学芸大学で10年間愛され続ける、自然派ワイン食堂
ワイン好きの間で年々、人気が高まっている自然派(ナチュラル)ワイン。そんな中、10年前のオープン時から“自然派ワイン食堂”として地元のワイン好きに愛され続けているのが、学芸大学の『ワイン食堂 レインカラー』だ。
多彩な品揃えの自然派ワインとともに常連の舌をとりこにしたのは、オーナーシェフの手島義朋(てしま・よしとも)さんの作る、ジビエを中心とした繊細かつダイナミックな料理。
2019年9月に2号店となる『大衆酒場 レインカラー』を同じ学芸大学にオープンしたことをきっかけに、『ワイン食堂 レインカラー』のシェフは小淵卓也(こぶち・たくや)さんにバトンタッチ。その個性的な料理が、新たなファンを増やしている。
最大の魅力は、見て選べるウォークイン・ワインセラー
東急東横線・学芸大学駅の東口の賑わう商店街を4分ほど歩いた路地にある、『ワイン食堂 レインカラー』。看板のイラストは、常連のデザイナーさんが店のイメージに合わせて描いたもの。
ヴィンテージ感のある木製の家具が、くつろげる落ち着いた雰囲気を醸し出している。
店内奥には、約500本の自然派ワインがずらりと並んだウォークイン・ワインセラー(写真上)。圧巻の迫力で、ワイン好きならラベルを眺めているだけで時間を忘れそうだ。
シェフとソムリエは、店の常連出身
シェフの小淵卓也さん(写真上・右)と、ソムリエの伊藤香菜さん(同左)。ふたりとも、『ワイン食堂 レインカラー』の元常連。それだけに、店とお客への愛情はひとしおだ。
小淵さんは十数年にわたり、イタリアンとフレンチの店で腕をふるってきたベテラン料理人。
「僕が通い始めた当時は、『自然派ワイン食堂 レインカラー』という看板でした。仕事帰りの真夜中に通りかかってその看板を見て、『こんな深夜に自然派ワインを飲める店があるのか!』と驚いて入ってみたら、日本ではないような独特の雰囲気で、自然派ワインの品揃えもすごかった! そこからファンになり、仕事帰りに通うようになりました」(小淵さん)
オーナーシェフの手島さんは「この店の最大の魅力は、見て選べるワインセラーと自然派ワインの豊富さ、小淵(さん)の料理。そして伊藤(さん)の人柄です」と、伊藤さんの接客を絶賛。気取らない温かなトークで、ワインに詳しくない人にもわかりやすく味を説明してくれるのがありがたい。
一品ごとの手間ひまに感服! まさにワイン泥棒な「パテの盛り合わせ」
前菜の一番人気「パテの盛り合わせ」(写真上)は、3~4人でもたっぷりつまめるほどのボリューム。左から順に、「パテドカンパーニュ」、「豚肉のコラーゲンパテ」、「レバーパテ」、「ゴルゴンゾーラとハチミツのムース」。
「パテドカンパーニュ」(写真上)は香味野菜やブランデー、ワインなどで1日マリネした豚肉を3段階の粗さに分けて挽いているのが特徴。肉の粗さが違うため、ひと口ごとに違う食感、異なるうまみが現れるのが楽しい。
「豚肉のコラーゲンパテ」(写真上)は、豚肉のコラーゲンが豊富な部位4種類を使用し、自然に固めている。味付けは塩のみというシンプルさだが、コリコリしたコラーゲンを噛むたびに中からうまみが染み出てくる。
ベビーピンクの色が鮮やかな「レバーパテ」(写真上)は、丁寧に下処理した鶏レバーをなめらかに裏ごしし、隠し味に粉トウガラシの辛みを効かせた一品。添えられた自家製ママレードの甘みとほのかな酸味、苦みが、レバー特有のコクを強く引き出し、ワインがいくらでも進んでしまう危険な味わいだ。
この自家製ジャムは夏にはイチゴや.、夏にはプラム、秋にはリンゴなど、その時々で変わるとのこと。レバーパテとのマリアージュを体験するためだけにでも、季節ごとに訪れたくなる。
「ゴルゴンゾーラとハチミツのムース」(写真上)は、ゴルゴンゾーラチーズに白ワイン、生クリーム、ハチミツなどを混ぜ合わせたもの。まるでスイーツのようにふわふわの食感、ミルキーな後味は、デザート代わりにもなりそう。
「レバーパテ」や「ゴルゴンゾーラとハチミツのムース」にぜひ合わせたいのが、「自家製フォカッチャ」(写真上・左)。伊藤さんが、レーズンを使って酵母菌(同右)から育てて焼いているこだわりのパンで、ほどよい塩味と自然のほのかな酸味、さっくりした食感が、パテやムースのなめらかさをさらに増幅させる。
4品すべてが個性的で、どれも絶品。4人でシェアしても十分なボリュームで、この一皿だけでも、軽くワイン1本は空けてしまいそうだ。
フレンチ出身シェフの技が光る、秋らしさ満点のテリーヌ
季節ごとの素材を閉じ込めた美しいテリーヌも、小淵さんのフレンチでのキャリアが光る人気料理。
「ホタテとごぼうのテリーヌ きのこの香りのムース」(写真上)は三層仕立て。下の層はさまざまな風味をつけて煮たホタテ、中の層はカツオだしで煮たゴボウ、上の層はさっと湯引きしたほぼ生のホタテ。それを、だしでやわらかく煮た大根で包んでいる。
付け合わせの「きのこの香りのムース」は、複数のキノコを牛乳などで煮出し、キノコの濃密な香りとうまみを抽出している。
「土の香りのするゴボウに、森の香りも加えたいと思ったんです」(小淵さん)
テリーヌとムースをいっしょにほおばると、口の中に鮮烈な“秋の香り”が広がる。テリーヌの下にしのばせた爽やかなエストラゴン・ドレッシングの香りは、大地の上を吹き渡る秋風のよう。
ラム肉の香りが、自家製アリッサペーストの辛みで爆発!
