レストランとパティスリーの垣根を取り払った新星
パティシエまたはパティシエールの方と会ってお話をした際によく耳にする、気になるフレーズがある。
「レストランのお菓子とパティスリー(菓子屋)のお菓子は違うから。」
確かに、レストランで提供されるデザートは、供される直前に用意されてすぐに客に消費してもらう。皿の温度にも気を払う事が出来る。
しかし、菓子屋で提供されるデザートは、消費まで時間があく。温度変化もコントロールできない。購入ののち、移動による衝撃への配慮があって壊れやすいものは出来ない、しかも、最低10分ほどは移動するだろう。その後の行き先で数時間放置されることもあるだろう。ジェラートのような温度変化に敏感なものや食感のよい柔らかすぎるクリームは基本的にNG。
さきほどのフレーズは、要するに「お菓子屋さんで販売されているお菓子には、さまざまな制約を自動的に課されており、作製する側の自由度が低い」という意味なのだ。
この境界線にチャレンジする新星が現れた。その名はYann COUVREUR(ヤン・クーブルー)。
2016年5月20日。パリに新しいパティスリーができた。10区のゴンクール駅の目の前。
このお店は、この何年もパリのパティスリーたちが目指してきたような「高級ファッションブティックや高級ジュエリーショップのような店」とは一線を画す。
10区という様々な文化がごちゃ混ぜになっている区域、若者の多いレプビュリック地域と、パリのブルックリンと称される事もあるベルビル地域の間の、ゴンクール、という立地にもその姿勢が現れている。近くには有名レストランの『シャトーブリアン』やその系列のワインバーがある。
このお店では、有名レストラン出身のシェフパティシエによる、美しくて美味しいケーキが買えるのに加え、その場で盛りつけられるデザートが、持ち帰り又はその場で食べられる。
『レストランで最後に出てくるデザート』をこのように気軽に食べられるのは、嬉しい限り。「甘いものは別腹」、といいつつも「ここ(デザート)からは、もっとおなかに余裕のあるまた別の機会に食べたい!」と思われる世の甘いものラヴァーにはたまらないお店なのではないだろうか。
パリのパティスリーでは、サロンドテ併設のお店も多いが、持ち帰り用の菓子を盛りつけ、クリームを添える程度の事が殆どだ。注文時にゼロから組み立てたケーキや盛りつけをしたデザートを提供するお店は少ない。
北マレでカフェ併設で始まっているパティスリーの『Jacques GENIN(ジャック・ジュナン)』では、北マレ本店のカフェで注文時に作られるミルファイユを食べられるが、このミルファイユの持ち帰りはできない。また、クリームやジェラートを多用した壊れやすいデザートは出していない。
オープンキッチンのパティスリーというのも斬新だ。店内には、オーブンで焼き上がるタルト生地の甘い香りがただよう。工場併設のパティスリー兼サロン・ド・テはあれど、オーブンや盛りつけ行程をこのように見せてはいない。
「ストリートフードのように、自分のデザートまたはお菓子を食べてもらいたい」と、より顧客寄りの、より自由な視点で、カジュアルで親しみやすい雰囲気のこのお店を作ったYann COUVREUR。
レストラン出身ならではの発想で新しいスタイルに果敢にチャレンジしている。32歳の若さとはいえ、実力は折り紙つき。
これまで、le Park Hyatt Paris Vendôme、l’Eden Roc,le Burgundy、Prince de Gallesといった5つ星ラグジュアリーホテル(パラス(宮殿)系ホテル)のレストランでパティシエやシェフパティシエとして長年経験を積んできた。そのため、彼をパラス系パティシエと呼ぶジャーナリストもいる。
彼のスペシャリテの一つであるエクレア(moka-anis)は、コーヒーの味と香りを存分に活かしたもの。ここで提供されるコーヒーも、以前ご紹介したHyppolite COURTYの『L’Arbre à Café』のものだ。
定休日の月曜日以外は朝8時から開いているので、こちらで美味しいヴィエノワズリーと美味しいカフェの朝ごはんを食べることもできる。
オーダーして作ってもらうデザートは12時からですのでお気をつけを。
<メニュー>
バイオーダーのデザート(12時以降) 10ユーロ
エクレア 6ユーロ
その他の持ち帰り用ケーキ 8ユーロから
朝食セットメニュー 9ユーロから
Yann Couvreur Pâtisserie
- 営業時間
- 日・火・水曜 8:00~19:00、木~土曜 8:00~20:00
- 定休日
- 定休日 月曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。