ミシュラン店の姉妹店が渋谷に誕生! すしは1カン80円から
2021年4月、“奥渋”エリアに誕生した『すし光琳(こうりん)』。「ミシュランガイド東京2021」でビブグルマンを獲得した、東京・初台の名店『すし宗達(そうたつ)』の姉妹店だ。
にもかかわらず、街場のすし屋さながらのカジュアルな出で立ち、かつ1カン80円〜の低価格でお客を出迎えてくれる。
『すし宗達』は、代表取締役社長の新田真治さん(写真上)が28歳の時に立ち上げたすし店。現在は東京・初台の『寿司 おでん 芦舟(ろしゅう)』を含め、計3店を展開している。
絵画に造詣が深い方ならピンと来るかもしれない。店名はすべて、桃山時代後期から活躍した、造形芸術の“琳派(りんぱ)”画家に由来。
その理由について新田さんは「大胆さと繊細さを兼ね備える絵画は、料理と精通するところがある」と話す。
新田さんは、東京・杉並のすし店で5年間修行した後、和食店でフグやすっぽんなどの和食の技術も学び、計10年の修行期間を経て独立を果たした。
『すし光琳(こうりん)』が目指したのは「お店のおまかせでなく、お客さまのワガママに応える自由な街場のすし店」(新田さん)。
おまかせ握りも用意するが、基本的には好きなネタを1カンずつ、順番を問わず自由に食べてほしいと考えている。こうしたスタイルは、オペレーションが大変なため敬遠する店も多いが、お客一人ひとりに合わせた食べ方を提案するためには労力もいとわない、実直な姿勢が感じられる。
「かっこつけられる寿司屋」として認知される一軒
店内はカウンター席のみ。カウンターから職人の手元がすべて見えるように設計され、どの席にいてもライブ感が楽しめる。
白木のカウンターは高級な印象があるが、職人が肩肘張らないアットホームな雰囲気でお客に接してくれる。そうしたカジュアルな雰囲気や渋谷という立地もあり、20代の若いカップルも多く来店。「かっこつけられる店」としても認知されており、デート利用や女子会など、さまざまなシーンに対応している。
ネタは豊洲市場に足を運び、目利きで厳選した旬魚をラインナップ。
熟成させるものや酢締めするもの、飾り包丁を入れるものなど、魚種にとって最良の状態で提供できるよう下準備を行う。
使う魚は天然物に限定。シャリや煮切り醤油など、すべてが天然魚の繊細な味わいに合うように仕立て、ネタとシャリの一体感を感じることができる。
それでは、完成された芸術品のようなすしを見ていこう。
うまみを最大限引き上げる職人の技
長崎県産の「白イカ」(写真上)は、火で炙ることで甘みが増すため、一度軽く炙ってから使用。細かく入れられた飾り包丁で目を楽しませてくれる。
イカの甘みが引き立つよう、上に輪島の塩とゆずの皮を飾る。一口目にはゆずの豊かな風味が香り、噛むほどにイカ本来の甘みが口の中を駆け巡っていく。
長崎県佐世保産の「天然マハタ」(写真上)は、鮮度がいいと身がしまって固いため、熟成させ身をやわらかくするとともに、うまみを引き上げる。取材時は熟成8日目のハタを使用。さらに包丁を入れることで噛みやすくする工夫も。
「噛む回数が少ないと、うまみを感じにくくなります。そのため、歯ごたえのあるネタには包丁を入れ、噛むのを手助けしているのです」と新田さんは言う。
「アジ」(写真上)は島根県産で、「天然シマアジ」(写真下)は大分県豊後水道産。
すしに使用する米は、あきたこまちの古米。あきたこまちは甘みが少なく、天然もののネタの繊細さに寄り添ってくれるという。また、古米を使う理由については「表面に傷があり、酢が入りやすいため」と新田さん。
酢は赤酢と白酢を同割でブレンド。パンチのあるシャリに仕立てることで、天然のネタに合うバランスを考えている。
全国の料理人が信頼する「やま幸」のマグロ
マグロは、豊洲市場の仲卸「やま幸」から仕入れる。この「やま幸」は、銀座の高級すし店をはじめ、全国数々の名店にも卸す実績を持ち、多くの料理人たちが信頼を寄せる仲卸業者だ。
取材時は鳥取県境港で穫れた、89.2kgの本マグロ。「89kgは小さい方。今の時期(取材時は7月)は、小ぶりの本マグロのほうがうまみがあっておいしい」と新田さんが話すように、季節によって最もおいしいとされる本マグロをセレクトしている。
