小川町への統合移転でさらに進化!インド料理に新風を吹き込んだ『カレー&オリエンタルバル 桃の実』

インド料理とフランス料理を融合させた“オリエンタルビストロ”料理が人気の『カレー&オリエンタルバル 桃の実』(本郷店/水道橋店)が神田小川町に統合移転。2021年10月7日にリニューアルオープンしました。オーナーシェフの瀬島徳人さんに、統合移転でお料理の方向性はどう変わるのか、お聞きしました。

2022年01月07日
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小川町への統合移転でさらに進化!インド料理に新風を吹き込んだ『カレー&オリエンタルバル 桃の実』

『桃の実』本郷店と水道橋店がひとつになって、小川町に移転!

近年のスパイスカレーブームで、ファンが急増中の南インド料理。東京にまだ数えるほどしか南インド料理店が無かった15年前にその味に魅せられ、インド南部ケララ州 の高級ホテル『CGH』のレストランで修業したのが、『カレー&オリエンタルバル 桃の実』(以下『桃の実』)オーナーシェフの瀬島徳人さん。南インドの料理文化を独特のセンスでアレンジしたオリジナルのインド料理は多くの熱烈なファンを獲得。インド料理界の若きスターとして、特別なポジションを築いてきた。

本郷三丁目にあった『桃の実』本店は、ボーダーレスかつエレガントなスパイス料理を提供する店として、姉妹店の水道橋店はカレー専門店として営業し、水道橋店は「ミシュランガイド東京」の2021年版ビブグルマンに掲載されるなど、高い評価を得ている。

その『桃の実』が2店を統合し、小川町に移転したというニュースは、カレーマニアの間に激震を呼んだ。小川町の店では、新たにネパール人のシェフを招き、昼は旧水道橋店と同じカレーを提供するカレー専門店として、夜はプリフィクススタイルを中心としたメニュー構成で、タンドール料理を中心に、主に北インド料理を提供する店として営業するという。

テーマカラーのブルーで統一されたカジュアルな雰囲気

『カレー&オリエンタルバル 桃の実』(写真上)がオープンしたのは、神保町から小川町に向かう靖国通りの路地を入った十字路の角地。向かいは小川町郵便局で、シンボルカラーの鮮やかなブルーが目をひく。

壁の色も、南インドの海の色を思わせる、明るくて鮮やかなブルー。「爽やかな感じにしたかったんです」と瀬島シェフ。

カレー好きの会社員が、人生初の海外旅行で南インド料理に魅せられて、料理人に

オーナーシェフの瀬島徳人(せしま・のりひと)さん(写真上左)と、デリー出身のネパール人の新シェフ、ニウレ・シブさん(同右)。

カレー好きの普通の会社員だったという瀬島シェフは、人生初海外旅行でたまたま南インド・ケララ州 を訪れる。ケララ州 の料理は植民地時代の名残であるヨーロッパの影響を色濃く残しており、日本で食べていた“インドカレー”とは似て非なるものだった。そのことに衝撃を受けた瀬島シェフは、南インド料理の魅力を多くの人に伝えるべく、料理人への転身を決意。だが当時はまだ南インド料理ブーム前で、そもそも南インド料理を提供する店が都内にも数えるほどしかなく、その厨房で働けるのはインド出身の料理人に限られていた。そこで国内での修行を断念し、思い切って25歳で渡印。運よくインド南部ケララ州 の高級ホテル『CGH』のレストランの厨房で働くチャンスをつかむ。

帰国後、南インド料理店でシェフを務めつつ自然派ワインの魅力にもはまり、ビストロでワインやフランス料理の基礎を学ぶ。2014年に、大好きな南インド料理とフレンチ、自然派ワインを融合させたボーダーレスなインド料理店『オリエンタルビストロ 桃の実』を本郷三丁目にオープン。2号店となるカレー専門店『カレー&オリエンタルバル 桃の実 水道橋店』を2017年にオープンした。

ネパール出身の新シェフと、タッグを組んだ理由

統合移転を決意したのはコロナの影響もあるが、「自分の料理のスタイルを変えたい」と思ったことも理由のひとつだと瀬島シェフは語る。「“インド料理でありながらワインにも合うビストロ料理”というコンセプトで7年間やってきました。でもある時、自分の手クセだけで料理をしていることに気づいたんです。年齢的に40歳を超えたこともあって、移転を機にもう一度基本からインド料理を学び直したい、と思い始めました」(瀬島シェフ)。

そんな時、たまたま新店に応募してきたのが新シェフのニウレさんだった。ニウレさんは、デリーで料理人としてスタート。その腕を買われて、カタールなどの富裕層の多い都市の有名インド料理店で活躍していたという経歴を持つ凄腕の料理人。大の日本好きだったことから、6年前に来日。今回のリニューアルオープンで『桃の実』に加わり、瀬島シェフとタッグを組むことになった。

