幸食のすゝめ#110、素の葡萄には幸いが住む、千歳船橋
「なんかできてるよ、502だって、ジーンズ屋さんかな!?」
「でも、何だかワインがたくさんあるし、テイクアウトのお惣菜もあるみたい」
近所に住む2人だろうか、通りがかったカップルがお揃いのマスク越しに、目新しい店舗を覗き込んでいる。
入口に飾られた巨大なオブジェが、実は(ワインに欠かせない)コルクの原木だと気づいた人以外、ここが酒屋で、その場でイートインすることもできるワインショップだとは気づかないだろう。
コロナ禍の中、2020年の11月末にオープンした『no.502(ナンバー・ゴーマルニ)』は、一見、街の酒屋には見えない。むしろ、ブティックか、趣味がいい古着屋さんみたいだ。
自然派ワイン好きの人の中には、『no.502』という名前を聞いて、「もしかして!?」という印象を抱いた方も多いかもしれない。2016年年末に外苑前に誕生し、ワインラバーたちの話題を呼んだ自然派ワイン専門の角打ち『no.501(ナンバー・ゴーマルイチ)』の姉妹店だ。
自然派ワインに魅せられて
『no.501』、『no.502』のオーナー尾藤信吾(おとうしんご)さんは、元々ファッションショーやイベントを手がける演出家だった。仕事柄ワインを飲む機会が多く、その中で出逢った自然派ワインの魅力に夢中になる。その土地の自然に寄り添った造り方をした葡萄を元に、その畑で、その葡萄についた酵母だけで造るワイン。造り手たちの個性がそのまま反映された多様なエチケットも楽しかった。
それは、どこかショーの演出で出逢ってきたデザイナーやミュージシャンなどのアーティストたちにも通じる感覚だった。今度はぜひ葡萄という自然から、素晴らしいワインを造り出すアーティストたちの演出家になろう。『no.501』は、尾藤さんのそんな想いが結実した場所だ。
葡萄愛に目覚めてしまった尾藤さんは、やがて自らも造り手への道を目指す。地元広島の障がい者施設で造られている、買いぶどうを使ったオリジナルワイン「みどりちゃん」の誕生だ。生産者と東京を繋ぎたいという想いから、微発泡ロゼの「みどりちゃん」には手紙が付いている。飲んだ人たちの想いを、生産者たちに届けたいという尾藤さんのアイデアだ。「みどりちゃん」に続いて、2020年末には「青い軽トラ」もリリースされた。
そんな『no.501』の2号店、『no.502』が開店した場所は、小田急線・千歳船橋駅から徒歩5分の閑静な住宅地。ギャラリーや大使館、ブティックなどが林立する外苑前とは、大きくイメージがかけ離れた場所だ。
住宅地に建つ優しい句読点
2020年11月30日にグランドオープンした『no.502』は、『no.501』の世界観やエッセンスを引き継ぎながら、よりスケールアップした営業形態で、千歳船橋という閑静な住宅地に優しい句読点を打った。
外苑前という都心部から住宅地への出店を考えたのは、コロナ禍で通勤が少なくなり都心部の飲食が打撃を受ける中、住宅地の飲食店は軒並み好調。しかも、家飲みを楽しむ人たちの需要が増えていたからだ。感度の高い層が住んでいる世田谷エリアなら、身体に優しい自然派ワインを求めている人たちも多いだろう!?
2階建古民家を丸ごとリノベーションし、1階にはワインが並ぶ冷蔵庫と角打ちできるスタンディングスペース、終日対応のデリ・スペースがあり、ワインに合わせて日替わりのデリやお弁当をテイクアウトできる。
2階にはゆったり過ごせるテーブル席が設けられ、ランチやディナーを楽しめる。
ワインは、フランス、イタリア、スペイン、オーストリア、チェコ、スロバキア、ジョージア、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、そして日本などのボーダレスな自然派ワインのセレクトに加えて、ここでは京都宇治から届く有機栽培の日本茶を使ったドリンクメニューなども用意されている。
スコットランド人と日本人、男女のシェフによるフードメニューは、イートインでのワインに合う本格的な食事から、デリなどのテイクアウト可能なお惣菜まで幅広く用意されている。
優しい味付けの惣菜は、ボーダレスでジェンダーレス、そしてエイジレス。子どもたちの舌にも優しく、すべての人に喜んでもらうための調理を心がける。動物性食品不使用、アレルギーフリーでベジタリアンに配慮したメニューも用意されている。
角打ちから食のセレクトショップへ
自然派ワインに寄り添うように、身体に優しい食が並ぶ『no.502』は、サスティナブルな社会に貢献するための活動にも留意。50円の紙袋を用意し、デリを持ち帰るための容器持参を推奨。持っていない方には、デポジット制の貸出ボックスも用意している。
開店以来、充実の一途で増殖を続ける1階入口の小売りコーナーには、自然派ワインの造り手が手がけたオリーブオイルや、オリジナルワインの葡萄を作っている広島の障がい者施設の方々が作るお米など、こだわりの食材が並び、住宅街の角打ち酒屋はいつのまにか食のセレクトショップに変容している。
自然そのままの、素っぴんの葡萄の味わいに魅せられて始まった新しい時代の角打ち酒屋は、コロナ禍の街を照らす灯台のような、優しさに包まれた食のセレクトショップになった。
素の葡萄には、幸いが住んでいる。
[メニュー]
グラスワイン 700〜1,500円
ボトルワイン 定価+抜栓料2,000円
オリジナル・コーヒー 600円
有機栽培 玉露茶 700円
有機栽培 煎茶 650円
no.502 4種盛合せ 1,600円(2名様〜)
レイヤードランチ 1,500円
宮城県石巻炙り〆鯖 1,350円
アスパラソテー 自家製柚子胡椒とヨーグルト 1,500円
北海道和牛スネ肉の赤ワイン煮込み 1,800円
カリフラワーのソテー ザクロとグリーンカレー 1,500円
ゴルゴンゾーラのチーズケーキ チーズのセミフレッド 700円
チョコレートのテリーヌと宇治の抹茶 700円
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また、ワイン以外の価格はすべて税抜です。
no.502 (ナンバー・ゴーマルニ)
- 電話番号
- 03-6413-5550
- 営業時間
- 9:00〜21:00(20:00以降はショップのみ)
- 定休日
- 不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。