閑静な住宅街の小さなフレンチレストラン
小田急小田原線の経堂駅北口から続く「経堂すずらん商店街」を歩くこと約8分。閑静な住宅街に2021年8月にオープンしたのが、フランス料理店『Coctura(コクトゥーラ)』だ。
シンプルでクラシックな外観は敷居の高さを感じさせず、誰でも気軽に利用できる雰囲気。ディナーコースは要予約だが、ディナーでもカウンター席での食事やランチは予約なしで利用することができる。
店内はオープンキッチンのカウンター席と、地下は親しい仲間との食事が楽しめるテーブル席で構成。カウンターに座れば、シェフ・田中俊資さんとの会話も楽しめる。
1階のカジュアルな雰囲気とは異なり、地下は特別な時間を過ごすにふさわしいラグジュアリーな空間が広がる。デート利用からグループでの会食など、さまざまなシーンで思い出に残る食事ができること間違いなし!
クラシックとモダンの融合で新境地へ
『コクトゥーラ』の指揮を執る田中さんの歴史は、『ヨコハマグランドインターコンチネンタル』に始まる。ホテルでの修業後、27歳で渡仏しパリの「ターブル・ダンヴェール」やニームの『アレクサンドル』など、ミシュラン星付きレストランで腕を磨き込んだ。
帰国後は東京・表参道の『ブノワ』のオープニングに入り、フランス料理の中核を担うソース部門のシェフとして従事する。
その後、東京・駒沢のフレンチレストラン『オーボナクイユ』で独立。オーナーシェフとして14年間腕を振るってきたが、建物の老朽化等により移転を考え、この地を新たな舞台として選択した。
「『オーボナクイユ』は、トラディッショナルなフランス料理を提供していました。今は、伝統的なフランス料理の技法は変えず、表現方法を変えることでクラシックとモダンの融合を提案しています」と田中さん。
店名のコクトゥーラは、ラテン語で「融合」の意。時代とともに嗜好やトレンドが変化するのと同じように、伝統を重んじつつ新しいテクニックを取り入れ、新たなフランス料理を生み出している。
とくに日本の高品質で四季が感じられる食材を活かし、フランス料理の概念にとらわれない食材の組み合わせを提案。料理が一皿ずつ提供されるたびに、驚きと感動を与えてくれる。
見た目、味で驚きと感動を!
コースは「セゾン」と「プレジール」の2種を用意。旬の食材を扱うため、内容は都度変わっていく。
取材時の「プレジール」の一品「秋刀魚とフォアグラのオペラ仕立て」(写真上)は、一見するとケーキのような見た目に驚くオードブル。
オペラの正体は、桜チップでスモークしたサンマをフォアグラのテリーヌでサンドし、上にバルサミコ酢のジュレをかけたもの。濃厚なフォアグラにサンマのうまみとほどよい苦みが混ざり合い、バルサミコ酢の酸味がアクセントとなる。
周りにはサクサクとした食感の変化を提案する、オニオンのチュイルを。濃厚なフォアグラの口直しとして、さっぱりとしたサラダを添える。姫きゅうりやチコリ、アンディーブ、ナスタチウムなどを使い、さまざまな食感、甘み、酸味、苦みなどの変化が楽しめる。
「フォアグラのテリーヌは、クラシックスタイルのフランス料理。それをオペラ仕立てにすることで、モダンな表現にしました」(田中さん)
意外な組み合わせで新たなフレンチを表現する
「セゾン」のポワソンは、日本の秋を代表する秋鮭を使った一品「秋鮭のコンフィ カリフラワーのソース」(写真上)。
秋鮭はコンフィすることでホロホロと溶ける食感に。さらに低温でじっくりと火を通すことで、秋鮭のうまみがぎゅっと凝縮されている。
秋鮭の下には、カリフラワーと玉ネギを炒め、鶏のブイヨンで煮込んだ後、牛乳、バターなどと合わせてピューレ状にしたカリフラワーのピューレを。
「鮭とカリフラワーという意外な組み合わせですが、カリフラワーの優しい味わいに、鮭の強いうま味が好相性です」と田中さん。
上にはうずらの卵のポーチドエッグを乗せ、濃厚な黄身もソース代わりとして楽しめる。
料理の輪郭を決めるのが、仕上げにかけるスモークオイル。料理を口に運ぶまでにスモーキーな香りが鼻孔をくすぐり、食欲を刺激する。
