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父に小4で作った"天丼"。 |
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僕は小学校5年生のときから食べ歩きを始めたんです。それには、やむにやまれぬ理由がありまして。じつは、僕のところは祖母も父も母も料理の先生という家で、小4の頃、父に「そろそろワシの料理を作ってみろ」と天丼づくりを命じられたんですね。ところが、それがまずくて叱られて。で、祖母が「いろいろ食べに行こうよ」とまず、天丼の美味しいところへ連れていってくれたのが、食べ歩きの始まりだったわけです。旨いものを食べて舌で味を覚えさせようという、いま考えれば、服部家の立派な英才教育。そして、小5の時僕が美味しいと思った店のご主人に頼んで、祖母がそこの店のレシピを聞き出してくれて、家へ帰ってその味を再現したものです。試行錯誤を繰り返し、かれこれ10回くらい作って、初めて「旨い!」ってほめられました。嬉しかったですね。「旨い!」というときの父の顔見たさに、それからずっと一生懸命にやりましたよ。そのとき食べ歩いた天丼屋さんはもう代も変わって、味も変わってしまいました。そのなかで赤坂の「天茂」だったかなあ、確かお嬢さんが店を継いでやっていると思うんだけど、久しぶりに食べて旨いなあと思ったのは。この他に「みかわ」と「楽亭」が大好きです。 |
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フランス人も仰天のソース。 |
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「シェ・イノ」 (フランス料理/東京・中央区) |
料理の時代もずいぶん変わりましたね。この頃は、料理がファッション化して、料理人のこだわりが違うところに向いているように思います。昔の料理人の情熱はそれこそ半端じゃなくて、本当に手間暇かけて作っていました。フランスでも、いまは労働制度がしかれて、料理人が長いこと働かなくなった。そのせいでフランスの食文化は落ちる一方なんじゃないかと思います。おもしろい話があって、あるときフランス人を井上旭がやっているフランス料理店「シェ・イノ」へ連れていったんですよ。彼はフランスでもなくなってしまったクラシカルなソースをきちんと作っていて「こんなソースがまだ世界に残っていたんだ」とフランス人もびっくり。これほど感動をくれるフランス料理の店(オーナーシェフは、井上 旭氏)、僕は他に知らないなあ。あ、「ピエール・ガニェール」も大好きですよ! |
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変わらぬままの、大人のサロン。 |
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「キャンティ」 (イタリア料理/東京・港区) |
打ち合わせなどを兼ねて、僕がホームグランドのようにしているのは、飯倉にあるイタリアンの「キャンティ」。46年前にオープンして以来、いまでは週に3度は顔を出してる。そう、顔を出してるというのがぴったりで、べつだんイタリア料理をしっかり食べてるわけじゃないのかな。今日はキャベツの線切りある?なんて好きなものを食べさせてくれる、そう、ワガママのきく店なんです。ここはね、ご存じの方も多いでしょうが、開店当初から様々な作家、ミュージシャン、デザイナー、文化人ら、それこそ一流の大人たちの溜り場でね。その頃のテーブルがそのまま置かれていたりしていつでもなつかしく、僕には落ち着くんですね。 |
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プロフィール |
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(学)服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長/医学博士。
服部 幸應
(社)全国調理師養成施設協会会長、(社)全国栄養士養成施設協会副会長。
食育を通じた生活習慣病や地球環境保護の講演活動にも精力的に取り組んでおり、TVなどでも活躍中。
藍綬褒章、厚生大臣表彰、文化大臣表彰及びフランス政府より国家功労勲章及び農事功労勲章受章。
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