絶妙に融合されているのだ。
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三田さんがリゾットを作り始めたのは、表参道の『ランベリーBis』(現在は閉店)でシェフを務めていた時。
「最後にどうしても“シメ”が欲しいというお客様が多かったんです。僕も日本人なのでその気持ちはわかるのですが、設備の問題でパスタは作ることができなかったので、リゾットを2~3種類出すようにしたんです」(三田さん)
もともと三田さん自身も、アルデンテの食感が主張しすぎるリゾットがあまり好みではなかった。そこで試作を重ねて、芯にもっちりした絶妙な食感が残る自分好みのアルデンテのリゾットを完成させたところ、評判になった。
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「岩のりのリゾット」は、鶏のブイヨンをベースにバターとチーズでコクを出し、仕上げに静岡県・浜名湖産の香り高い生海苔を加えている。
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芯まで味が染みこんだリゾットは、米のうまみ、チーズとバターのうまみ、鶏のうまみが絡み合って混然一体となり、そこにウニの磯の香りをまとったうまみが加わると、まさにうまみの爆弾のよう!
噛みしめると、米の芯の部分にもっちりした弾力があるが、その歯触りが主張しすぎていないからこそ、うまみの一体感が味わえるのだろう。
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これからのシーズンにぜひ食べてほしいのが、「ボルチーニ茸のリゾット」(写真上・1人前)。
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ポルチーニ茸のだしに、マデラ酒(ポルトガル・マデラ諸島で造られるアルコール度数の高いワイン)でうまみを加えている。
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ポルチーニ特有の香りと、濃厚なコクがあるが、生クリームを加えていないため食感は軽い。最後のひと口まで、スプーンが止まらないおいしさだ。
メニューにはその季節にしか味わえないリゾットも多い。取材日には、「トウモロコシと牛肉のリゾット」「サーモンとカリフラワーのカレー風味リゾット」「穴子とインゲンのリゾット」などがあったが、食材によってはその週だけしか味わえない、一期一会のリゾットもあるとのこと。
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「ワインは、料理とのペアリングを重視。国にはこだわらず、三田シェフの料理のテイストに合っていると感じたものを選んでいます」と語るのは、ソムリエの小林芙美香さん。
シャイで寡黙な三田さんと、気さくで明るい雰囲気の小林さんは、対照的だが息の合ったいいコンビ。初めて訪れるお客さんともトークが弾む小林さんのオープンなサービスも、この店の親しみやすさと温かさの理由だろう。料理に合わせて小林さんがセレクトしたハーフポーションのワインが各皿につく「ペアリングセット」も、人気だ。
「日本人がホッとするようなフレンチを作りたい」
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三田さんが考えるフレンチの最大の魅力は、素材を無駄にしないことと、ひとつの素材に対する調理法の幅の広さ。
「クラシックなフレンチは、日本人には重く感じることもありますよね。僕はクラシックのフレンチをベースに、日本人がホッとする味のフレンチを作りたい。今はシンプルすぎるくらいシンプルなフレンチも流行りだけど、いろんなジャンルを混合させて新しい味を作るのが、自分に合っていると思います」(三田さん)
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メニュー(写真上)はすべて2人前での表記だが、今回の取材のように、1人前(半額)でのオーダーも可能。一人でふらりと訪れてフレンチを食べたい人へのやさしさが感じられるが、「僕自身が、そういう店があったらいいなといつも思っていたんです」と三田さん。
「誰にでもわかる味」だから、ホッとする。それを「ちょっとずらす」から驚きと感動がある。そこに三田さんのやさしさが加わるから、舌の肥えた自由が丘の地元民に、深く愛されているのだろう。
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【メニュー】
・朝採りトウモロコシのババロア 1,300円
・天使海老とホタテのソテー 7種のスパイスの薫り 1,500円
・和牛ほほ肉のグリエ 粒マスタードソース 1,700円
・岩のりのリゾット 800円
(ウニトッピングプラス 300円)
・ボルチーニ茸のリゾット 1,000円
・ワイン グラス800円~
・アルコール3杯セット または ペアリング5杯セット 3,200円
※料理はすべて1人前の価格です。また、価格はすべて税抜です
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
撮影:榊 智朗
D’etraison(デトレゾン)
- 電話番号
- 050-5487-0983
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- ディナー 18:00~22:00
(L.O.20:00、ドリンクL.O.20:00)
- 定休日
- 月曜日・火曜日
※月曜日が祝日の場合は営業、翌火曜日が振替休日となります
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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