ご飯のようなパンでソースを味わおう
田中さんが作るソースを最後まで味わうための自家製パンも見逃せない。
「ご飯のようなパンを目指している」と田中さんが言うように、やわらかですっと体に入っていく軽めの仕上がりが特徴だ。ディナーではライ麦のパンを、ランチではバゲットを提供。昼夜で異なるため、どちらのパンも味わいたくなるはず。
オリジナリティの光る組み合わせ
「プレジール」のアントレでは、「シャラン鴨のロースト 12種類のスパイスのラケ」(写真下)を提供。鴨の胸肉を使用し、肉の繊維を見て大きくカットする手法は、近代のフランス料理で使われる技法なのだとか。このカットにより、肉のジューシー感が増すという。
鴨肉の皮に、ハチミツをベースにした12種類のスパイスを塗ってじっくりと焼成。スパイスをかけ合わせることで複雑で奥行きのある味わいを打ち出すとともに、オリエンタルなニュアンスが感じられる。
ソースはトラディッショナルスタイルを採用。鴨の肉汁にオレンジを合わせた、定番の組み合わせだが、そこにもスパイスを加えることでオリジナルな味わいに仕上げている。
鴨肉に使うスパイスは、山椒、ナツメグ、シナモン、クミン、コリアンダー、ターメリック、クローブなど。スパイスの根幹となるのはターメリックとコリアンダー、クローブで、オリエンタルな雰囲気はこれらのスパイスがもたらしている。
カジュアルなのにハイクオリティ、ランチも気軽に!
こちらは、ランチコースのデセールより、秋の季節を見た目や食材で表現した「ヌガーグラッセ 柿のスープ」(写真下)。
ヌガーグラッセはハチミツで甘みを加えたイタリアンメレンゲに、アーモンド、ヘーゼルナッツ、セミドライピーチ、オレンジピール、レーズン、クレムシャンティを合わせ冷やし固める。食べるごとにさまざまな味、食感が口のなかを愉快にさせてくれる。
ヌガーの上には、キルシュで和えた柿とキャラメルを塗り、ナッツを乗せたクッキーを。お酒が香る柿により、大人なデセールに仕上がっている。
柿のスープは、柿の香りをより前面に打ち出すため、粉糖で和えた後キルシュとともにミキサーで回し牛乳でのばしたもの。日本の秋を感じさせる柿を、フランス料理へと見事に昇華させた一品だ。
フランス産ワインで食事をより豊かに
ワインはボトルを中心に約65種類と豊富に用意。ボトルはすべてフランス産で、田中さんがセレクトしている。
一方、グラスワインは料理に合わせてソムリエがセレクト。グラスはフランス産以外のイタリアやイスラエル、オーストラリアなどユニークなラインアップで、田中さんの料理に寄り添うよう都度入れ替えている。
コース料理以外でもふらっと立ち寄れる店に
ランチ、ディナーともにコースが主体だが、ディナーはカウンターで前菜盛りやコースの一品をアラカルトで楽しめるようにしている。
「肩肘はらず、グラス1杯から気軽に飲める店としても利用してほしい」と田中さん。
ドレスコードなし、サービス料なしというカジュアルスタイルにしているのも、門戸を広く開け、さまざまな人に使ってもらいたいとの思いがあるから。
田中さんの目標は、経堂の街に馴染み「地元でも高品質なフランス料理が味わえる店」として認知され、街とともに成長していくことだという。
四季折々の食材を活かすため、来店ごとに異なる料理が楽しめるためリピート必至。冬にはジビエの提供や、イベントに合わせた特別コースも提供予定で、お祝い事など特別な日の食事の場として利用したい一軒だ。
【メニュー】
セゾン 7,700円
プレジール 11,000円
ランチコース 5,000円
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。価格は税込です。
Coctura(コクトゥーラ)
- 電話番号
- 03-6770-8941
- 営業時間
- 11:30〜15:00(L.O.14:00)、18:00〜23:00(L.O.21:30)
- 定休日
- 月曜日、第2・第4火曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。