ほぼ球形のダイナミックなフォルムの「粗挽きラムハンバーグ 自家製アリッサペースト」(写真上)は、粗挽きのラム肉にニンニクやタマネギ、パン粉、クミンを加え、20分ほどかけてじっくり焼きあげている。
ナイフを入れた瞬間に、泉のように肉汁が溢れ出す。何もつけずに食べてもラム肉の野性的な味わいを楽しめるが、ぜひ添えられた「自家製アリッサペースト」とともに味わってほしい。
このペーストに使われているのは、東京都青梅市『Ome Farm』の無農薬野菜。ハラペーニョのガツンとした辛み、ミント、コリアンダー、グリーンオリーブ、クミン、ローズマリーの香りが、ラム肉の野生の香りを爆発的に膨らませる。少し重めのしっかりした風味の赤ワインが、たまらなく欲しくなる。
麺にとことんだし汁を吸わせた、ワイン飲みのためのパスタ
シメのおすすめは、太目の麺を固めに茹で上げ、ソースのうまみを吸わせた「カラスミのスパゲットーニ」(写真上)。
麺に沁み込んだソースは、イタリア南西部のカラブリア地方産の香りのいいトウガラシ「ペペロンチーノ ピッコロ」(写真上)とニンニクをオリーブオイルで炒め、アサリのだしと昆布だしを合わせたもの。
うまみの塊のようなパスタで、パンチの効いた辛みもあり、フォークが止まらないうまさだ。これもまた、ワインがぐいぐい進む味。だしに塩味があるので、カラスミは塩分控えめのものを使用している。
「いろいろ召し上がって、シメにこのパスタで、という時は塩味をやや濃いめに、ワインを飲みながらの時は少し薄めに、というように調節しています」(小淵さん)
淡い味わいの赤やロゼを中心に、約500本の自然派ワインが揃う
常時500本ほど揃えているワインはすべて、自然派ワイン。
「国を問わずにいろいろなタイプのものを揃えていますが、エチケット(ラベル)で選ぶこともあります。オーセンティックな味のワインを好まれる方もいますので、『Bressan(ブレッサン)』の「Carat 2015」(写真上・中央)のようなしっかりした味わいのイタリアワインも置いています」(伊藤さん)
だが圧倒的に多いのは、淡い味わいの赤ワインとロゼ。
「自然派ワインはだしのうまみを感じさせる味わいが多いので、それに寄り添う味を心がけています」(小淵さん)
夢は「三世代にわたって愛を受け継ぐ店」
手島シェフ時代は、ジビエなど肉料理を中心としたイタリアンを展開していたが、小淵さんに変わってから、一気にジャンルが広がった。中には和食店にあってもおかしくないメニューもあるし、エスニック風や中華風も…。もはやビストロの枠を超えた“レインカラー料理”になっている。
「自然派ワインには、和食にも中華にもよく合う懐の広さと深さがあります。それに合わせると料理も自然とそうなってしまうんです」(小淵さん)
手島さんは、「三世代にわたって愛される店にしていきたい。若い頃から通ってくださった方が、お酒を飲める年齢に成長した子供といっしょに来店されたり、新入社員だった方が中堅になり可愛がっている後輩を連れてきたり…。そんな風に、楽しい時間が受け継がれていくような店にしたいですね」と語る。
この店を愛し、二代目のスタッフとなった小淵さんと伊藤さんなら、その夢をしっかり受け継ぎ実現させていくことだろう。
【メニュー】
パテの盛り合わせ 2,000円
自家製フォカッチャ 300円
ホタテとごぼうのテリーヌ キノコの香りのムース 1,000円
粗挽きラムハンバーグ 自家製アリッサペースト 2,000円
カラスミのスパゲットーニ 1,600円
グラスワイン 750円~
撮影: 榊 智朗
ワイン食堂 レインカラー
- 電話番号
- 050-3373-8840
- 営業時間
- 18:00~翌2:00
- 定休日
- 毎週水曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。