新たなディナーは、プリフィクススタイル

新生『桃の実』のディナーセットは、前菜4種の盛り合わせ、4種類から選ぶ炭火タンドール料理、4種類のカレーというプリフィクススタイル。さっそくその内容を見て行こう。

「前菜4種の盛り合わせ」(写真上)。左上から時計まわりに、「パニプリ 」(インドの定番スナック)、「フルーツトマトのラッサムマリネ」、「ダヒベイガン」(茄子のタルタル ヨーグルトソース)、「フレッシュマッシュルームとコリアンダーのサラダ」。

「パニプリ 」(写真上)の「プリ」は、全粒粉の生地を揚げてボール状に膨らませたもの。上部に穴を空け、スパイスでシンプルに味付けしたポテトを入れるのが一般的。「パニ」は「水」という意味で、甘酸っぱい冷たいスープ。プリの中にパニをなみなみと注ぎ、一口でパクリと食べる。

最初にパリパリした皮の食感を感じるが、プリが砕けた瞬間に甘酸っぱいスープが流れ出し、最後にジャガイモの甘みが残る。次々に食感や味が変わり、一瞬で終わるマジックを見せられたような、目が覚める一品だ。

「フルーツトマトのラッサムマリネ」(写真上)も、前菜にふさわしい爽やかな一品。インド料理定番の汁物「ラッサム」は辛味と酸味が特徴だが、瀬島流はほどよい辛味とまろやかな味わいに仕上げている。辛すぎないのでフルーツトマトの甘みを繊細に引き立て、一気に食欲が湧いてくる。

「ダヒベイガン」は、タンドールで丸ごとこんがり焼き上げた茄子を、ヨーグルトとスパイスのソースで和えたシンプルな料理。いわばインド風焼きナスだが、とろりとしたやさしい口あたり。4品とも、インド料理とはいえスパイス感は風味付け程度で、洗練された味。瀬島シェフの得意とする料理だ。

メインは、炭火で焼く本格タンドール料理

新店で瀬島シェフが追求したいと思っている料理のひとつが、タンドール料理。スパイスカレーブームで南インド風のカレーを提供する店が多くなったが、カレー店だけが増殖していき、炭火で焼き上げるタンドール料理のような本格的な北インド料理を出す店が減っている。そこで新店では、ニウレさんが得意とする本場のタンドール料理をメインとして提供したいと考えている。

4種からチョイスできるタンドール料理は、ニウレさんの独壇場。「チキンティッカ」(定番のスパイシーなチキン)、ハリヤリチキンティッカ(ハーブを効かせたグリーンマサラのチキン)、ラムシークカバブ(スパイシーなラム肉ミンチの串焼き)、「フィッシュティッカ(マスタードを効かせた魚)、パニール&ベジタブルティッカ(自家製カッテージチーズと野菜)から1品を選ぶ。

「キンティッカ」(写真上)は、ヨーグルトやマスタードオイル、スパイスで前日からマリネをしておき、タンドールで焼き上げる。タンドールから取り出すと同時に、スパイスの香ばしい香りがふんわり広がり、たまらなく食欲をそそる。

使用しているのは、瀬島シェフが肉質と味のよさに惚れこんだ、栃木県の銘柄鶏「香鶏」。高温のタンドールで一気に焼きあげているせいか、外側はクリスピーだが中はふっくらやわらかく、肉汁がしたたるほどジューシー。スパイスの辛みもあって、食べ始めたら止まらないおいしさだ。ミント、パクチー、ヨーグルト、スパイスなどをミックスした「ミントチャトニ」を添えて食べると、爽やかさがプラスされてまた違う味わいになり、いっそう食が進む。

「ラムシークカバブ」(写真上)はマリネ液にヨーグルトを使わず、スパイスのみ。チリパウダーを多めにし、自家製ガラムマサラでピリッと刺激的な味わいに仕上げている。スパイスで巧みに風味付けしているので、ラムが苦手な人にもおすすめだ。

まるで肉料理のようにボリューミーで、甘み少な目、さっぱり軽い「バターチキン」

カレーも定番の「バターチキン」、チリ、ブラックペッパーが刺激的な「スパイシーチキンカリー」、ヨーグルトとナッツを効かせたマトンカレー「マトン コルマ」、ココナッツミルクの味わいを活かした南インド・ケララ州 風のカレー「マラバールフィッシュカリー」の4種類から選べる。

一押しは「バターチキン」(上の写真)。ティッカと同様にタンドリーで仕上げた鶏肉は、かなり大ぶりで、まるでソース多めの肉料理のよう。大ぶりなのにとろけるようにやわらかく、カレーソースとの一体感がある。驚いたのはカレーソースの風味。トマト、バター、クリームで仕上げた王道の作り方だが、一般的なバターチキンにはない軽く、さっぱりした味わいだ。

