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思い出の味は初恋みたいなもの。 |
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「ピー丼」 |
できることなら昔に戻って、もう一度食べたい…そんな思い出の料理は誰にもあると思うけど、僕にとっての一品は"ピー丼"。"ピー丼"は僕が高校時代に通った東京・町田にある中華料理屋「龍門」のおばちゃんが作ってくれた料理。腹を空かせた僕を見ては「田村君、あんた食べるの好きなんだから、しっかり食べなさいよ!」とか言って出してくれましたね。どんなものかというと、ラーメンの丼によそったご飯の上に、ピーマン15個ぐらいを細切りにしたものと、炒めた牛肉がドカンと乗っかった、量が多く野菜もたくさんとれる学生泣かせの料理。炒め物の汁がご飯に染みて、それが旨くって毎日食べたものです。ある日、大盛りを頼んでみたら、6合もの凄まじい量のご飯が特大の丼にぎゅうぎゅうに詰め込んであって。完食したとき、「おばちゃん、今日のはすごかった」って息も絶え絶えにつぶやいたのを今でも覚えています(笑)。卒業してからも学校に遊びに行った時には必ず寄っていたれけど、ある時、「もうおばちゃんたち年だから、ピー丼辞めようと思うの。疲れちゃった」って言われて。今思うと、やっぱりピーマン15個を刻むのは大変だったんだろうなあ。そんな思い出の料理だけど、初恋の人に会いたくないのと同じで、自分で再現して食べても意味がない。あれはあの時、あの場所で、あの空気の中で食べたから旨かったんだから。 |
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旨かったのでお店でも始めちゃいました。 |
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「つきぢ 田村」 (和食/東京・中央区) |
福岡に仕事で行ったとき、仕事先の人が「鯛茶漬け知ってますか?うまいのを出す店があるんですよ」と一軒の店を紹介してくれたんです。どんなのだろう?と期待して行ったら、なんとその店の鯛茶漬けは僕が知っているものと全然違う。ピンク色した鯛がご飯に乗っているかと思いきや、なんとそこのは醤油にドブンと浸けた鯛で真っ黒!九州地方の醤油はたまり醤油で、少し甘みがあるんだけど、それが鯛と茶漬けによくあって、最高に美味しかった。それまでの鯛茶漬けの概念がすっかりくつがえされてしまいました。この味を忘れないうちに、とすぐに帰ってきて作ってみて、それが「つきぢ 田村」で、季節限定で出している"鯛茶漬け御前"です。 |
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京都の風土に心が響く味。 |
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「一久」 (精進料理/京都) |
「京都に10人でも2人でも1日1組しか受けない精進料理屋がある」。昨年の秋、知り合いから聞いて、はたして本当に2人でもやってくれるのか?って不安に思いながら、早速女房と2人で行ってきたんですよ。「一久」という店で、着くやいなやご主人が「今日の料理はお二人のためだけに作りました」ってていねいに迎えてくれて。実際、料理もとてもていねいに作られていて、肉や魚がなくてもこんなに美味しくいただけるのか、感動しました。とくに印象的だったのは"すぐき"。かぶらの仲間の京野菜を自然発酵させたお漬物で、その風味豊かな酸っぱさがなんとも言えなくてね。京都で吹く風が持ってきた土、その土で育った野菜、そしてその土地で育った人が漬けた"すぐき"は、京都で食べるからこそ、本当の旨さが伝わってくる。「一久」に来て、風土を大切にした料理の数かずを頂き、本当に心が満たされました。 |
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プロフィール |
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「つきぢ 田村」若主人
田村 隆
1957年生まれ。「つきぢ 田村」若主人。大阪・高麗橋「吉兆」で修行。
初代の祖父平治、二代目父暉昭から教えを受けた伝統を守るとともに、新しい感覚を積極的に取り入れている。
日本料理研究会師範、NHKテレビ「きょうの料理」講師など料理業界、マスコミを通じて活躍中。
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関連情報 |
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