「日本一高く、日本一うまい」を自称する、フレッシュトリュフを使った蕎麦の店――、その名も「トリュフ蕎麦 わたなべ」が2016年11月1日(火)に開店した。場所は大阪・北新地のきらびやかな新地本通りに面したビルの1階。店へとつながる細い通路の突き当たりに『わたなべ』は暖簾を掲げるが、ひとたび扉を開ければ、外の喧騒がまるで嘘のような静寂な店内だ。入店してまず目に飛び込んでくるのは、赤い岩壁のような背面の前に設えられた一枚板のカウンター、そして扇型の金細工に反射するライト、さらにカウンター上にある重厚な溶岩石のプレートだが、そうしたこだわり抜いたインテリアが「日本一高い蕎麦屋」を演出する洗練された空間を形作っている。
国産の二八蕎麦がトリュフにぴったり!
店主は大阪を中心に飲食店を営む大橋徳之さん。『わたなべ』の開店に当たり蕎麦の研究に没頭し、最終的に「二八蕎麦」に辿りついた。「蕎麦粉は季節ごとに変える予定ですが、国産にこだわります。十割蕎麦にせず、二八蕎麦にしたのはトリュフの芳醇な香りを引き立てるため。甘みが強く香りが控えめな国産の二八蕎麦が一番トリュフに合うと思いますね」と大橋さんは話してくれる。
この蕎麦の相方となるトリュフは、その名産地として知られるイタリア・ウンブリア州の「ウルバーニ社」から、イタリアやフランスを中心にフレッシュなものを輸入する。「フレッシュトリュフを通年入手することはとても難しいですが、独自のルートを駆使して仕入れることができるようになりました」(大橋さん)。
トリュフは注文を受けてからスライスし麺の上にこんもりと、そして熱々のつけつゆにも、合計約10gを投入する。その途端、温められたトリュフの芳醇な香りが一気に花開き、サバ・ウルメ・メジカのだしに濃口醤油を合わせたつゆの香りと相まって濃厚な芳香を放つのだ。
それが写真上のトリュフ蕎麦3,800円(トリュフ2倍は+1,000円、蕎麦大盛りは+500円)。じっくりとトリュフの芳香を楽しみたいが、そんな暇はない。つゆが熱々のうちに、添えられた無塩バターを加えて溶かす作業が待っているからだ。バターを入れるかどうかは本人次第だが、キューブ2つくらいが適量だとか。そして素早く、蕎麦の上のトリュフ、さらにその上にトッピングされた金粉ごと、つゆに浸してすすってみよう。すると、バターでコクが出た濃い目のつゆの風味とトリュフの香りが口の中で広がり、そこに包まれるように、コシの強い蕎麦からにじみ出る、やさしい甘みが感じられる。極薄のチョコのようなトリュフの歯ごたえも楽しく、至高の蕎麦にテンションが上がってくること請け合いだ。
蕎麦焼酎、蕎麦ウィスキーが見事に調和
蕎麦のお供には日本酒といきたいところだが、『わたなべ』でぜひ試して欲しいのが九州産の蕎麦焼酎「マヤンの呟き」(写真上・右)とフランス産の蕎麦ウィスキー「EDDU シルバー」(同・中央)である。いずれも蕎麦を原料にした2種で、「マヤンの呟き」はその深いコクとまろみが、そして「EDDU シルバー」はあと口に残る甘さが、トリュフの芳醇さと麺の甘さに見事に調和する。
染錦古伊万里唐草に盛られた逸品たち
『トリュフ蕎麦 わたなべ』でいただける料理は蕎麦だけにとどまらない。かの文豪・池波正太郎も愛したという「蕎麦屋で一献」の粋な愉しみ方として、「蕎麦前」にも力を注いでいるからだ。主役である「日本一高い蕎麦」へと続くプロローグに相応しい、シンプルでいて夢中になるメニューが用意されており、二度、三度と訪れても飽きさせない。そして、その代表格とも言えるのがこちらの「にしん」(写真・上)だ。蕎麦の上汁で炊かれた甘露煮で、細かな骨まで丁寧に取り除かれているので、口にするとホロホロと柔らかく崩れていく。甘くこっくりとした風味だが、大葉や山椒のあと口が爽やか。キリッと辛口の日本酒があれば、ついもうひと口といくらでも食べられそうだ。
蕎麦前の逸品もユニークな料理が勢ぞろいする。写真上は九州産の馬肉を燻製にした「さいぼし」で、大阪・羽曳野の専門業者から仕入れている。提供時に軽く炙るため噛むほどに野性味あふれるうまみと脂味が染み出し、それを生姜醤油のつけだれがさっぱりと引き締めてくれる。しっかりとした歯ごたえも心地よく酒のアテにぴったりだ。
さらに、心にくいメニューが「焼き味噌」(写真・上)だ。西京味噌に、隠し味で赤味噌をブレンドし、そこに大葉やミョウガ、カツオだし、蕎麦の実などが加えられ、濃厚な甘さの後に爽やかさを感じる一品に仕立てている。添えられたスティック状のキュウリをつければ、キュウリの瑞々しさが引き立ち、甘口でも辛口でも、とにかく日本酒が恋しくなる。杯を傾け、味噌をひと舐め、また杯を傾け……という無限ループにはまっていく。
『日本一高い』を自負する仕掛けがもう一つ。それは約150~200年前に焼き上げられたという、染錦古伊万里唐草の器たちだ。色鮮やかな絵付けと作り手の遊び心が感じられるフォルムが、「蕎麦前」のおいしさを上品に引き立ててくれる。アンティークのため時にヒビが入っていることもあるが、それもまた味わい。はるか江戸の食卓に心を馳せるきっかけとなってくれるはずだ。
カウンター内でほほ笑むのは、自ら蕎麦を打ち、その時期に最もおいしい食材を毎日中央卸売市場で吟味して馳走に仕立てる大橋さん(写真・上)。オープンしてからまだ1カ月ほどだが、すでに女性客のファンが多いという。また毎日異なるゲストと同伴で訪れるホステスさんもいるというが、それは北新地ならではのエピソード。しかし、そうまでして足繁く通いたくなるほど、一度味わえば、忘れられないこの味わいと香り。店の構えと反して大橋さんは気さくな人なので、恐れることなく、ぜひ一度暖簾をくぐってみてはどうだろう。ただしカウンター8席で、蕎麦が売り切れると早めに閉店することもあるので予約はお忘れなく。
(取材・文/笹間聖子 撮影/前田博史)
【メニュー】
トリュフ蕎麦 3,800円(トリュフ2倍は+1,000円、蕎麦大盛りは+500円)
トリュフ蕎麦酒あて三種付 4,600円
にしん 600円
さいぼし 800円
焼き味噌 600円
洋風おでん 350円~
酒あて三種 800円
※価格は税抜
トリュフ蕎麦 わたなべ
- 電話番号
- 06-6442-0724
- 営業時間
- 18:00~翌4:00(L.O.3:00)※売り切れ次第終了、予約がベター
- 定休日
- 日・祝日
- 公式サイト
- http://truffle-soba.com/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。