瀬島シェフは常々、日本で好まれるバターチキンは少し甘すぎると感じているという。「甘いバターチキンも美味しいけれど、ちょっと重く感じることがあるんです。僕はもっとさっぱりした感じが好きだし、食べたあともたれない、ヘルシーなバターチキンを食べていただきたいと思い、こんな風に作っています」(瀬島シェフ)。

カレーのお供は、「ナン」、「ロティ」(全粒粉パン)、プラオ(パスマティライスのピラフ)の3種類からチョイス。

同店独特の作り方だというナン(写真上)をチョイス。日本で好まれている一般的なナンは甘みが強く、もちもちした食感のもの。だが瀬島シェフは、軽くさっぱりした味わいに仕上げるために砂糖を使用せず、ナポリピザ用の粉を使用している。焼きたてはパリパリ、サクサクで、香ばしく軽やか。これを知ったら、もうモチモチの甘いナンには戻れなくなりそうだ。

ランチタイムのカレーは、ぜひともセットで頼むべし!

ランチタイムはカレー専門店として、3種類のカレー(「チキンカレー」「キーマカレー」「マトンカレー」)を提供している。セットにすると、ダル(挽割豆の辛くないカレー)、付け合わせのそうざいの3種がつく。おすすめは断然、セット。

さらりとしたインド南部風の「チキンカレーセット」(写真上)付け合わせのそうざい3種は左から、サブジ(野菜のスパイス炒め)2種、そしてハーブの香るビストロ風の自家製ピクルス。

「ご飯に合う南インドカレー」を目指し、瀬島シェフが完成させたのがこのチキンカレー。カレーソースはご飯に合うようにチキンストックをベースにし、香ばしいココナッツのローストや油でローストしてほろ苦い風味を付けたマスタードシードで南インド風に仕上げている。15種類ほどのハーブやスパイスを合わせた自家製ミックススパイスはフレッシュな香りを活かすために、毎朝、店で仕込んでいるご飯はカレーとの相性を考え、コシヒカリよりさっぱりしていて粒立ちがしっかりしている「秋田こまち」を使用している。

このさっぱりした辛みのカレーをひきたてているのが、たっぷりのダル。ダル好きのダルラーの歓喜の声が聞こえてくるようなたっぷりの量で、チキンカレー、ご飯と混ぜ合わせて食べるとさらに味に深みが増す。

『桃の実』オリジナルで、炒めたタマネギとトマトがベースの「キーマカレー」(写真上)。キーマカレーやマトンカレーは、チキンカレーとは逆に時間を置いてスパイスを馴染ませた方が美味しいので、スパイスを合わせてから1日は寝かせている。こちらはトマトのフルーティな風味を感じるまろやかな辛み。

「ドリンク&デザートセット」を選ぶと、ココナッツミルクと黒糖の蒸しプリン「ヴァタラッパン」(写真上)が楽しめる。カレーの火照りを鎮めてくれるどこか懐かしい、ホッとする甘さだ。

スパイス料理に合う自然派ワインも豊富

ワインは瀬島シェフの好きな、フランス産の自然派ワイン中心。「基本的に、スパイスはワインと合わないと思っているんです。特に味の骨格がしっかりしている王道のワインや、タンニンが強い赤ワインは、スパイス料理の辛みとケンカしてしまいがち。でも自然派ワインはファジーな部分があるので、スパイス料理と一緒に飲んでもふんわり受け止めて、味わいを広げてくれるような気がしています」(瀬島シェフ)

「自分の料理観を出すより、インド料理の性格を強めに出したい」

瀬島シェフが何度も口にしたのが、「インド料理をもう一度、本気で勉強し直したい」ということ。日本インド料理界の若きスタアというイメージの瀬島シェフなので意外に感じる。だが、キッチンでニウレさんの手元をのぞき込み、「ニウレさん、これはどうするの?」と目を輝かせて問いかける瀬島シェフを見ていると、その本気度、心の弾みが伝わってくる。年齢も国も超えたこのフラットな関係のタッグから、全く新しい、この店だけのオリジナルなインド料理が誕生する予感がする。今後もこの店から目が離せそうにない。

【メニュー】
桃の実ディナーセット 4,180円
(前菜4種の盛り合わせ、炭火タンドール料理、カレー)
ラムシークカバブ  1,280円(Sサイズ) ※レギュラーサイズは2,180円

(ランチタイム)
チキンカレーセット 900円 ※カレー+おそうざい3種、単品は900円
キーマカレーセット 1,100円 ※カレー+おそうざい3種 単品は950円
ドリンク&デザートセット 480円
※ドリンクとヴァタラッパンのセット

グラスワイン 660円~
ボトルワイン 4,000円前後~

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込みです。

カレー&オリエンタルバル 桃の実

住所
東京都千代田区神田小川町3-24-17 Sビル B1F~1F
電話番号
03-3868-3238
営業時間
ランチ 11:30~14:30(14:00ラストオーダー)ディナー 18:00~22:00(21:00ラストオーダー)
定休日
日曜日

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。