「赤身」(写真上)は、自家製の煮切り醤油を塗り提供。煮切り醤油は、濃口醤油、みりん、酒、昆布、かつお節を合わせて1週間寝かせ、醤油のカドをまろやかに調整したものだ。
「大トロ」(写真上)は高価だが、お客からの人気の高い一品。本マグロは10日以上熟成させ、うまみを高め、口当たりのよい食感へと変化させている。
ネタに合わせて握り方も変更
ぜひ食べてほしいオススメのネタが「穴子」(写真上)だ。
穴子はふんわりとした食感を楽しんでほしいと、シャリに空気を含ませて成形するだけ。握らないため、付け台に置くと崩れてしまうことから、お客に手渡しするスタイルもユニーク。
ツメは穴子の骨でとっただしに、上白糖や三温糖などで甘みを添加。このツメは、新田さんが修業した杉並のすし店と同じレシピを採用している。
「シャリとネタが同じ固さで口に入ると、よりうまみを感じやすい」(新田さん)とのことから、ネタによって握り方を変えている。こうした技術が、天然もののネタのよさを引き立たせているというわけだ。
「小肌」(写真上)は、佐賀県産。さばいた後に塩を当て30分置き、その後酢で16分締める。上には「黄身おぼろ」と呼ばれる、卵黄を湯煎してそぼろ状にしたものを添える。この黄身おぼろは昔からある日本料理の技術で、酢の物と食べると、酸味をまろやかにする効果がある。
今では手間がかかることから、すし店ではあまり見掛けなくなった黄身おぼろだが、こうしたひと手間ですしの価値を高めているのも見どころだ。
旬を捉えた一品料理も
すしだけでなく、季節で変化する一品料理も豊富に用意。メニューは豊洲市場で旬の魚介を見て決めるなど、その時しか味わえないものも多くそろえる。
毛ガニを茹で、食べやすいよう甲羅に身を詰めた「毛ガニの甲羅詰」(写真上)。取材時は1パイ550gの毛ガニを半身盛るが、小さめの毛ガニの場合は1パイで提供する。
このメニューは、毛ガニの産地を変えて通年提供。7月時期は北海道噴火湾産で、夏〜秋にかけては、北海道の根室や釧路へと産地が移動していく。
カニ自体、ほんのりと塩味がきいているが、カニ酢とすだちでさっぱりといただくのもおすすめ。箸休めや酒のアテにもぴったりだ。
穴子は梅雨時期が旬。「穴子の白焼き」(写真上)には、宮城県松島産で1尾450gもする大判で身が厚いものを用いる。
身は口の中でふわりとほどけるほどのやわらかさがある一方で、皮はパリッと香ばしい仕上がり。塩、わさび、柚子胡椒、すだちと味を変えて楽しめるため、どんどん箸が進む。
日本酒初心者でも楽しめるラインナップ
アルコールの主力は日本酒。
「すしに合う日本酒に限定すると、どうしても純米酒などにかたよるため、そこにこだわらず、幅広い味わいを用意している」と新田さん。
(※お酒の提供については、現在、国や自治体の要請に準じています)
『すし光琳(こうりん)』は若い人も多いため、日本酒初心者でも飲みやすい大吟醸も用意。すしとのペアリングだけでなく、一品料理と飲み進めるといった楽しみ方も提案する。
そのほかにも酎ハイやワイン、ハイボールなどもラインナップし、お客が自由に好きなお酒が選べるように準備している。
営業は15時〜と早めにオープン。ディナー帯の18時以降は、9月いっぱいまですでに予約で埋まっているが、15時〜の早めの時間帯は座れることも多いという。
「気兼ねなく通える街場のすし店ですが、仕事は真剣。分かる方には、値段以上の価値を感じていただけると思います」と新田さん。
回転ずしと高級すし店の間をいく、ミドルレンジの街場のすし店。使い勝手のよさやコストパフォーマンスの高さから支持され、今は「わざわざ行きたい店」と認知されているが、今後は店舗展開でより身近なすし店にしていく考えだ。
【メニュー】
白イカ 380円
天然マハタ 380円
アジ 230円
天然シマアジ 380円
赤身 380円
大トロ 580円
穴子 380円
小肌 280円
ゲソ 80円
サーモン 160円
毛ガニの甲羅詰 3,600円
穴子の白焼き 1,480円
すし光琳
- 電話番号
- 03-6407-9516
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。